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志村けんさん死亡~「唯一無二」の存在ゆえの喪失感

竹内豊行政書士
志村けんさんが、お亡くなりになりました。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

「ザ・ドリフターズ」のメンバーでタレントの志村けんさんが29日23時10分に亡くなったことが今朝、報道されました。私自身もそうですが、この報道に、衝撃を受けた方は大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

志村さんの圧倒的な存在感がそうさせると思いますが、相続法の観点からも志村さんの存在の大きさが改めてうかがえることがあります。

「原則」、相続人に引き継がれる

日本の相続法は、包括承継を原則とするので、相続が開始すると(お亡くなりになると)、被相続人(=亡くなった方)の財産に属した一切の権利義務は、例外を除き、すべて相続人が承継します(民法896条)。

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない

「例外」として「相続できないもの」がある

先ほど、相続が開始すると、「被相続人の財産に属した一切の権利義務は、例外を除き、すべて相続人が承継する」と書きました。つまり、「例外」に当たる財産・権利は、相続人は承継できないということです。この承継できない権利義務を「一身専属権」といいます(前掲民法896条ただし書)。

「一身専属権」とは

一身専属権とは、個人の人格・才能や個人としての法的地位と密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使・義務の履行を認めるのが不適当な権利義務をいいます。具体的には次のようなものがあります。

・雇用による労働債務

・特定の建築家による建築物を作る債務

・特定の俳優による舞台に出演する債務

その他、社会保障法上の権利(生活保護受給権、年金受給権、公営住宅の使用権等)など

「唯一無二」の存在

志村さんは、現在も日本テレビ系「天才!志村どうぶつ園」、フジテレビ系「志村でナイト」の週2本のレギュラー番組に出演。30日スタートのNHK連続テレビ小説「エール」にも未発表だが出演が決まっていたほか、今年12月公開予定の「キネマの神様」で映画初主演を飾ることも発表されていたそうです。このような、出演は、依頼者が志村さんの人格・芸など一切を含めて、「志村けんさんだからこそ」依頼したものでしょう。したがって、当然一身専属権に該当すると考えられます。

私を含めて、志村さんがお亡くなりになったことに、喪失感を覚える方が大勢いらっしゃると思います。それは、相続法の観点に立てば、志村さんが唯一無二の存在であり、それゆえに社会に影響を及ぼすほどの「一身に専属する権利義務」をお持ちだったことが理由の一つだからではないでしょうか。

志村けんさんのご冥福を心よりお祈りいたします。

以上参考: 「志村けんさん死去 70歳 新型コロナに感染、闘病も力尽く」(スポニチアネックス)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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