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夫の不倫相手に慰謝料を請求できるとき、できないとき

竹内豊行政書士
配偶者の不倫相手に慰謝料を請求できる法的根拠は何でしょうか。(写真:アフロ)

女優・鈴木杏樹さんと俳優・喜多村緑郎さんの不倫は大きく報道されました。そして、昨日、喜多村緑郎さんの妻・貴城けいさんが、夫の不倫相手である鈴木杏樹さんに対して慰謝料請求を検討しているという報道がありました。(「人生めちゃくちゃ、制裁は受けるべき」“不倫”鈴木杏樹に妻・貴城けいが慰謝料検討

この記事によると、貴城けいさんは2月上旬に知人に次のようにお話をしていたそうです。

「もちろん夫が悪いのは当たり前。でも、私が人生めちゃくちゃにされたなら相手(杏樹)も同じ制裁は受けるべきですよね。まさか自分がこんなことを思う日が来るなんて、本当に辛くて惨めです」

今回は、配偶者の不倫相手に慰謝料を請求できる法的根拠について考えてみたいと思います。

結婚をすると「貞操義務」を負う

配偶者の不倫相手に慰謝料を請求できる法的根拠をみる前に、不貞行為(不倫)はなぜしてはいけないのか法的観点からかんがえてみましょう。

不倫をしてはいけない法的根拠

実は、民法の条文に「結婚をしたら不倫をしてはならない」といった規定はありません。しかし、次のことから、夫婦は相互に貞操義務を負うとされています。

・重婚が禁止されている(民法732条)

・同居協力扶助義務が規定されている(同法752条)

・不貞行為(配偶者以外の人と性的関係を持つこと)が離婚原因になる(同法770条1項1号)

・婚姻の本質は、一夫一婦制である

不倫の判例

そして、判例は夫婦の一方が不貞行為をした場合について次のように判示しています。

「夫婦の一方が不貞行為をした場合には、不貞行為の相手方は、他の夫または妻としての権利を侵害しており、夫婦の他方が被った精神的苦痛を慰謝すべき義務がある」(最高裁昭和54年[1979年]3月30日)

この判例によれば、たとえば、夫が不倫をした場合は、夫の不倫相手は妻としての権利を侵害しているのだから、妻が被った精神的苦痛に対して慰謝すべき義務があるということになります。

不倫をしたときの夫婦関係がポイント

しかし、婚姻がどのような実態にあっても、夫または妻が配偶者以外の人と性的関係を持てば、すべて「夫または妻としての権利侵害」に当たるとして、不法行為責任を認めることが果たしてよいのでしょうか。もし、そうであれば、公平な解決が図れないおそれがあります。

最高裁は、性格の相違や仕事の問題などで夫婦仲が悪化し、夫婦関係調整の調停なども試み、別居した後で、夫が女性と性的関係を持ち同棲するようになった事案で次のように判じました。

「甲(妻)の配偶者乙(夫)と第三者丙(夫の不貞行為の相手方)が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情がない限り、丙は、甲に不法行為責任を負わない」(最高裁 平成8年[1996年]3月26日)。

そして、その理由を次のように述べています。

「丙(夫の不貞行為の相手方)が乙(夫)と肉体関係を持つことが甲(妻)に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為といえるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである」

その上で、判決は、当時、婚姻は既に破綻していたと認定し、妻からの慰謝料請求を棄却しました。

不貞の相手方の不法行為責任の生ずる範囲は限定される

この判決によって、保護法益は「婚姻共同生活の平和の維持」であることが明らかになりました。その結果、婚姻が既に破綻している場合に、第三者が配偶者の一方と性的関係を持ったときには、「婚姻共同生活の平和の維持」という保護法益は既に存在しないのだから、特段の事情がない限り、不法行為責任は否定されるということになります。

このように、この最高裁判決によって、不貞の相手方(たとえば、夫の不倫相手)の不法行為責任の生ずる範囲は限定されました。

「破綻」が先か「不貞」が先か

このように、不貞行為の相手方の不法行為責任が生ずるか否かにおいては、夫婦関係の破綻が先か、それとも不貞行為(不倫)が先かで判断が分かれます。しかし、この判断は困難を伴うことが少なくありません。そのため、「破綻が先か不貞が先か」という不毛の論争・主張が繰り広げられるおそれがあります。

たとえ、相手の夫婦関係が破綻していたとしても、それを客観的に判断するのは容易ではありません。そして、法的にどのような判断が下されても、だれかが傷つくことになります。そのことを忘れないでいてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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