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キラキラネームはなぜ付けられる~「命名の自由」はどこまで許されるのか

竹内豊行政書士
キラキラネームや難読の名前はなぜ付けることができるのでしょうか。(写真:アフロ)

昨日、「氏」(姓)について書いたところ、多くの方に関心を寄せて頂きました。そこで、本日は、「」(名前)について見てみることにします。

名前は自由に付けることができるのでしょうか。そして、名前を変えるにはどうしたらよいのでしょうか。

※「氏」(姓)については、「氏」(姓)が変わるとき~結婚、離婚、離婚後の子どもの氏はどうなる?自由に変えられる?をご覧ください。

命名

名は氏(姓)と結合して個人を識別し、その同一性を示すものです。そして、出生した子の名は命名行為によって決まります。

命名の規定がない

実は、民法には命名行為について規定がありません。戸籍法は、父母その他を出生届出義務者と規定するので(戸籍法52・56条)、事実上、この義務者が命名したものが、その子の名となっています。

戸籍法52条(出生)

1嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。

2嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。

3前二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。

第一 同居者

第二 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者

4第一項又は第二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、その者以外の法定代理人も、届出をすることができる。

戸籍法56条(出生)

病院、刑事施設その他の公設所で出生があつた場合に、父母が共に届出をすることができないときは、公設所の長又は管理人が、届出をしなければならない。

読み方に制限がない

日本語には、ひらがな、カタカナがあり、漢字については常用漢字表(2136字)と人名用漢字表(863字)の合計2999字であれば、自由に組み合わせて使えます。さらに、戸籍の名の欄には漢字の読み方が記載されず、出生届に「よみかた」があるだけです。しかも、その「よみかた」には制限がないため、難解な読み方や、いわゆるキラキラネームを付けることができるのです。明治安田生命が毎年発表している名前ランキングで男の子・女の子のそれぞれの読み方1位は次のとおりです。

明治安田生命名前ランキング2018

男の子読み方1位 はると

陽翔(はると)

陽斗(はると)

晴翔(はると)

女の子読み方1位 ゆい

結愛(ゆい)

夢結(ゆい)

侑衣(ゆい)

そして、ネットでキラキラネームを調べてみると、次のような名前がありました。私は一つも読むことができませんでした。

今鹿=(なうしか)

黄熊=(ぷう)

本気=(りある)

男=(あだむ)

姫星=(きてい)

七音=(どれみ)

心桃=(こもも)

稀星=(きらら)

緑夢=(ぐりむ)

柊斗=(しゅうと)

このように、事実上、命名の自由が認められています。

命名権の濫用

しかし、いくら命名の自由が認められるからといっても、命名権の濫用(民法1条3項)にあたるような場合、たとえば、社会通念上明らかに名として不適切とみられたり、一般の常識から著しく逸脱している場合、または名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には、市町村長は審査権を発動し、名前の受理を拒否することも許されます(東京家八王子支審平6.1.31~父親が子に「悪魔」と命名した事例)。

民法1条(基本事項)

1私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3権利の濫用は、これを許さない。

名の変更

では、命名された名前を自らの意思で変えることはできるのでしょうか。名の変更については、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て変更することができます(戸籍法107条の2)。

戸籍法107条の2(氏名の変更)

正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

正当な事由とは、名が珍名・卑猥・難解である場合、通称名として定着している場合などが挙げられます。個人を識別するのに氏を用いることが慣例化している日本では、名は氏よりも個人の同一性の識別度が低いことから、氏が「やむを得ない事由」がなければ変更の許可が認められないのと比べて比較的穏やかに変更が認められています(戸籍法107条)。

戸籍法107条(氏名の変更)

やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

このように、名に使用できる漢字は決められていますが、読み方に制限はありません。また、命名権の自由は認められていますが、権利の濫用という歯止めはあります。そして、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て名を変更することができます。

名前は原則として一生付き合っていくことになります。名付ける者(多くは親)は、子の将来まで見据えて選定することが必要ではないでしょうか。また、付けられた名前が生きていくうえで支障になるようであれば、法は変更できる道を用意しています。もし、名前についてお悩みの方がいれば、名前の変更を検討するのもよいと思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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