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「氏」(姓)が変わるとき~結婚、離婚、離婚後の子どもの氏はどうなる?自由に変えられる?

竹内豊行政書士
結婚、離婚、養子縁組、やむを得ない事情などで氏(姓)は変わります。(写真:アフロ)

日本人は出生によって氏を取得します。そして、現行制度では、氏(姓)は家族関係の変化に伴って当然に変わる場合があります。また、氏は当時者の意思に基づいて変わる場合もあります。

では、それぞれの場面で氏をどのように取得し、そして変わるのか見てみましょう。

※「名」については、キラキラネームはなぜ付けられる~「命名の自由」はどこまで許されるのかをご覧ください。

氏の取得

日本人は出生によって氏を取得します。そして、氏の取得は、次のように親子関係が基準になります。

・婚内子(父母が婚姻中に出生した子)は、出生時の父母の氏を称し、出生前に父母が離婚していれば、離婚時の父母の氏を称する(民法790条1項

・婚外子は、出生時の母の氏を称する(同条2項

・父母共に不明な子(棄児)は、市区町村長が氏をつける(戸籍法57条2項

民法790条(子の氏)

1嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。

2嫡出でない子は、母の氏を称する。

戸籍法57条

1棄児を発見した者又は棄児発見の申告を受けた警察官は、24時間以内にその旨を市町村長に申し出なければならない。

2前項の申出があつたときは、市町村長は、氏名をつけ、本籍を定め、且つ、附属品、発見の場所、年月日時その他の状況並びに氏名、男女の別、出生の推定年月日及び本籍を調書に記載しなければならない。その調書は、これを届書とみなす。

氏の変動

現行制度では、氏は家族関係の変化に伴って次のように当然に変わる場合があります。

・婚姻により、夫または妻のどちらか一方は氏を改める(民法750条・「夫婦同氏の原則」

・養子縁組により、養子は養親の氏に改める(民法810条・「養親子同氏の原則」

・離婚・婚姻の取消、離縁・縁組の取消により復氏(婚姻または養子縁組によって氏を改めた者が婚姻または縁組前の氏に服すること)する(民法767条1項、749条、808条1項、816条1項

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

民法810条(養子の氏)

養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。

氏の変更

氏は当時者の意思に基づいて次のように変わる場合があります。

民法による氏の変更

子が父または母と氏を異にする場合

子が父または母と氏を異にする場合には、子は自分自身で家庭裁判所の許可を得て、父または母の氏を称することができます(民法791条1項)。子が15歳未満の場合は、法定代理人が子に代わって申立てをします(同条3項)

子が父または母と氏を異にする具体例をご紹介します。

・父母の離婚による一方の復氏

・死亡による生存配偶者の復氏

・父または母の再婚

・父母が養子になる

・父母が婚姻をしていない

こうして氏を改めた未成年の子は、成年に達してから1年以内であれば、届出によって従前の氏に復することができます(同条4項)。

民法791条(子の氏の変更)

1子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。

2父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。

3子が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前2項の行為をすることができる。

4前3項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。

その他、生存配偶者の復氏(民法751条1項)、離婚復氏者の婚氏続称(民法816条)、離縁復氏者の縁氏続称(民法816条)があります。

戸籍上の氏の変更

やむを得ない事由がある場合

次のようなやむを得ない事由がある場合には、戸籍法により氏を変更することができます(戸籍法107条1項)。

・珍奇・難解な氏

・内縁関係で長年、相手方の氏を通称として使っていた場合

・元暴力団員として周知されている者が更生するのに必要と認められる事情がある場合

・離婚に際し婚氏続称の届出期間を超えた者の婚氏への変更

・婚氏続称した者の婚姻前の氏への変更

また、外国人と婚姻した者は、婚姻の日から6か月以内に限り、届出によって外国人配偶者の称している氏に変更することができます(戸籍法107条2項)。ただし、カタカナ・漢字などの日本文字でなければなりません。その後、離婚や死別した場合には、3か月以内に限り、届出によって元の氏に変更することができます(同条3項)

戸籍法107条(氏の変更)

1やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

2外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から6箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

3前項の規定によつて氏を変更した者が離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日以後にその氏を変更の際に称していた氏に変更しようとするときは、その者は、その日から3箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。

4第1項の規定は、父又は母が外国人である者(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く。)でその氏をその父又は母の称している氏に変更しようとするものに準用する。

日頃、当たり前のように使っている氏ですが、以上見てきたように、家族関係の変化などによって複雑に変わってきます。また、女性の社会進出等によって、選択的夫婦別姓制度の議論が高まるなど、時代や社会の要請によっても今後制度が変わるかもしれません。

以上参考:『家族法・第5版』(二宮周平著、新世社)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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