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葬儀費用について知っておきたいこと~だれが支払う?香典は充当できる?

竹内豊行政書士
葬儀費用はいったい誰が支払うべきなのでしょうか。香典を使ってもよいのでしょうか。(写真:アフロ)

日本消費者協会の調査によると、葬儀にかかる費用の総額は約196万円となっています。

では、葬儀費用はいったい誰が支払うべきなのでしょうか。実は、民法には、葬儀費用を負担すべき者は定められていません。そのため、親族間で「葬儀費用をだれが支払うのか」をめぐって争いが生じることがあります。

そこで今回は、葬儀費用のトラブルを未然に防ぐために知っておきたい情報をご紹介します。

だれが負担するのか

葬儀費用は一体だれが負担すべきなのでしょうか。裁判例を参考に見てみましょう。

裁判例1~「実質的な葬儀主宰者」が負担するとした事例

一般に、葬儀費用は、葬儀を主宰する者が負担すべきであると解されている。たとえば、葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担すると解するのが相当であるというべきである。そして、葬式を実施した者とは、葬式を主宰した者、すなわち、一般には、喪主を指すというべきであるが、単に、遺族等の意向を受けて、喪主の席に座っただけの形式的なそれではなく、自己の責任と計算において、葬儀を準備し、手配等をして挙行した実質的な葬式主宰者を指すというのが自然であり、一般の社会観念にも合致する(東京地判昭和61・1・28)

裁判例2~負担者は、条理(筋道)に照らして判断する

「葬儀費用の負担は、当該地域や親族間の慣習などを考慮し、条理に照らして判断するほかなく、単に被葬者の扶養義務者であったとか、最近親の血族であったことだけで負担者にされることはない」として、喪主(被葬者のひ孫)から養子夫婦に対する葬儀費用の求償請求が棄却された事例(東京地判平成6・1・17)

裁判例3~「葬儀を自己の責任と計算において挙行した者」が負担する

葬儀は、死者を弔うために死者に所縁のある者が行うものであるから、葬儀の費用は相続債務とみるべきではなく、葬儀を自己の責任と計算において挙行した者(主に喪主)の負担となる(神戸家審平成11・30)。

以上3つの事例から葬儀費用を負担する者は個々の事情に応じて決めると考えられますが、基準としては「葬儀を自己の責任と計算において挙行した実質的な葬式主宰者」(一般的に喪主)が負担すると考えられます。

香典を葬儀費用に充てることはできるか

では、葬儀で参列者から頂く香典を葬儀費用に充てることはできるのでしょうか。

香典は相続財産ではない

香典は、死者への弔意、遺族へのなぐさめ、葬儀費用などの遺族の経済的負担の軽減などを目的とする、祭祀主宰者への贈与と考えられています。したがって、相続財産には含まれません。

香典を充当する

そこで、一般には葬儀費用に充当し、余りがあれば、祭祀主宰者が以後の供養・祭祀などに用いることができるとされています。

記録を残しておく

これは葬儀に係る費用全般に言えることですが、香典をはじめとしたお金の出し入れはきちんと記録を残しておきましょう。後々のトラブル防止につながります。

遺産分割前の払戻し制度を利用する

40年ぶりに改正された改正相続法で「遺産分割前の払戻し制度」が創設されました。この制度を活用することで、遺産分割協議が成立する前でも同一の金融機関に対して150万円を限度として相続人であれば単独で払戻しを請求することができるようになりました。この制度を活用して払い戻した金銭を葬儀費用に充当することができます。この制度について詳しくは、ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.4~葬儀費用がすぐ引き出せる「遺産分割前の払戻し制度」をご覧ください。

なお、この場合、葬儀費用を支払った相続人は、払戻しをした金銭で葬儀費用を支払ったことを証明する書類(領収書、明細書等)を葬儀会社から必ず発行してもらいましょう。後に行う遺産分割協議で必要な資料となります。

情報開示がカギ

葬儀費用の支払は相続人の間で情報開示して明朗会計で行いましょう。そうすればもめごとも起きずにお亡くなりになった方も安心して天国にいけるでしょう。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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