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親の「遺言書」を見つけ出す方法~遺言の有無で相続はガラッと変わる

竹内豊行政書士
亡き親が遺言書を残したか調べる方法があります。(写真:アフロ)

ジャニー喜多川さんが今月7月9日にお亡くなりになりました。マスコミは故人の功績を報じるとともに、300億円とも伝えられる遺産の行き先や遺言の有無を憶測する報道も流れています。

実際に、遺言の有無によって遺産の行く先は大きく左右されます。そこで、今回は、親が死亡したときに遺言書を見つけ出す方法を、公正証書遺言と自筆証書遺言のそれぞれについてご紹介します。

「公正証書遺言」の見つけ方

公正証書遺言とは、遺言を作成する人(=遺言者)が、公証役場に行くか、公証人に出張を求めて、公証人に作成してもらう遺言です。

コンピューターで管理されている

全国の公証人会および公証人(注1)をもって組織された団体である日本公証人連合会は、昭和64(1989)年1月1日(ただし、東京都内の公証役場で作成されたものに限り、昭和56(1981)年1月1日)以降に全国の公証役場(注2)で作成された公正証書遺言の「公証役場名」「公証人名」「遺言者名」「作成年月日」等をコンピューターで管理しています。このシステムを遺言検索システムといいます。

(注1)公証人:法務大臣から任命された法律の専門家

(注2)公証役場:公証人が執務する事務所のこと。全国に約300箇所ある。

請求できる者

秘密保持のため、相続人等利害関係者のみが公証役場の公証人を通じて照会を依頼することができます。

請求先

全国どの公証役場でも照会できます。なお、照会する場合は、事前に公証役場に予約を入れることをお勧めします。

必要書類

遺言検索システムを利用する場合は、次の書類が必要です。

戸籍謄本

~亡くなった人が死亡したという事実の記載があり、かつ、亡くなった人との利害関係を証明できる記載のあるもの

身分証明書

~運転免許証等顔写真入りの公的機関の発行したもの

結果の通知

結果は、照会して数分後に判明します。遺言が有る場合は、改めて遺言者が作成を依頼した公証役場に公正証書遺言の正本または謄本を請求することになります。この場合も、公証役場に予約を入れた方がよいでしょう。

なお、前述の検索期間より以前に作成された公正証書遺言については、当たりを付けた公証役場に個別に問い合わせるしかありません。その場合は、被相続人(=亡くなった方)の住所や職場の近くの公証役場から照会するのがよいでしょう。

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押して作成します(民法968条1項)。

以前は、財産目録も含めた全文を自書、すなわち自分で書かなければなりませんでしたが、約40年振りの相続法改正により、今年の1月13日から、財産目録については自書する必要がなくなりました(ただし、その目録の各ページに署名し、印を押さなければならない)(民法968条2項)。

探し出すしかない

自筆証書遺言は公正証書遺言のような管理制度はありません。そのため、亡き親の自筆証書遺言は心当たりのある場所を探すしかありません。仏壇や机の引き出し、貸金庫からひょっこり出てくることもあるそうです。

保管制度が設けられる

このように、自筆証書遺言は自己責任で保管するしかありませんでした。しかも、遺言の効力が発生するとき、すなわち遺言者が死亡した時には、当然ですが本人に遺言の有無や、遺言を保管した場所を聞くことはできません。そのため、せっかく残した遺言書が発見されずに相続人の協議に基づいて遺産が分割されてしまったり、遺産分割協議が成立した後に、ひょっこり遺言書が出てきて相続を混乱に陥れることもありました。

このような自筆証書遺言の弱点を補うことを目的として、平成30(2018)年7月6日に法務局における遺言書の保管等に関する法律(=遺言書保管法)が成立しました。

遺言書保管法によって、遺言者が、公的機関である法務局に遺言書の原本を委ねることができるようになります。そして、遺言者の死後に死亡した者の相続人、遺言書で受遺者と記載された者、遺言書で遺言執行者と指定された者等は、遺言書保管官(=遺言書を保管している遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局又は地方法務局の長が指定する者)に対し、その遺言書の閲覧を請求することができます。

施行は来年7月10日

遺言書保管法は令和2(2020)年7月10日に施行されます。その日以前に法務局に自筆証書遺言を持ち込んでも法務局は受け取りません。したがって、施行日までは今まで通り自己責任で保管するしかありません。

遺言者の生前は確認できない

今回ご紹介した遺言検索システムと遺言書保管法による遺言書の閲覧は、当然のことですが遺言者の生前は活用できません。

遺言書の有無によって相続は大きく影響されます。親の遺産分けをするときに、遺言の有無が気になる場合は、今回ご紹介した制度を活用してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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