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「令和元年4月1日」「平成31年5月1日」は有効?無効?~遺言の日付

竹内豊行政書士
遺言の日付は重要です。では、「令和元年4月1日」は有効・無効どちらでしょうか。(写真:アフロ)

内閣は元号法第1項の規定に基づいて、「元号を令和に改める」という「元号を改める政令」(政令第143号)を公布しました。

そして、この政令は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成29年法律第63号)の施行の日(平成31年4月30日)の翌日、つまり「5月1日から施行する」とされました。

この「元号を改める政令」(政令第143号)は平成31年4月1日に公布されました。そのため、公布日の平成31年4月1日のマスコミの街頭インタビューでは、「令和は4月1日から」と勘違いしている方も少なからずいらっしいました。

日付は遺言で重要

自分で書いて残す自筆証書遺言は民法で次のように方式が決められています(民法968条)。

民法968条(自筆証書遺言)

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

このように、「日付」を自書(自分で書く)することが課せられています。

「日付」を自書しなければならない理由

遺言者(=遺言書を残した人)の遺言能力(注)の有無を判断したり、内容が抵触する複数の遺言書の先後を確定させる際の基準として日付は重要な役割を果たします。

(注)遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力のこと。民法は、15歳以上になれば遺言能力があるものと定め(民法961条)、遺言能力は遺言作成時に備わっていなければならないとしている。

年月日が特定できればよい

遺言書に「令和元年5月1日」といったように年月日が正確に記載されていれば問題ないのですが、判断に迷う次のような記載が原因で、もめごとになるケースが実際にありました。

・「昭和48年」と書くべきところを「昭和28年」と書いてしまった。

・「昭和」と書くべきところを「正和」と書いてしまった。

・「平成十二年一月十日」と書くべきところを「平成二千年一月十日」と書いてしまった。

以上ご紹介した事例はいずれも有効とされました。その理由は、「遺言に記載された日付が事実の作成日付と相違しても、その誤記であることおよび真実の作成の日付が、遺言書の記載その他から容易に判明する」というものでした。つまり、作成した日付が「容易に特定できるか否か」がポイントになります。

「令和元年4月1日」「平成31年5月1日」は有効か無効か

あくまでも私見ですが、先にご紹介した裁判例に基づいて判断すれば、「令和元年4月1日」「平成31年5月1日」はそれぞれ次のように解釈されて「有効」と判断される可能性が高いと思われます。

・「令和元年4月1日」=「平成31年4月1日」

・「平成31年5月1日」=「令和元年5月1日」

「令和元年5月吉日」は有効か無効か

では、「新元号になったことは誠にめでたい」ということで、令和元年5月1日の大安の日に遺言を残して次のように日付を残したらどうでしょうか。

・令和元年五月吉日

これはいわゆる「吉日遺言」とよばれるものです。令和元年5月には、大安の日が次のように6日あります。

・5月1日

・5月6日

・5月12日

・5月18日

・5月24日

・5月30日

そのため、作成した日付が容易に特定できません。したがって、「無効」と判断される可能性が極めて高いと言わざるをえません。

「日付」は正確に

日付にかかわらず、「どのように解釈すればよいのか?」と判断に迷う遺言はもめごとの原因になるおそれがあります。

元号が令和に変わったことをきっけに「遺言を残そう!」と思っている方は、せっかく残した遺言が“争族”の火種にならないように、日付は「年月日」を正確に残してください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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