Yahoo!ニュース

「成人」になると何が変わるのか

竹内豊行政書士
1月14日は成人の日。成人になると今までと何が変わるのでしょうか。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

1月14日は成人の日。総務省統計局によると、126万人の新成人が誕生します。そこで、今回は、主に民法の観点から、成人になることの意味を考えてみることにします。

成人年齢はなぜ20歳なのか

そもそも、成人年齢はなぜ20歳なのでしょうか。

明治9(1876)年の太政官布告によって、日本で初めて成人年齢を20歳と定められました。江戸時代は地域によってばらつきがあったという。その太政官布告を引き続いで明治29(1896)年制定の民法(明治29年法律第89号)は、「成人は20歳」としました。

20歳とした理由は定かではありませんが、当時の日本人の平均寿命や精神的な成熟度などを考慮した結果が理由の一つと考えられます。

成人になるとは

成人になるということは、すなわち今までの未成年者から成年(法律では、成人のことを「成年」といいます)になることを意味します。

そこで、まず未成年者について考えてみましょう。

未成年者とは

民法は、出生の日から起算して満20歳に達した者を成年としています(民法4条)。

4条(成年)年齢20歳をもって、成年とする。

そして、成年に達しない者、すなわち満20歳に達しない者が一律に、かつ、当然に未成年者となります。

未成年者は「制限行為能力者」

民法は、未成年者を完全に有効な契約はなしえないという制度を設けています。この制度を行為能力制度といいます。

行為能力制度の対象者は、未成年者の他に、成年被後見人、被保佐人、被補助人がいます。

これらの者は、有効に行為をする能力(行為能力)を制限されているのです。(「制限行為能力者」と呼ばれます)。これは逆に言えば、それ以外の者は完全な行為能力を持つということになります。

未成年者は親の「同意」が必要

未成年者が法律行為(意思内容通りの効果が生じる意思表示と定義されます。契約がその典型例です)をするには、法定代理人(通常は両親)の同意が必要です(民法5条1項)。

そして、同意のない行為は取消可能となるのが原則です(民法5条2項)。例外は民法5条3項・6条の場合である(民法5条3項は、「こづかい」の範囲では契約できるということです)。

5条(未成年者の法律行為)

1.未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

2.前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

3.第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

6条(未成年者の営業の許可)

1.一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。

2.前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第4編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

未成年者と成年者の違い

以上見てきたことから、未成年者と成年者の違いは民法の観点から次のようになります。

未成年者

・単独で契約を締結することができない

・親権に服する

成年者

・単独で契約を締結することができる

・親権に服することがなくなる

未成年者は、単独で契約ができないという不自由はありましたが、その反面、親の下で守られていたといえます。一方、成年者になると、単独で契約ができるようになりますが、親の保護はなくなります。つまり、「責任が重くなる」ということです。

具体的には次のようなことが単独で行なうことがでるようになます。

・携帯電話、クレジットカード、ローン等の契約

・民事裁判

・雇用契約の締結 など

成人年齢に関わる主な法律

未成年と成人に関わる主な法律をご紹介します。

・年齢20歳をもって、成年とする(民法

・未成年者取消権(未成年者が親権者等の法定代理人の同意を得ずに締結した契約は、事業者の行為の不当性の有無にかかわらず、取り消すことができる権利)の対象から外れる(消費者契約法

・喫煙できる(未成年者喫煙禁止法

・酒類を飲酒できる(未成年者飲酒禁止法

・馬券を購入できる(馬券法

・車券を購入できる(自転車競技法・小型自動車競技法

・舟券を購入できる(モーターボート競走法

・水先人を養成する講師になれる(水先法

・社会福祉主事になれる(社会福祉法

・海技免許取得のための講師になれる(船舶職員及び小型船舶操縦者法

・有効期間10年のパスポートを取得できる(旅券法

・電子通信移行講習の講師になれる(船舶安全法

・性別の変更を裁判所に申し立てることができる(性同一障害特例法

・重国籍を持った時点で、20歳未満の者は22歳になるまで、20歳以上の場合は2年以内にいずれかの国籍を選択する(国籍法

成年年齢が18歳に引下げられる

昨年、平成30年6月13日、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました(2022年4月1日から施行)。

 

成年年齢の見直しは、冒頭にご紹介した明治9年の太政官布告以来、実に約140年ぶりです。この改正は、18歳、19歳の若者が自らの判断によって人生を選択することができる環境を整備するとともに、その積極的な社会参加を促し,社会を活力あるものにする意義を有するものと考えられます(成年年齢引下げについて詳しくは法務省ホームページを参照)。

このように、成年になると、単独で法律行為を行うことができるようになります。そのことは責任が重くなることを意味します。万一、トラブルになっても、原則自分自身で切り抜けなければなりません。

新成人の方には、大胆かつ慎重にこれからの人生を謳歌して頂きたいと思います。

頑張れ!新成人

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事