Yahoo!ニュース

夫婦の財産関係~夫の財産、妻の財産はだれのもの?

竹内豊行政書士
結婚生活を円満に継続するには、夫婦間の財産について知っておくことは重要です。(写真:アフロ)

婚姻は共同生活です。したがつて、夫婦のお互いの財産が共同で使用され、お互いの協力で財産が形成されます。

言うまでもなく、結婚生活を円満に継続するにあたって、財産は重要です。今回は、民法が定めている夫婦間の財産関係をみてみることにします。

民法が定める夫婦財産制の枠組み

民法では、夫婦は独立・対等な法主体だから、各自の責任で権利を得、義務を負うのが原則であるとしています。そして、夫婦の財産関係についても、自分たちで自由に取り決めて解決すればよいというスタンスに立っています。

そこで、夫婦はまず「夫婦財産契約」を結ぶことができるとしています(民法755条)。

そして、この契約を結ばなかったときに、法定の夫婦財産制度(民法760条「婚姻費用の分担」・761条「日常の家事に関する債務の連帯責任」・762条「夫婦間における財産の帰属」)が適用されることになります。

夫婦財産契約(民法755条)~夫婦は、婚姻前に夫婦財産契約を締結できる

夫婦財産契約の内容について制限はありません。しかし、夫婦の平等や婚姻の本質に反するような契約は当然ながら無効です。民法は、「夫婦財産制」として次の条文を用意しています。

755条(夫婦の財産関係)

夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

原則変更不可

夫婦財産契約は、婚姻届出前に締結して、その旨登記しておかなければなりません(民法756条)。

756条(夫婦財産契約の対抗要件)

夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

しかも、婚姻届での後は、原則として変更もできません(民法758条1項)。

758条(夫婦の財産関係の変更の制限等)

夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。

契約率は0.0025%

このように、夫婦間財産契約を締結するには、登記をするなど煩雑な手続きをしなければならず、しかも、結婚してみて、こうした方がよいと思ったときは、財産契約を結んだり、変更できないという制度上の欠陥があります。ここ10年の夫婦財産契約の登記件数は次のとおりです。

夫婦財産契約の登記件数

平成29年 15件

平成28年 23件

平成27年  6件

平成26年 10件

平成25年 12件

平成24年 10件

平成23年 10件

平成22年 13件

平成21年 4件

平成20年 6件

e-Stat(総務省統計局)による

平成30年(2018)人口動態統計によると、平成29年度の婚姻件数は、606,866組です。したがって、夫婦財産契約の登記件数は、わずか0.0025%に止まります。

法定の夫婦財産制度(民法760・761・762条)~ほとんどの夫婦に適用される

このように、夫婦財産契約を利用する夫婦は極わずかです。したがつて、ほとんどの夫婦には法定の夫婦財産制度が適用されます

夫婦財産制の枠組み

夫婦財産制は、夫・妻それぞれ自分の財産は自分に帰属し、自分で管理する夫婦別産制をとり、各自が自己の収入から生活費を支出し、家庭生活に必要な債務をお互いの連帯債務としています。

1.夫婦別産制(民法762条)~夫の物は夫の物、妻の物は妻の物

夫婦別産制とは、婚姻前から有する財産および婚姻中に自己の名で得た財産は、その人の特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)としてその人に帰属する精度です(民法762条1項)。具体的には次のような財産が該当します。

・相続

・贈与

・自分の財産からの収益

・自分で代価を払って購入した財産

・自分で働いて得た賃金 など

そして、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、夫婦の共有と推定します(同条2項)。

この制度では、「夫が稼いだものは夫のもの、妻の稼いだものは妻のもの」となります。

762条(夫婦間における財産の帰属)

1.夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2.夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

2.婚姻費用分担義務(民法760条)~夫婦それぞれが各自の収入に合わせて生活費を支出する

夫婦には同居協力義務があります(民法752条)。

752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この義務に対応して、婚姻共同生活から生じる費用は、夫婦各自がその資産・収入その他一切の事情を考慮して分担します(民法760条)。

760条(婚姻費用の分担)

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

その費用は、家事労働という現物出仕の形でももちろんよいです。したがって、夫は生活費を入れ、妻は家事をするという役割分業でも、婚姻費用分担の一方法になります。

婚姻費用の内容

夫婦が未成熟子との家庭生活を営む上で必要な費用であり、その財産・収入・社会的地位に相応した誠意活費を意味します。具体的には、次のようなものが該当します。

・夫婦の衣食住

・教育娯楽

・子の養育費 など

しかし、一体的な家庭生活の維持費用とする以上、次のような人の生活費も婚姻費用に含まれます。

・親や成人した子

・相手方配偶者の親・連れ子と共同生活をしている場合には、これらの人

「へそくり」は夫婦の共有財産

婚姻費用として拠出された財産があまった場合、あるいは貯蓄された場合には、それらは夫婦の共有財産となります。したがって、妻または夫の「へそくり」も夫婦の共有財産となります。

「小遣い」は自由に使える

婚姻費用として拠出する必要のなかった財産および夫婦共同生活の中で、合意で認められた小遣いについては、各自が自由に使用・処分できます。

3.日常家事の連帯債務(民法761条)~日常家庭生活の債務はお互いの責任

夫婦の一方が、日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他方は、これによって生じた債務につき連帯してその責任を負わなければなりません(民法761)。

761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)

夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

夫婦の平等の原則の下では、日常の家事も夫婦共同の仕事である。だから、それに伴う債務も共同の債務とすべきである。また法律行為の相手方も、日常家事に関する取引については、夫か妻かではなく夫婦双方を相手方と考えるのが普通である。したがって、第三者保護のために、夫婦の共同責任(連帯責任)としたという理屈です。

別居中の連帯責任

夫婦が、単身赴任や入院などのやむをえない事由で別居している場合には、この連帯責任はそのまま生じます。

しかし、夫婦関係が破綻していて別居している場合には、共同生活関係は消滅し、共同の日常生活もないため、連帯責任は生じないと解されます。また、夫婦の一方が特定の第三者に対して他方の債務について責任を負わない旨をあらかじめ告知していた場合にも、連帯債務を免れます(民法761条ただし書き)。

日常家事の範囲

婚姻生活を営む上で日常必要とされるもので、具体的にはつぎのようなものが挙げられます。

・衣食住の生活資材の購入

・子の養育費に必要なもの

・家族の教養娯楽保健費用 など

結婚生活は愛情がなければ夫婦関係は成立しません。しかし、「金の切れ目が縁の切れ目」というちょっと嫌な感じのことわざがあるとおり、夫婦関係を円満に継続するには「お金」が欠かせないのも事実。

来るべく2019年は愛情溢れ夫婦間の財産でもめることのないご家庭が今年以上に増えますようにお祈りいたします。

来年も「家族法で人生を乗り切る」をテーマに「知っていてよかった」という情報をお届けいたします。今年1年間、お読み頂き誠にありがとうございました。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事