Yahoo!ニュース

親の相続を円満に終わらせる「二つ」の準備

竹内豊行政書士
親の相続を円満に終わらせるには「二つ」の準備がカギを握ります。(写真:アフロ)

いつかはやってくる親の相続。円満にしかも速やかに相続手続を終わらせたいものです。今回は、親の相続を円満に「あっ」という間に終わらせる「二つ」の準備をご紹介します。

相続手続を行うための二つの「前提条件」を知る

相続手続を行うに当り、次の二つが「前提条件」になります。つまり、どんな相続でも次の二つを確定しなければ相続手続を行うことができません。

1.相続人の範囲の確定

2.相続財産の範囲と評価の確定

「相続人の範囲の確定」は、誰が相続人になるのかを戸籍で証明します。そのために、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本と相続人の戸籍謄本を収集しなければなりません。一般的に完了するまで1~2か月か月程度かかります。

「相続財産の範囲と評価の確定」は、被相続人が残した財産が何かということと、その財産の評価がどのくらいかを調査します。

以上の二つの前提条件を証明する資料を収集したうえで、「誰が」「何を」「どれだけ」取得するのかを相続人全員で話し合って決めることになります。この相続人全員での話し合いを「遺産分割協議」といいます。

いずれも手間と時間がかかる厄介な作業です。通常、作業開始から完了まで2~3か月程度かかります。

実は、この作業を「あっ」という間に終らせるための準備があります。親の生前に準備をしておくのです。

親の相続人がだれになるかを把握する

親の現段階での相続人がだれかを戸籍謄本を収集して確認しておきます。親の出生から現在まで戸籍謄本を集めておきます(戸籍法10条)。

このことを行っておけば、いざ親の相続が発生した時には、親が死亡したことが記載されている戸籍謄本と他の相続人の戸籍謄本を取得すれば足ります。戸籍謄本の取得に要する日数は大幅に削減できます。

なお、戸籍謄本に有効期限はありません。

戸籍は重要な個人情報が記載されています。戸籍を請求する際には、請求する者の身分証明書を提示するなど厳格なルールがあります。詳しくは法務省ホームページをご覧ください。

戸籍法10条

1.戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第二十四条第二項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。

2.市町村長は、前項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。

3.第一項の請求をしようとする者は、郵便その他の法務省令で定める方法により、戸籍謄本等の送付を求めることができる。

親の財産を可能な範囲で把握する

1.不動産

法務局に登記事項全部証明書(登記簿謄本)を請求して確認できます。全国どの法務局でもかまいません。わざわざ法務局に出向かなくても郵送請求できます。

2.金融資産

取引のある金融機関を把握しておきます。「○○銀行□□支店」「△△証券◎◎支店」程度の情報で十分です。

金融機関名さえ分かっていれば、いざ親の相続が発生した時に、相続人であれば単独で(他の相続人の同意を得ないで)各金融機関に「残高証明書」「取引明細書」を請求できます。なお、その際に「被相続人(死亡した親)の出生から死亡までの戸籍謄本」と「請求する相続人の戸籍謄本」が必要になります。

以上「二つの準備」を親の生前にしておけば、いざ親の相続が発生した時にあわてずに済みます。また、相続手続が速やかに完了します。

相続人同士がもめる“争族”の原因の一つに「思うように進まない相続手続」があります。円満な親子や兄弟姉妹の関係も、実際に親(配偶者)の相続が発生すると「いろいろと思うこと」があってもめることがめずらしくありません。また、相続人の配偶者など“部外者”が余計な口をはさみだして遺産分割協議(相続人同士の遺産分けの話し合い)を混乱に陥らせてしまうこともよくあります。

相続を“争族”にしないためには「速やかな相続手続」がポイントになります。ぜひ、ご紹介した「二つの準備」を実行していつかは訪れる親の相続を円満に済ませてください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事