3歳児健診の「憂鬱」~我が子の発達が気になる保護者の方へ~

3歳児健診には、事前に家庭で行う複雑な一次検査がある。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 皆さんは、乳幼児健康診査をご存知でしょうか。子育て経験のある方なら、自治体から案内が届き、地域の保健センターや交流センターなどにお子さんを連れて健診を受けに行ったことがあるのではないでしょうか。広い空間に、パンツ一丁かオムツ一丁の小さな子ども達が大勢ワイワイガヤガヤと順番待ちをしている、あの乳幼児健診です。

 わが国では、母子保健法を根拠として、市町村は1歳6か月児及び3歳児に対して健康診査を行う義務があり、法定健診とも呼ばれます。厚生労働省「地域保健・健康増進事業報告」(平成29年度)によると、その受診率は1歳6か月児健診96.2%、3歳児健診95.2%と、非常に高い受診率を誇る日本の優れた母子保健のシステムと言えます。乳幼児健診には、市町村の保健センター等で行う集団健診と、医療機関に委託して行う個別健診があり、法定健診のほとんどは集団健診で実施されているようです。

 筆者自身も2児の子育て中であり、ちょうどこの法定健診にあたる3歳児健診に行く機会がありました。思えばもう2回目なのですが、毎度“あること”にとても驚くので、記事に残しておくことにしました。

4歳になる月まで受診可能 しかし実施は平日のみ

 我が国の乳幼児健診の受診率がとても高いことは大学で発達心理学を学んでいた時から知っていたので、うちも当然受診する心構えではありました。しかし通知書類を見ると、実施日は月に2回、いずれも平日の真昼間でした。共働き世帯が6割を超える昨今、平日昼間の健康診査が95%の受診率を誇っていることの凄さを改めて感じました。3歳児健診といっても、「満三歳を超え満四歳に達しない幼児」と法規上も時期には幅があり、筆者の住む自治体では主に3歳6ヶ月児を対象とし、満4歳になる月まで受診が可能とのことでした。乳幼児の発達に自分はわりと詳しいという要らぬ自信や仕事の調整の面倒さから先延ばしにするうち、3か月ほどが経過。市役所から電話が入り、あと2か月のうちに必ず受診してください、待っていますと催促をされてしまいました。危うく我が国の誇る高い受診率を引き下げるところだった、我が子の発達の重要な確認の機会を逃すところだったと反省し、すぐにスケジュールを押さえました。

 本記事では詳しく触れませんが、実際には、残りの4.8%の「未受診」児の把握とアウトリーチの継続的サポートが非常に重要なのだと思います。厚生労働省の「乳幼児健康診査事業実施ガイド」にも、「乳幼児健診の未受診者の中から子ども虐待による死亡などの重大事例が報告されていることから、未受診者の把握は重要である。把握の期限を定め、直接児を確認する必要がある」と記載があります。

家庭で行う視力聴力検査?!

 さて、話を戻しますが、筆者が毎回驚くのはその先です。

 いよいよ3歳児健診当日を迎えました。健診は午後からですが、念のため朝から休暇をとりました。通知の書類を郵便物の奥深くから何とか発掘したものの尿検査の提出用容器を紛失していたことはさておき、改めて書類に目を通すと、問診票やアンケートの記入に加え、視力と聴力の一次検査は「家庭で実施」し、調査票に記入をして健診時に提出するように、とのことでした。2度目のことながらこの骨の折れる事前準備の存在をすっかり忘れて当日を迎えた自分を呪いましたが、念のため朝から休暇をとったのは不幸中の幸でした。

 中でもこの視力検査の内容はとても高度なことを家庭に求めています。以下のような非常に分かりやすい挿絵とともに、視力検査の実施方法と、自分で切り取って使うランドルト環が印刷してあります。(挿絵は、自治体の配布物ではありますが念のため著作権に配慮して筆者が似た図を描きました。)

家庭で行う視力検査の実施方法
家庭で行う視力検査の実施方法

 子どもを椅子に座らせ、片目をティッシュと絆創膏で塞ぎ、回答用の大きなランドルト環を持たせます。2.5m離れたところに親が立ち、見本用のランドルト環を上、下、右、左、いずれかに向けて提示し、「このまるどこが切れているかな?あわせっこしようね」と促すというものです。

実はとても複雑な発達的課題を含んでいる

 皆さんはこれを、単純な視力検査だと思われるでしょうか?日頃から発達の気になるお子さんへの個別支援に携わっている感覚からすると、なんと多くの発達的要素を含む高度な内容かと驚きました。この検査は、「視力検査」と言いながら、以下に挙げるような複数の課題を含んでいます。

1. 突然大人から提案されるやったことのない活動にモチベーションを持って参加できる(社会性・大人の促し方)

2. 片目を隠すためのティッシュを絆創膏で目元に貼られることに耐えられる(感覚)

3. 大人から離れて、椅子にじっと座っていられる(自己統制)

4. 手渡された初めて見るペラペラの輪っかを、投げ捨てることも破ることも弄ぶこともなく手に持ち保持できる(自己統制)

5. 「このまるどこが切れているかな?あわせっこしようね」という複雑な指示を理解できる(言葉の理解)

6. 指示を理解した上で、反抗したりふざけたりせずそれに素直に応じられる(社会性・自己統制)

7. 遠くから促されて、見本のランドルト環に視点を合わせることができる(視覚)

8. 見本と手元を見比べて、同じように向きを合わせることができる(視覚・操作)

 このうち、純粋に視機能に関わる項目は、最後の7と8ぐらいではないでしょうか。それ以外の1~6が前提としてできて初めて成立する検査と言えます。もちろん、子ども向けの検査ですから、「まず1m以内の距離で両目で練習します」というふうに練習段階も用意されていますが、少し練習したくらいでクリアできる項目ではないものがたくさん含まれます。逆に言えば、視機能さえ正常であれば多くの3歳児はこれができるという想定で一次検査が作られているわけですから、生後3年間かそこらで子どもはいかに多くの高度なことを学んでいるか、ということです。

できない場合の対策は?

 できなかった場合の対応に関する注意書きがどこかにあるはずと仕事柄大変気になり、目を凝らして探したところ・・・

ありました。

ただし、お子さんが「全然見えない」と言ったら検査を中止し、解答欄にその旨をお書き下さい。

 見えない時に「全然見えない」と表現できる子向けの注意書きでした。それ以前に、コミュニケーションや行動面で難しいケースもあると思うのですが。もっとよく探してみると・・・

ありました!

検査がうまくできないとき

 これです。

一度検査をしてうまくできなくても、何回か繰り返すと上手にできるようになりますので、日を変えて検査して下さい。

・・・まさかの別日に再実施の指示でした。

3歳児健診への「憂鬱」や「緊張感」

 これは困っている保護者の方が多くいるのではないか?と思いネット上の声を探してみると、案の定、悩ましい意見が多く見られます。ツイッター上の声をいくつか引用します。

 視力検査や聴力検査だけでなく、中には家庭での尿検査に驚く声も多く見られました。確かに、オムツがとれるかとれないか、やっとトイレに座ることを覚えたぐらいの3歳児の朝一の尿採取は至難の技と言えるでしょう。

 また、思った以上にこの3歳児健診に対する憂鬱さや緊張感をもつ保護者の方が多いことも分かりました。

 乳幼児健診は、全ての子どもが身体的、精神的及び社会的に最適な成長発達を遂げることを助けることにあります。しかしながら、多くの保護者の感じ方は、「自分の子どもに何か問題がないかチェックされる」「発達や子育ての問題点を指摘される」場所になってしまっているようです。指摘がなければホッと胸を撫で下ろし、指摘があれば(これを「引っかかる」と表現したりします)悪いことのように感じる。場合によっては、気になることがあっても、指摘されずに終われば(これを「スルー」と表現したりします)セーフ、というような感覚さえもつ保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 「多様性の受容」「ダイバーシティー&インクルージョン」などの言葉をよく耳にするようになり、性別や年齢、障がいの有無、国籍などにかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすことが大切であるという価値観が社会に広がりつつあります。しかし、実際にはまだまだマイノリティであることには不便さや生きづらさが伴うのも事実で、周りと同じように発達してほしいという保護者の願いは当然のことかも知れません。これは、本当に少しずつでも社会が変わっていくべき課題です。

 しかし、乳幼児健診に話を戻せば、気になることがあるのに「スルー」はとても勿体無いことだと思います。「スルー」は全然「セーフ」ではありません。子どもには、その子に合った教育を受ける権利があります。マジョリティに合わせて長い間つくられてきた一般的な子育て環境や教育制度の中では、その子の持つ力を十分発揮できなかったり、学べるものも学べないまま失敗体験を積んでしまっている子が多くいます。保護者も、育てにくさや発達に関する心配事を抱えながらも、個性の範囲なのか、特別な支援が必要なのかと迷いながら日々をやり過ごす方がたくさんいらっしゃいます。

乳幼児健診を、一歩踏み出すチャンスに

 乳幼児検診のように、否応なしに周りと比べて評価されるような環境は、ダイバーシティーの考え方とは逆行するようなものですから、そこへの配慮は必要だとしても、発達の標準点を確認できる機会は、こういった「迷い」から一歩踏み出す機会になり得ます。

 日常生活の中で、どんな子を育てる親も子育てには大変さを感じるものです。イライラして疲弊して思い通りにならないことがたくさんあります。ですから、自分が感じている子育ての大変さや子どもの行動のマネジメントの難しさが、一般的な範囲なのか、特に大変なのか、誰かに相談するレベルなのか、判断に困ることがあるのではないでしょうか。そんな中で、3歳児健診自体も当然そうですし、家庭で事前に行う視力聴力検査も、よいきっかけになるのではないかと思います。あくまでこれは視力と聴力を調査するための検査ですから、用紙にも「視聴覚検診の目的以外に使用することはありません」と明記されています。しかし、実際には先に述べたような、社会性や言葉の理解、感覚的な敏感さや自己統制力に至るまで様々な発達的課題が含まれます。もしもお子さんが嫌がったり、じっとしていられなかったり、検査の意図理解が難しく実施ができなかったとしても、それはお子さんや保護者の方が悪いわけではありません。むしろその難しかったポイントをしっかりと医師や保健師に伝えて、詳細な検査を受け、必要なサポートにつないでもらう権利がお子さんにも保護者の方にもあります。また、健診の短い時間だけの観察では分からないことも、保護者の方の具体的な報告があればより詳細にお子さんの見立てをすることができます。

 念のため付け加えますが、発達障害の有無は、定められた診断基準に基づき医師が総合的に判断するものですので、この視聴覚検診がうまくいかなかったからといって、発達障害の傾向がある、と言っているわけでは決してありませんのでご注意ください。

障害の有無よりも、今必要な支援を

 障害があるかないか、個性の範囲かどうか、ということは、判断に時間がかかる場合が多い問題です。しかし、今現にお子さんが抱えている環境とのミスマッチや保護者の方が感じる少しの育てにくさは確かなものです。親子のために、スルーしてセーフと言えるものではありません。大事なことは、今抱えている困り感をそのままにせず、その子にあった関わり方や学び方をなるべく早い段階で整えてあげることではないでしょうか。

必ずできることがある

 最後に、一歩踏み出した結果として、どういった具体的なサポートにつながり得るのか?という話をしておきます。どんな支援が実際にあり、何が最先端なのかが分からないまま子どもの発達について特別な相談をすることは、とても不安なことです。実際に自治体の窓口や医療機関で紹介してもらえるサポートは地域によって違いますし、専門家によっても知識にバラツキがあるのが現状です。発達障害の見立てと診断をきちんとできる小児科の医師は、10人に1人いるかいないかだと小児科医から聞いたことがあります。

 「良い支援」というのは、様々な考え方があるとは思います。家の近くで通いやすいとか、送迎のサービスがあるとか、施設が綺麗とか、保護者の話をよく聞いてくれるとか、色んな体験をさせてくれるとか、挙げればキリがありません。しかし、療育支援において最も大切なことは、お子さんの発達や行動に良い変化を起こすことができ、お子さんに合った関わり方を保護者も学び成長できることではないでしょうか。そのためには、緻密な発達のアセスメント(評価)と、そこから構成した細かい発達的な課題を、個別的な関わりの中で楽しみながら集中的に行うこと、それを保護者の方にも共有することが必要です。こういった支援のできる機関は、まだ全国でも決して多くありませんが、探してみることで、必ずできることは見つかると思います。

 来る2019年12月1日には、そういった最先端の早期支援に取り組む機関が全国から集まって、地域での支援の紹介と、その成果を研究的にまとめて発表する成果報告会があります。

公開シンポジウム「実践に基づくエビデンスでつながる発達障害の早期支援エコシステムの構築」

 支援者の方、保護者の方、幼稚園や保育園の先生、学生の方、どんな立場の方にもご参加いただけて、参加費は無料です。取り組みの内容や研究の規模や、登壇される先生のお話も、日本の早期療育の最先端と言って良い内容ではないかと思います。

 一人一人特徴の違うお子さんの可能性を広げるためにどんなことができるか、ご興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみてください。