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「リモートパパ活」急増? コロナ禍で社会のネット化に潜む危険

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

リモートパパ活?

「先生! Twitterがたいへんです」

「リモートパパ活でたいへんです!」

私の研究室に出入りする学生(押しかけゼミ生?)たちは、「Twitterパトロール」を長く行っています。Twitterに危険な投稿をしている子どもたちを見つけると兵庫県警察に知らせて、危険を呼びかけてもらう取り組みです。その学生たちが血相変えて知らせてくれました。

学生に協力してもらって、典型的な投稿を再現しました
学生に協力してもらって、典型的な投稿を再現しました

竹内「リモートパパ活?」

学生「はい、zoomとかを使ったパパ活です」

竹内「そんなに増えてる?」

学生「まだ数はたいしたことはないですが、急増しています」

ご存じの通り、zoomとは、オンライン会議等をするもので、リモートワークでよく使われ出しています。そんなzoomがパパ活に利用されていると言うのです。少し説明します。

そもそもパパ活とは

「パパ活」は、ここ1年くらいでかなり有名になった言葉です。実用日本語表現辞典には「女性が、経済的に余裕のある中高年男性と、食事を共にするなどして共に時間を過ごし、代わりに金銭的・経済的な援助を得る、という活動のこと。あるいは、そのようなパトロンを探す活動のこと」と書かれています。

女の子が中高年男性と一緒に食事をしたり、買い物をしたりする見返りにお金をもう、相場は時給5,000円くらいが多い、飲食費や買い物の費用は「パパ」と呼ばれる中高年男性が支払う。これが一般的な「パパ活」です。

学生は「パパ活では、レストランやデパートで会うことが多いので危険は感じない。バイト感覚でやってしまう女の子がいてもおかしくない」と話してくれました。それはそれで強い危機感を持っていましたが、今回新たに「リモートパパ活」という言葉が出現しました。

コロナ禍で急速に拡大?「リモートパパ活」

コロナ禍で「パパ活」ができないので、「リモートパパ活」が急速に広がったようです。まだ熟した言葉ではありませんが、ネットには出回り始めています。Yahoo!検索すると、約474,000件がヒットしました(5月18日時点)。「実際に会うのではなく、リモート(zoomやスカイプ等)で、食事や会話をパパ活のように楽しむ」ことが「リモートパパ活」と一般的に定義されているようです。最初は「商魂たくましいなぁ」とネット上の書き込みを眺めていたのですが、さらにTwitterで「#リモートパパ活」で調べると「録音機能オフ」という言葉をよく見かけました。

ご存じの通り、zoom等はやりとりの一部始終を録画することができます。その機能を「オフにする」ことを相手に求めています。「おじさんと話すのを録画されたら嫌だよな」くらいに読んでいましたが、実はここに大きな落とし穴が潜んでいます(詳しくは後述します)。さらに見ると、ホステスや風俗店等で働く女性が休業中の小遣い稼ぎにしているらしいこともわかってきました。

中学教師時代の教え子で、新地のママさんをしている子がいるので電話してみました。「私はパパ活する年じゃないよ、先生」と一笑に付されたましたが、若い女の子たちに話を聞いてもらいました。「休業要請中で収入のない女の子の一部が、リモートパパ活などをやってるみたい」と教えてくれました。「30分、5,000円くらいらしいけど、Amazonギフトカードで払ってくれるそうだから、振込とかややこしいことはないみたい」「先払い制らしいので、もめることもないって」「Amazonギフトカード番号を教えてもらえば、自分のスマホで登録してすぐに買い物とかできるので、現金と変わらないから便利よね」「リモート中にAmazonでヴィトンのカバン、買ってもらった子もいるそうよ」。あっけらかんと話すママの言葉を聞いて、私は暗澹たる気持ちになってしまいました。

なぜ「パパ活」?

忘れていた悲しい記憶が蘇りました。少し前、地方都市の看護師志望の学生対象に講義したときのことです。そこで生活費や学費、すべてをアルイトで賄っている苦学生に出会いました。「看護師に絶対なりたい」と話し、非常に勉強熱心です。そんな彼女の苦労の種は学費を稼ぐためのアルバイト。コンビニとファミリーレストランを掛け持ちしていたため、勉強が手につかないことも多々あったと言います。そんな彼女が「最近、パパ活を始めた」と言うのです。驚いて反射的に「看護師になりたいんだったら絶対やめるべきだ」と詰問口調で話しました。すると驚く言葉が彼女の口から出ました。

「キャバクラだったらお酒が入るし危険。パパ活は人通りもあるし、事前に交渉できるからある意味安心」「相手もうれしいし、私もお金が入って助かる。これ以上、win-winはないと思います」。

私は知識を総動員して彼女に危険を話し、やめさせようとしました。「このあたりじゃ顔がさすので、ちゃんと三宮まで出向いています」と十分に警戒しているといいます。「それでも危険なことは変わりはない」と一生懸命話しました。しばらく押し問答が続きましたが、彼女はため息をついて、「わかりました。もうやりません」と事務的に話すと、何も言わなくなりました。そのあと、能面のような顔をして帰って行きました。私は誠心誠意、彼女のためを思って話しましたが、私は彼女にとって、「常識を振りかざすうるさい老人」だったのかもしれません。彼女はしきりに「お金がない」「奨学金が半端ない金額」と話していましたが、そういう声をまず受け入れ、そこから話をするべきでした。強く反省しました。個人が特定できないように、一部改変していますが、ほぼ実話です…。

閑話休題。

「リモート」が新しい稼ぎ場に?

「リモートパパ活」をさらに調べました。ママの言う通り、「リモートパパ活」などが夜の街で働いていた女性の新しい稼ぎ場になっているようです。コロナ禍の今、夜の街は「究極の三密」とマスコミで盛んに取り上げられています。閑古鳥が鳴いているようですが、ママが「生活がかかってるからね、わたしら」という通り、そこで働く人たちにももちろん生活があります。お金に困った人たちが「リモートパパ活」などにチャレンジしているのかもしれません。

さらに調べていると、先のママが「『オプション』とか『裏オプ』とかいうのがあるらしい」と言っていたのを思い出しました。ネットには「下着を見せるとプラス○千円」など、この他にも過激なオプション内容が散見されました。zoom上で「Amazonギフトカード、追加料金5000円」などと生々しい言葉飛び交っているのかもしれません。

リアル社会での危険がネット社会でも 私たちが考えるべきこと

私たちは、この「リモート」問題をどう考えたら良いでしょうか。

緊急事態宣言が多くの県で解除され、登校が再開されます。しかしまだまだ第二波、第三波の可能性が指摘されています。「withコロナ」が合言葉になっていき、パソコンやスマホ等がある意味、私たちの社会の、ある意味「命綱」になっていきます。禁止では埒が明かないのは自明ですが、かといってここに書いたような危険もあります。

実際は、リアル社会での危険が、ネット社会でも起きているだけのことですので、騒ぎ立てるほどのことではないのかもしれません。しかし、リアル社会の危険は私たちの長年の取り組みで、ある程度は回避できるシステムができあがりつつあります。しかしネット社会での対応はまだ十分ではありません。これまでは、そういう大人に出会う場所は、夜の街等、ある程度限定されてきました。それがますます一般的になり、今では自宅で自粛中の女の子が見知らぬおじさんに「ヴィトンのバッグ」を買ってもらっています。

先に「zoom録画お断り」と書かれていることを書きましたが、実際には録画されて脅される等の被害が後をたちません。zoom上で録画が始まると画面に「録画中」と表示されるので、そのことへの言及ですが、実際はzoomの機能で録画しなくても、画面を別のスマホ等で録画したら、簡単にデータとして残ります。脅しのネタに使われたり、アダルト商品として悪用されたりする危険が残ります。

私は規制や罰則も必要だと強く思っていますが、法律が実態に追い付くにはかなりの時間を要します。そのための啓発や教育も急務です。どんな技術にも必ず光と影があります。ネットも、です。

私たち社会は大きな分岐点に立っています。ICT化はせきを切ったように進行していて、もう後戻りはできません。それで良いと思います。しかし、私たちはこういう事態から目をそらしてはいけません。今回は問題提起に終始してしまいました。申し訳ない思いです。試されているのは私たち大人です。自戒を込めて書いておきます。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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