児童ポルノ・自殺推奨等の有害情報掲載だけでサイトに罰金やブロック、英政府が世界初 日本もやるべきか?

(写真:アフロ)

有害情報、罰金・ブロック

 イギリス政府は4月8日「『有害情報』を掲載したウェブサイトに罰金・ブロックする方針」を発表しました。インターネットは世界中で閲覧が可能なため、ウェブサイトの影響は世界的です。児童ポルノや暴力、テロの扇動、自殺の推奨等、有害とされるサイトの悪影響は、これまで世界中で指摘されてきました。今回のイギリスの方針はある意味、画期的です。これまでは特定の個人に損害や被害を与えた場合に罰せられましたが、今回の方針は有害情報を掲載しただけで罰金等が課されます。

 この方針から我々日本人は、少なくとも2つを学ぶ必要があります。「子どもの問題に限定していない」「発信者側への罰」、の2つです。

1.子どもの問題に限定していない

 これまで、日本での対策は主に青少年にとって有害なものに限定され、大人への有害性に対しては市民レベルではあまり議論されてきませんでした。インターネットの影響を考えるとこの問題への対応は急務です。もちろん、「表現の自由」は憲法で保障されており、簡単な問題ではありません。しかし、昨今のインターネットの影響を考えると少なくとも幅広い議論を始める時期に来ています。

2.発信者側への罰

 これまで、日本のこの問題に対する方針は主に「受信者」に向けての対策でした。今の日本で「児童ポルノ」はネット上での発信が法律で明確に禁止されていますが、それ以外の有害情報については、受信者側に当該のサイトを見せないようにする、「フィルタリング」や「ブロッキング」と言われる対策くらいしかありません。今回、イギリス政府は、近年世界中で問題が深刻になっている児童ポルノ以外の様々な有害情報についても、発信者側に罰則を科す方針です。

 これら2つについて、私たちも考えなければなりません。一部の法律の専門家や特別の嗜好を持った方々だけでなく、幅広い議論が必要ですので、そのきっかけにするためにも、今日は、この問題について書いてみます。

NZ銃撃動画の衝撃

 つい先日、ニュージーランドでの銃撃動画がFacebookで拡散され話題を呼びました。Facebook社は「最初の24時間で事件の動画150万件を削除したが、そのうち120万件以上はアップロード時にブロックした」と発表したとされています(CNET JAPAN)。人が人を殺すシーンを「目撃」できる状況の是非を少なくとも私たちは検討しなければいけません。「表現の自由」との兼ね合いもあり難しいですが、少なくとも子どもたちにとっては緊急事態です。

日本での子どもへの「規制」

 私は、長く子どもとインターネットについて研究してきましたが、子どもに限定してもその影響は計り知れません。「児童ポルノ」「自殺の推奨」等については特に深刻です。2017年10月の座間の事件ではツイッター等に「死にたい」と書いた若者が狙われたとされ、9人の遺体がアパートから見つかっています。容疑者とされる人物は、SNSで「首吊り士」と自称し、「首吊りの知識を広めたい 本当につらい方の力になりたい お気軽にDMに連絡ください」と自己紹介していました。まだ捜査段階ですが、9人の遺体が見つかっています。9人の尊い命が失われました。子どもだけの問題ではなく、国を挙げて考えるべき問題です。

 これまでの日本の対策は、主に18歳未満の青少年対象に行われてきました。フィルタリングです。フィルタリングとは「青少年を違法・有害情報との接触から守り、安心して安全にインターネットを利用する手助けをするサービス」(総務省)で、「携帯電話事業者は、携帯電話インターネット接続サービスの使用者が青少年である場合には、原則としてフィルタリングサービスを提供する義務が課せられて」(同)います。実態はかなり緩やかなもので、「保護者の同意があれば」設定しなくて良いことになっています。業者に提供の義務がありますが、保護者に設定の「義務」はありません。保護者にあるのは、設定しない「権利」です。重要な権利だとは思いますが、9人の命が失われた国に生きる私たちは考えなければいけません。

 小中高校生のフィルタリング設定率は、わずか36.8%(内閣府)です。しかも最も低いのが小学生22.5%です。小学生の8割近くが有害サイトに接続できる状況です。場合によっては、殺人動画を小学生が見てしまう可能性もあります。「表現の自由」はもちろん尊重すべきですが、子どもたちが殺人シーン等の有害サイトを見る可能性を残して良いか、そういうものを発信できなくする工夫をどこまでしていくか、等の議論を少なくとも始めるべきです。

 今回のイギリスの方針からも、国際的には発信者側への罰則を含めた規制についても考える時期に来ていることがわかります。私は多くの都道府県警察のサイバー犯罪対策課や少年課の方々等と日々接しています。非常に熱心で、頭が下がります。たとえば「サイバー補導」です。サイバー補導とは、「援助交際を求める等のインターネット上の不適切な書き込みをサイバーパトロー ルによって発見し、書き込みを行った児童と接触して直接注意・指導する」(警察庁)ことです。莫大な労力をかけて、実際に接触できる数はそう多くはないのですが、そういう取組の一部を私の研究室に出入りする学生たちが手伝わせていただいています。学生のできることですので、一般的な情報提供程度ですが、学生たちはそういう中で接する警察官に敬意を感じるようになっています。仕事とは言え、その熱心さには頭がさがり、決して否定するつもりはありませんが、現状の規制方針等だけで対処できるのはそろそろ限界かもしれないと感じています。

ユニセフ事務局長

UNICEF Japan/2017/Chizuka
UNICEF Japan/2017/Chizuka

 写真は、2017年のユニセフハウス(東京都港区)でのものです。学生達と一緒に、アンソニー・レイク氏(ユニセフ事務局長、当時)と子どもたちのネット問題について話し合いました。氏は「ネット上の被害から子どもたちを守ること。デジタル時代において子どもたちを守るため、法執行機関をサポートする」重要性を指摘していました。座間の事件もご存じで、「深刻な問題」と捉えていました。国際的にもこの種の問題は緊急課題の1つです。また、山下史雄氏(警察庁生活安全局長(当時))も「子どもたちが安心して安全にインターネットを使える環境を整備するためには、子どもたち自身、保護者、事業者、学校、行政機関が連携し、社会全体で取り組んでいかなければならない」と述べています。国を挙げた対応が必要です。

(著者撮影)
(著者撮影)

 写真は2014年にウィーン大学で私が欧米の研究者等に向けて講義をしているものです。日本の子どもたちのインターネット問題について話したのですが、講義後にオーストリアの高校の先生が「オーストリアも全く同じ状況で、机の下でこっそりFacebookとかしてて、授業に集中しない」と嘆いていました。またある研究者が「児童ポルノ」について話していました。欧米でもブロッキング含めて、特にイギリスで大きな議論になりつつある状況を聞かせてもらいました。そういう歴史の先に今回の方針が発表されたのだと考えています。

 私個人としては、インターネット上での子どもたちへのある程度の「規制」は必須だと考えています。「殺害シーン」「自殺の教唆」「児童ポルノ」等、複数のカテゴリーが考えられますが、もちろん、その対象については慎重で開かれた議論が必要です。法的な観点からだけでなく、教育からの意見も重要です。また、これまでのように保護者に「フィルタリングを設定しない権利」を与えるかどうかについても少なくとも議論を始める必要はあるでしょう。多方面からお叱りを受けるでしょうが、冷静な議論をしたいものです。

今回のイギリスの方針の意味

 こういう文脈で考えると、今回イギリス政府の方針発表は日本に住む私たちに多くの示唆を与えています。一方では、小中学生の学校への携帯電話持ち込みの是非について国を挙げて検討が始まっています。大人だけでなく、子どもたちにとっても、インターネットは、生活の一部になりつつあります。もはや一部の専門家に任せておいて良い時期は過ぎ去ったのです。