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大阪の公立小中の携帯持込が「一部解除」 学校、保護者は混乱 保管や歩きスマホなど問題点は?

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

使用解禁ではなく一部解除

 2月18日、大阪府教育庁が「小中学校における携帯電話の取扱いに関するガイドライン」(素案)を発表しました。今回は学校でのスマホ使用の「解禁」ではなく、公立の小中学校への携帯電話の持ち込み禁止の「一部解除」でした。大きな影響を与える内容で、全国に波及することも予想できますので意見を書いてみます。昨年11月の時点で私なりにポイント整理をした(https://bit.ly/2TVy6WI)のですが、今回の素案は想定外の内容でした。想定以上に携帯電話の指導法等に触れているのは歓迎すべき点(後日、詳説予定)ですが、保管場所や登下校時の危険回避策等に関する記載がほとんどないのには困惑しています。このままでは学校現場は大混乱です。

ガイドライン素案のポイント

 ガイドライン素案には「子どもが、登下校時に限り、携帯電話を所持できるよう、持ち込み禁止の方針を一部解除することにしました」と明記されています。解除されるのは登下校時だけで、学校内では災害時等を除き、これまで通り「禁止」です。まず、ガイドライン素案のポイントを整理します。

1)携帯持ち込み許可

 昨年の一部報道には「4月から学校内で携帯電話を自由に使ってよい」との誤解を生むような表現がありました。実際に大阪の保護者(娘さんが来春から小学生)から「教室で使えるようになるとみんな携帯電話を持ってくる。娘だけ持っていかないと仲間外れにされそう。どんな機種を買えばよいですか」と相談されたことがあります。はっきりさせておく必要があります。登下校時の災害対策や防犯目的での使用が認められ、その結果、学校への携帯電話の持ち込みを府教委が認めたのです。現段階ではそれ以上でもそれ以下でもありません。

2)学校内は基本的に使用禁止

 学校内はこれまで通り、基本的に携帯電話使用禁止です。使っていいのは「災害等の緊急時」「携帯電話の適切使用の指導を行う場合」「校長が認める場合」だけです。先行実施している私学や高校の中には、昼休みや放課後など時間を区切ったり、使う場所を限定したりして、部分的に使用を許可する学校もあります。ガイドラインの書きぶりに注目していたのですが、基本的には携帯電話全面使用禁止です。

3)各自が自分のカバンで保管

 「校内ではかばんにしまう」「学校の指示があるとき以外は、決して出さない」とあります。保管場所は私が一番注目していた部分ですが、子どもが自分のカバンで保管するとされています。こっそり使わないか、盗難、破損、盗撮……。大丈夫でしょうか。かばんでの保管以外の可能性は何も書かれていません。「もし携帯電話を勝手にかばんから出したり、使ったりした場合は、先生が預かり、保護者に直接返却します」とありますが、違反者から携帯電話を取り上げるときの混乱はかなりのものです。

 知り合いの報道関係者から聞いたところ、「かばんにしまう」としている理由を問われた際の回答として、府教委は「災害等の緊急時に学校が預かっていては使用できないから」と答えたそうです。「やむなくかばんに保管」だと思っていたのですが、積極的に「かばんにしまう」を推奨しているようです。

4)学校、教委がルール設定

 「学校または市町村教育委員会は、このガイドライン等を参考に、登下校時や校内での携帯電話の取扱いに関するルールを定め、児童生徒や保護者に周知します」と記載されており、持ち込み自体を許可するかどうかも、最終決定は学校や市町村教委がします。まだ何も決まっていないのです。市町村教育委員会に正式に通知されるのは、3月下旬ごろとされています。学校現場の「一部解除」は4月からは実質難しいでしょう。

課題、問題点

 今回のガイドラインの課題、問題点を書きます。私はこのままでは学校が大混乱に陥ると危惧しています。今回は2つに絞って、課題を書いてみました。

1)保管場所

 前述の通り、府教委は保管場所を子ども自身のかばんとしていますが、私学や高校のこれまでの例では、子どもの自己管理は失敗することが多いことがわかっています。ある県の生徒指導担当者(高校)は個人的見解として「成績上位校は自己管理で何とかなる場合もありますが、下位校では無理」と言います。今回は公立小中学生ですので、高校生より低年齢で、しかも公立にはいろいろな子どもがいます。自分の管理下にスマホがあると、授業中にゲームや動画が気になったり、友達にSNSを送ったり、ある場面を録画したくなったりする子がいてもおかしくありません。私は大阪の中学校で生徒指導主事をしていましたが、そういう違反生徒の指導に四苦八苦する先生方の様子が目に浮かびます。オリンピックやワールドカップなど、こっそりニュース等を見てしまう生徒等、残念ながらいろいろな場面が想定できてしまいます。

 ガイドラインには「かばんに」とあるだけで、学校が預かる選択肢は示されていませんが、事前に意見交換をした公立中学校の校長先生の多くは「学校が預からざるをえない」と話しています。理由は「生徒が持っているとこっそり使ってしまう」「盗難や破損が怖い」と言います。1台10万円近くする携帯電話の盗難や破損時、どうするしょうか。スマホ40人分は400万円。10クラスある学校では4000万円。学校はそういう貴重品を子どもが持ってくることを想定していません。ある私学はスマホ回収専用カバン(1個約3万円、40個収納可)と保管用ロッカーを新たに購入したそうです。公立校にはそういうお金はありませんし、あったとしても今からでは間に合いません。私の心配が杞憂なのかもしれないし、もっと子どもを信用すべきなのかもしれません。しかし、少なくともどうするか、多くの大人でしっかり議論する必要はあるはずです。

 例えば、「災害時の連絡」のために、学校にいる間、携帯電話を子どもたち自身のかばんに入れていく方向で今考えられています。学校にいる間の災害であれば、学校が責任を持って対応するので、子どもたちが保護者と直接連絡する必要がないとも考えられます。連絡が必要だとしても、その代償として子どもたちが自分たちで携帯電話の管理をしなければならないのに、少なくとも私は疑問を感じます。幅広い議論が必要なゆえんです。

2)歩きスマホ

 「歩きスマホ」が心配です。集団登校をしている地域もあれば、そうでない地域もありますが、どちらにしても大人がずっとついているわけではありません。普段は大丈夫でも、LINEで急に連絡が入ったり、オリンピックなど気になるニュースがあったり、いろいろな場面が考えられます。現実味はないにしても、「携帯電話を持っていくときは保護者同伴」を原則にする等も考えられます。少なくともどうするか議論は必要でしょう。

大混乱しないために

 大混乱しないために、ポイント整理します。

 まず「保管場所」。このままでは学校現場が大混乱します。多くの校長、特に中学校の校長先生は、どこで保管するか悩んでいます。私学や高校の例では、「朝回収して学校保管」「専用ロッカーで保管」「生徒保管」の3つが多いようです。大阪には私学も高校も多いです。そういう先行事例を紹介するだけでも決定主体になる校長先生や各市町村教委はかなりの参考になると思います。

 次に「登下校」。「歩きスマホ」対策は喫緊の課題です。残念ながら、歩きスマホの事故は大人も多いです。誰がどう指導するか、少なくとも新しい課題として考えておく必要があるでしょう。

 以上、思いつくままにとりあえず書いてみました。私の誤解や内容理解が十分でない場合もあるかもしれません。そういう場合は、私が何を誤解し、どう修正すべきかをご教授ください。私の誤解はここで訂正します。意見が異なる場合は良い機会ですので、広く多くの方とともに議論しましょう。

 私は「このままでは大阪の子どもたちも先生方もたいへんだ」と強く思います。3月の正式通知までに、混乱回避のために何らかの手立てが必要です。少なくとも今の状況では、学校や市町村教育委員会がルールを作ることは難しいでしょう。情報が少なすぎます。

 さらに、これまでのマスコミ報道の影響で大阪の保護者の一部は「4月から携帯電話が自由に持っていける」と思い込んでいます。今回の素案から、府教委は決してそういうつもりでないことは明白です。学校長判断で「持ち込み禁止」を打ち出したとしても、そういう保護者が納得するでしょうか。校長の悲鳴が聞こえてきます。

 学校現場が混乱すれば、悲しい思いをする子どもがでてきます。そういう事態は絶対に避けなければなりません。場合によっては「携帯電話解禁」の流れが大阪から全国に波及するかもしれません。実際、先日、不登校気味の愛知県の中学生が「大阪がうらやましい」と言っていました。「休み時間、一人でいるのがつらい。スマホがあったら、暇つぶしできる」というのです……。大阪だけの問題ではありません。広く社会全体で議論すべき問題だと思います。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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