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【独占告白】JR無料パス不正使用「6年前に軽い気持ちで始めた」 山下元参院議員、留置場内での肉声

関口威人ジャーナリスト
山下八洲夫容疑者が警察に任意同行されたJR名古屋駅の新幹線ホーム(筆者撮影)

 現職議員になりすまして新幹線のグリーン券などをだまし取ったとして、詐欺と有印私文書偽造・同行使の疑いで愛知県警に逮捕された元国会議員の山下八洲夫容疑者(79)=岐阜県中津川市=が、勾留されている同県警中村署で筆者らの面会に応じた。現職の国会議員だけが使える鉄道乗車証(JR無料パス)の不正使用について「最初は6年ほど前。国会議員時代に使っていたので軽い気持ちで使ってしまった。それがそもそもの間違いだった」と告白した上で、「家族や親戚、知人には謝っても許してもらえないだろう。党(代表や常任顧問を務めていた立憲民主党岐阜県連)の関係者にも大変なご迷惑を掛けて申し訳ない」と頭を下げた。

逮捕から12日目の警察署内で面会に応じる

 逮捕時の報道によれば、山下容疑者は4月27日、JR東京駅で現職の国会議員の名前をかたって書類を偽造し、東海道新幹線の東京―名古屋間の特急券とグリーン券2組をだまし取った疑い。

 山下容疑者は往復の券を申し込んでいたが、駅員が2組とも下りの券を渡してしまい、JR東海が名前を書かれた議員に問い合わせてなりすましが発覚。2組のうち未使用の1組が5月8日の新幹線だったことから、中村署と鉄道警察隊の捜査員がJR名古屋駅で待ち伏せ、新幹線から降りてきた山下容疑者をホーム上で任意同行し、その日に逮捕した。

 逮捕から12日目の5月19日、報道写真家・ジャーナリストで、立憲民主党岐阜県連に所属する岐阜県羽島市の川柳雅裕市議らとともに中村署で山下容疑者との面会を申請。山下容疑者が応じたため、留置場の面会室で取材を兼ねて話を聞くことになった。

山下八洲夫容疑者が勾留されている愛知県警中村警察署(筆者撮影)
山下八洲夫容疑者が勾留されている愛知県警中村警察署(筆者撮影)

「やせましたか?」の問いに答える前に頭下げる

 山下容疑者はジャージに黒のカーディガンのような上着を何枚かはおり、茶色のサンダル履きで面会室に現れた。白髪の多い髪は整えることなく顔にかかり、マスクの上から見える目はキョロキョロと落ち着かない様子だった。

 川柳市議が「やせましたか?」と声を掛けると、アクリル板越しの山下容疑者は答えるより先に「ごめんなさい」「申し訳ございません」と何回か頭を下げた。

 そして不正使用について認めた上で、「2010年の参院選に立候補したとき、負けるとは思っていなかったので、当選したらまた使おうと思っていたものを持っていた」と経緯を話し始めた。

 思わぬ落選から3日間で議員宿舎を引き揚げるため、混乱しながらいろいろなものを大量の箱に詰め、自宅に送った。後日、中身を確認するとJRの無料パスもあった。本来なら落選したので国会に返すべきだったが、そのままにしていたという。

「罪の意識薄かった」まま続けた不正使用

 そして「6年前」というから2016年ごろだ。東京のある会社の顧問を引き受け、月に2回ほど岐阜と東京を往復することになっていた。その際に「軽い気持ちで」無料パスを使い始め、それからも「罪の意識は薄かった」まま、不正を繰り返すようになった。

 単純に月2回で6年間使い続ければ144回になるが、「100(回以上)なんてことはない」と否定。「では何十回か」という問いにうなずいた。ただし、「カネに困っていたわけではない」とも強調した。

 パスのあり方自体に問題があるのではという問いには、「チケットはパスがなくても秘書が取りにいける。『(国会議員の)代理で来た』と言えば誰が行っても申請書1枚でいい」と指摘。だが、今回のような不正使用をする元国会議員は「私だけ。他にはいない」とも言った。

「余生どう過ごせばいいか…」と声絞り出す

2019年10月、岐阜市で開かれた立憲民主党岐阜県連の臨時大会であいさつする山下八洲夫容疑者(川柳雅裕撮影)
2019年10月、岐阜市で開かれた立憲民主党岐阜県連の臨時大会であいさつする山下八洲夫容疑者(川柳雅裕撮影)

 山下容疑者は1983年の衆院選に旧社会党公認で旧岐阜2区から出馬し初当選。4期を務めたが96年に無所属となり一度落選した後、98年には参院選に旧民主党公認で岐阜選挙区から出馬し国会議員に返り咲いた。その後は旧民主党の参院議員として2期務め、2010年の落選後は旧民主党の流れを汲む立憲民主党岐阜県連の立ち上げに関わって自ら代表に就き、地元で影響力を持ち続けた。

 川柳市議が「これからの岐阜県連はどうしたらいいのか」と問うと、山下容疑者は言葉に詰まった様子だった。間近に迫っている参院選への影響も気にしているという。そして家族のことも頭に浮かべながら、「こんなことをやってしまって、余生をどう過ごせばいいか…」と声を絞り出した。

 こうして15分間の面会は終わった。晩節を汚すことになったベテラン政治家は、足を引きずるようにしながらトボトボと面会室を後にした。

 面会を終えた川柳市議は「所属する県連の一人として国民や県民の皆さんに申し訳なく思う。また、ジャーナリストという立場では、国会議員に与えられたパスが簡単に悪用され、確認が甘いことなどを追及していきたい」と話した。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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