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佐賀県を中心とした九州北部の豪雨、今後望まれる対策や支援の動き

関口威人ジャーナリスト
豪雨時の道路のイメージ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

8月28日に九州北部を襲った記録的な豪雨は、佐賀県を中心に複数の人が亡くなり、病院が孤立するなどの被害をもたらしています。被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。大雨の峠は越しましたが、週末以降も大気の状態は不安定なようです。私自身はつい1カ月半前にとある取材で佐賀市を訪れました。今回はまだ現地入りしていませんが、私の知る範囲での情報と地域性に、昨今の災害の教訓などを照らし合わせて、今後望まれることをまとめてみます。

土砂災害への厳重警戒、備蓄の確認

まず週末以降の雨に備えて、最大限の安全を確保することでしょう。特に土砂崩れは今のところ民家を激しく巻き込むほどの規模では発生していませんが、いったん起これば大勢の命を奪います。山側に住む人や土砂災害の危険度が高いエリアにいる人たちは、できるだけ危険箇所から離れて過ごしてほしいと思います。

その他の地域の人たちも、あらゆる状況を想定して避難場所や食料、水の備蓄などを確認しましょう。

二次災害の防止、精神的ケアや見回りも

2012年に同じ九州北部を襲った大雨(平成24年7月九州北部豪雨)では、10日ほどの間隔で2度の記録的な雨が降りました。河川が氾濫を繰り返した大分県日田市では、せっかく片付けの進んでいた地域が2度目の雨でまた浸水、住民は「家の中がまた泥だらけ。家ごと流されなかっただけましだが…」と肩を落としていました。何重もの被害が住民の精神的ダメージを大きくします。大町町での油流出を含め、二次被害への対策や精神面を含めたケアが行き届くことを願います。

今回は県庁所在地の佐賀市も激しく浸水した都市型災害の面もあります。佐賀市の知人に聞くと、佐賀城址のお堀があふれるほどだった水は翌日には引き、泥水も少なく目立った被害はなさそうだと言います。ただ、2000年の東海豪雨や08年の名古屋市中心部での大雨(平成20年8月末豪雨)、あるいは昨年の大阪北部地震では、密集した都市の死角で助けを求める声を上げられず、被害にじっと耐えたままの高齢者や障害者、外国人が少なからずいました。

そうした支援のモレやムラがないか、今回もすでに迅速な動きを見せている災害救援系のNPOと行政が連携して見回ってもらいたいと思います。

車の代替手段、小回りのきく支援者の確保

また、今回は自動車の冠水がクローズアップされています。何台もの車が屋根まですっぽりと水に浸かった映像は衝撃的でした。地元では車での移動が多く、「佐賀の人は街を歩かない」という自嘲気味の話を聞きました。統計的には、佐賀県の自動車保有率などが他の地方よりとりたてて高いわけではないですが、車に頼った生活をしている人が多いのは確かでしょう。

車が使えなくなると、被災者自身の移動が難しくなるのはもちろん、被災者同士の助け合い、つまり互助(共助)の動きが鈍くなります。同じ支援物資を広く大量に配布する場合は、大型の支援車両が何台か入ればいいでしょう。しかし、特にアレルギー患者など、個別的な支援が必要な場合は普段のネットワークの中に、小回りのきく動きのできる支援者が入ることが望まれます。例えばバイクなどで個別の物資をきめ細かく配っていくようなイメージです。

昨年の西日本豪雨では、モノ(アレルギー支援物資)があるのに動かせないという現場を目の当たりにしました。私自身が何かできないかと模索しましたが、結果的に何もできませんでした。経験豊かなボランティアやNPOがそうしたニーズにも的確に応えてくれることを期待します。

法制度の理解と情報発信を

近年は被災時の法制度が徐々に整ってきています。一方で、まだそれが十分に理解、活用されていないとの指摘もあります。

30日現在では佐賀県の10市10町に「災害救助法」が適用されています。これは避難所の開設や水、食料の提供、住宅の応急修理などを都道府県が主体となって進める法律です。

今後はさらに、最大300万円の支援金が支給される「被災者生活再建支援法」の適用が見込まれます。その判断の基となる「罹災証明書」を早めに申請しておくといった情報はだんだんと周知されてきました。しかし、実際の手続きやその後の流れなどは複雑な面があります。

法制度については今回、すでに佐賀県弁護士会が「被災者生活再建ノート」の提供を始めています。支援制度をチェックシート形式で分かりやすく確認できる冊子です。生活再建の見通しが少しでも見えることで、精神的にも楽になるでしょう。こうした情報も多くの被災者に届くことを願っています。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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