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福島・鮫川事故のプラントメーカーが飯舘の入札にも参加か

関口威人ジャーナリスト
除染廃棄物の仮置き場となっている福島県飯舘村の「クリアセンター」(関口威人撮影)

福島県鮫川(さめがわ)村で起こった仮設焼却施設の爆発事故について、筆者なりに何度か報じた。

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1キロ当たり8000ベクレルを上回る放射性物質を含む高濃度の除染廃棄物などを燃やし、体積を減らす「減容化」の処理を確立するため、環境省が地域の反対を押し切って造った実証実験施設だ。

「絶対安全」を強調していたにもかかわらず、本格稼働からわずか11日目に事故は発生。二重の運転マニュアル違反があった上、現場から警察、消防への通報もなく、住民は「あまりにずさん」と猛反発、施設は今もストップした状態だ。

そのさなか、環境省は同県飯舘(いいたて)村に同様の施設を本格建設するための入札を平然と実施、これに鮫川で事故を起こしたプラントメーカーが参加した疑いがある。

あまりにも住民の安全を軽視した対応ではないだろうか。

総額40億円の事業

事業は環境省の福島環境再生事務所が発注。飯舘村小宮地区の一般廃棄物最終処分場「クリアセンター」内に、村内の除染や片付け作業で出た畳や家具、稲わらや牧草、廃木材などを燃やす1日5トンの処理能力をもつ焼却炉を備えた施設を造る。

正式な事業名は「平成25年度(平成24年度繰越)飯舘村小宮地区対策地域内廃棄物処理業務(減容化処理)」。予算総額は約40億円に上り、その見積り価格を含めた企画提案書の提出を求める企画競争入札だ。

公示は8月23日。鮫川の事故が起きたのはその6日後の8月29日。

環境省本省の指定廃棄物対策チームは9月2日に事故の第一次原因調査結果を報告、同時に再発防止策がまとまるまで運転は再開しないと表明した。ところがプラントメーカーに対する指名停止などの措置はとらなかった。

飯舘の入札も予定通り続行。規定通りの参加資格では、事故を起こしたメーカーは排除されない。

企画書の提出期限は9月11日。

その直後、私は関係者からこのプラントメーカーが飯舘の入札に参加し、環境省がそれを受理した、との情報を得た。

飯舘の事業について記された書類。さらに5倍近く大きな規模の施設も検討されている
飯舘の事業について記された書類。さらに5倍近く大きな規模の施設も検討されている

環境省、メーカーは「ノーコメント」

それを基に環境省、プラントメーカー双方に取材を申し入れた。しかし、福島事務所の担当者は「調達期間中は参加業者名を含めた入札の内容について一切言えない」とする。調達期間とは事業者が選定され、契約が締結される見通しの10月末までだという。私の情報は「談合情報の一種」として取り扱うとはしたが、それで入札が見直されるような気配はない。

一方、メーカー側は「鮫川の事故については原因究明や再発防止に努めている。飯舘の施設について、非公開の内容にコメントできない」と回答した。

常識的、合理的に考えて、入札にかかわっていなければ「今回は自粛した。飯舘の事業には一切無関係」と言い切ればよい。それは住民に評価されることはあっても、企業にとって不利益をもたらすことはないはずだ。

参加していなければ「ない」と明言を、あるいはコメントできない合理的な理由を示してほしいと求めた。しかし回答期限までにメーカー側からそれ以上のコメントはなかった。こうした対応であれば「参加した」と受け止めても仕方ない、と告げてある。

もちろん「参加していない」可能性は残されている。また、環境省が受理後、どこかの過程でこのメーカーを外すこともあり得る。真相を闇に葬るのは簡単だ。しかし一連の流れは悲しいほど「原子力ムラ」の構図に重なる。これで納得できる人はいるだろうか。

「復興に役立てばとの思いで環境省のスケジュールに合わせ毎日バタバタと業務をしているが、それが疑問に感じるようになった。あまりに安全軽視で、住民置き去りの復興ではないか」

怒りと疑問の声は、「ムラ」の内部から上がっているのだ。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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