新型コロナに伴う休業補償はどこまでできる?

新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛で経済活動にも影響(写真:つのだよしお/アフロ)

新型コロナウイルス感染拡大防止のために一斉休校にしたり、イベントや外出が自粛されたりすることで、休業せざるを得なくなった人が多く出ている。テレワークができるなら仕事ができるから給料ももらえるが、休業を強いられるとその分収入が減って家計に響くと心配する声が出ている。

これに対して、政府は、従来からある休業補償の仕組みの活用を呼びかけている。従来からある仕組みとは、雇用保険である。雇用保険には、いくつかの給付の仕組みがあるが、その中に雇用調整助成金という仕組みがある。

厚生労働省は、今般の新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主も特例として雇用調整助成金の対象とすると決めた。

雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものでである。

雇用保険の加入には、フルタイムかパートタイムかは問わない。パートタイム労働者でも加入できる。

31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者で所定労働時間(休憩時間を除く労働時間)が1週間で20時間以上であれば、加入が義務付けられる。これまでに雇用保険に加入していれば、上記の雇用調整助成金は適用対象になる。

雇用保険に加入するには、事業主が手続きすることが必要で、労使がそれぞれ負担する雇用保険料を払っている必要がある。

雇用調整助成金は、労働保険特別会計(雇用勘定)から支給されるから、国家予算として国会での議決が必要だが、十分に余裕を持って予算が組まれている。

そして、財源も備えがある。労働保険特別会計雇用勘定には、雇用安定資金という積立金がある。これまでに納められた雇用保険料がその元手で、資金は雇用調整助成金のためだけにあるわけではないといえども、雇用安定資金の残高は2019年度末に1兆3890億円となる見込みで、それだけの備えがある。雇用調整助成金の財源を確保したいなら、この雇用安定資金を取り崩せばよい。

ただ、問題もある。雇用調整助成金は、雇用保険加入者にしか支給できない。パートタイム労働者でも、雇用保険に入っていれば支障はないが、必ずしもそうではないし、フリーランスを含む個人事業主は加入していない人が大半だ。

今年1月現在で、就業者数は6687万人、雇用者数は6017万人、雇用保険の加入者(被保険者)数は4417万人で、雇用者のうち73.4%加入している(就業者数と雇用者数は総務省『労働力調査』、雇用保険の被保険者数は厚生労働省『雇用保険事業月報』による)。逆にいえば、雇用者のうち26.6%は雇用保険に加入していない。就業者との比率でとれば34.0%は雇用保険に入っていないことになる。

就業者の3人に1人は上記の仕組みが使えない。そうなれば、別途の仕組みを臨時に設けるしかない。しかも、予め用意している財源もない。

政府は、3月10日に第2弾の緊急対応策を発表する予定で、フリーランスを含む個人事業主に実質的に無利子・無担保の融資や保護者が休職した場合の新たな助成金制度の創設など、上記の仕組みではカバーできない人に対する支援が盛り込まれるとのことである。

ただ、「融資」では後日返済が求められるから、それでは支援になっていないのではないかとの声もある。渡し切りの「給付」にできないのか、と。

渡し切りの給付にするには、国の一般会計から税金を財源として給付する仕組みを新たに設けるということが考えられる。2019年度予算は、3月現在2700億円余の予備費が残っており、それを活用すればよいとの見方もある。

ただ、この2700億円という金額は、新型コロナウイルス感染対策に諸外国が注ぎ込んでいる金額に比べて少なすぎると批判する向きがある。しかし、この批判は、会計年度の仕組みを理解しておらず、的を射ていない。

わが国は、4月から始まり翌年3月までが会計年度で、今年度予算は3月末までしか有効ではない。繰越はできるものの、4月からは新年度予算が(国会で可決されれば)執行できる。3月も残り20日しかないのに、2019年度予算でてんこ盛りの経費を計上しても、すぐに失効する。経費を計上するなら2020年度予算ですべきだろう。ちなみに、3月末までに自然成立が確定しているが、現在参議院で審議中の2020年度予算案には、5000億円の予備費が計上されており、当面の特例的な経費を賄うだけの備えはある。

諸外国が新型コロナの対策費を日本より多く計上しているのは、会計年度の途中の月だからである。会計年度は、アメリカは10月から翌9月、中国、韓国、イタリアは1月から12月で、今たくさん計上しておかないと、年度途中で再度積み増さなければならなくなるからである。

さて、渡し切りの給付に話を戻そう。雇用保険でカバーされていない対象に、税金を財源として給付するというのは、政治判断である。特に低所得者を支援するには効果的だろう。

それなら、政府は即決すればよいのに、それができないのは、多くの国民がそれで割り切ってくれるかという悩ましい問題があるからだ。

雇用保険は、保険料を払った人しか支援が受けられない。だから、雇用保険に入っていない非正規雇用者やフリーランスはカバーされない。保険料を払っていないのだから、支援することはできない、というわけだ。

そこで、雇用保険に入っていない人たちに税金を財源として支援するとなるとどうか。対象者は助かる。しかし、雇用保険料を払っていなくても税金を財源として助けてもらえるのなら、毎月手取りの給料を減らして真面目に保険料を払ったことが報われないと、雇用保険の加入者から不満が出てくる。雇用保険料には事業主負担もあるから、その分人件費がかさむのに報われないなら、真面目に雇用保険の加入手続きをしない事業主が増えるかもしれない。

保険料を払った人しかそれを財源とした支援はできないといいつつ、その支援対象から外れた人に税金を使って支援すると真面目に保険料を払った人が報われないとの声が出る。さりとて、税金を使わず保険料を財源にして、保険料を払っていない人も支援するというのも、自らの保険料を他人に使うなといわれる。それは、今回のケースでも、公的年金でもそうである。

税金を投じて支援することは必要だが、既存の仕組みとどのようにバランスをとっていくかにも配慮が必要である。