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休業要請には、補償より「持続化給付金」の即支給で助かるワケ

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
緊急事態宣言に伴い休業要請が出されたが、休業に協力した事業者はどうなる?(写真:アフロ)

4月7日に、政府は7都府県を対象として緊急事態宣言を発令した。これに伴い、東京都などで緊急事態措置を実施し、休業要請を行った。

休業要請にすぐに協力できる事業者もいれば、すぐにはできない事業者もいる。特に、休業よって生じる損失に対して補償がなければ休業できないとの声が出ている。

全国知事会は、休業要請と補償はセットで、国の責任において行うべきとの提言を出した。

これに対し、政府は、個別の損失を直接補償するのは現実的ではないとの立場を崩していない。小売店舗が休業して、仮にその損失を補償できても、小売店舗が仕入れる卸売業者や生産業者にまでさかのぼって補償しないのでは整合性が取れない。しかし、そこまでさかのぼったらいくら補償すればよいか検討がつかない。

休業に伴う損失の補償といっても、従業員の休業補償と違って難しいのは、「損失」を確定させることである。ここでいう「損失」は、補償というのだから、逸失利益(もし開店していたならば得られたであろう利益)に相当するものといえよう。そもそも自粛要請に応えずに開店したらいくら利益が上がるかが容易に推計できない。さりとて仮に、昨年同月に得ていた利益に見合っただけの補償をするとしても、昨年同月に得ていた利益を事業者が書類等で証明しなければならない。それは手間である。

要するに、損失補償といっても、事業者にとって「損失」を示すのは容易でないということである。

つべこべ言わずに、ざっくりと補償してくれればよい。そう、ざっくりと補償する。

それこそ、休業補償ではないのだが、2020年度補正予算案に盛り込まれた「持続化給付金」がある。2020年度補正予算案については、拙稿「緊急経済対策に伴う補正予算はどうなった」で詳述しているが、新設する持続化給付金に2兆3176億円計上している。

持続化給付金(新設されるから聞き慣れないのは当然だが)とは、事業収入が前年同月比で50%以上減少した事業者について、中堅・中小企業は上限200万円、フリーランスを含む個人事業主は上限100万円の範囲内で、前年度の事業収入からの減少額を給付するものである。ここでは、利益でなく売上で給付額を判定する。

もし休業要請に応じて休業すれば、売上はゼロである。半減どころではない。休業要請に応じて完全に休業すれば、確実に給付金の支給要件を満たす。

もちろん、前年同月の売上は示さなければならないが、それすらも管理できていないようでは商売にならないだろう。

とはいえ、給付にはまた煩雑な手続きがいて、窓口に並ばなければならなかったりして、そこで「濃厚接触」なんて馬鹿げている、と思いきや、そうでもない。

報道によると、既に政府は、オンライン申請にて受け付け最短7日で給付金が支給できるように進めている。そして、支給は原則銀行振り込みである。だから、窓口に並ばずに済む。

政府、最短7日で給付金支給へ 中小企業支援策 オンライン申請で(毎日新聞)

この給付金の利点は、地方自治体を介さないことである。自治体を介すると、給付金の支給は遅くなる。

詳細はこれから詰められるだろうが、イメージとしては、既存の「ものづくり補助金」で用いられている、インターネットを利用した「電子申請」である。ネットでの手続きで完結する。この「ものづくり補助金」も、今回の緊急経済対策で拡充されることになっている。

このように、ネットでの申請と給付には、既に実績がある。ネットで申請できない人には、全国の商工会議所で相談に乗るという。

他方、緊急事態宣言の対象となっている7都府県が、2020年度補正予算案に盛り込まれた1兆円もの新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)を国から受け取った後で、休業要請に応じた企業に協力金を払うために使わせろ、と国に申し入れた。

今(公開時現在)、国は検討中なのだが、仮に都府県から休業要請に応じた協力金がもらえたとしても、それが手元に届くには、相当時間がかかる。まず、補正予算成立後に国が、どの地方自治体に、いくら臨時交付金を配るかを計算しなければならない。この臨時交付金は、緊急事態宣言の対象都府県だけのものではない。加えて、各都府県は、協力金を支給するための予算や体制を整えることから始めなければならない。

都府県が出す協力金をあてにするぐらいなら、持続化給付金を早期に申請すればよい。休業補償という形ではなく、事業継続に困った事業者への支援が狙いの持続化給付金の方が、既に予算案は閣議決定しているから、早期にもらえる。もちろん、資金繰り支援は、無利子・無担保融資を含め、別途用意されている。

補償か協力か支援かでもめていても仕方ない。国から出すか都府県から出すかの政治家の手柄争いに巻き込まれてはたまらない。

持続化給付金がいつからもらえるかは、補正予算が国会でいつ成立するか次第である。与野党が協力すれば、4月じゅうの成立も期待できる。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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