【政策会議日記4】法人税の減税は必要か(税制調査会)

法人税の帰着

あけましておめでとうございます。今年も本欄をご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。

政府税制調査会

2013年12月31日の日本経済新聞朝刊3面に掲載された記事「アベノミクスの宿題(4)法人税下げ先送り」に、法人税に関する私のコメントが取り上げられました。そのコメントは、2013年12月2日に開催された税制調査会第4回総会における私の発言に基づくものでした。

税制調査会は、租税制度に関する基本的事項を調査審議することを目的とした内閣総理大臣の諮問機関です。「税制調査会」という同じ名前の会議は、自民党と公明党にも、国会議員がメンバーとするものがあります。与党の税制調査会(略して党税調)と区別して、こちらの会議は「政府税制調査会」(略して政府税調)とも呼ばれます。

政府の税制調査会は、民主党政権下で政策決定の一元化を目指して政務三役と与党幹部をメンバーとした会議に運用を変えた時代がありましたが、第2次安倍内閣になって、旧自民党政権期と同じように、民間の有識者を委員とする会議に戻しました。私はその委員を仰せつかりました(政府税制調査会委員名簿(PDF))。

2013年6月に安倍晋三首相から諮問(PDF)を受けて議論を開始した政府税調は、国際課税とマイナンバー(社会保障・税共通番号)制度を主に取り上げることとなりました。政府税調は、旧自民党政権期には、所得税、法人税、消費税、地方税など税制全般を幅広く議論して、来年度の税制改正のあり方についても意見を取りまとめていました。しかし、第2次安倍内閣では、今のところ、来年度の税制改正のあり方については、かつての姿に復した政府税調では議論せず、党税調で議論する位置づけをとっています。

そんな中で、2013年12月2日に開催された政府税調第4回総会では、当初予定になかった法人税を議論で取り上げたのでした。契機は、前述したように、安倍首相の諮問を受けて議論することとした国際課税でした。国際課税の1つの焦点は、税率や税制が各国で異なることから、多国籍企業が上げた利益をどの国で稼いだものとするかを操作することにより、税負担を軽くするという行為が顕著となっているため、わが国としてこれにどう臨むかということで、それを政府税調で議論することとしていました。しかし、議論を国際課税の専門的な話に限定しようにも、国際的な法人課税の方向性もあわせて議論しなければ、大局的な議論はできません。

私も委員として、政府税調に設けられた国際課税ディスカッショングループ(以下、国際課税DG)の場でも、法人課税の議論を政府税調で是非取り上げるべきだと意見を申し上げました。具体的には、国際課税DG第1回会合にて発言し、その議事録(21ページ)に残っています。

そんなこともあってか、政府税調の場で法人課税についての議論を1回の会合を割いて行うこととなりました。

法人擬制説の意義

法人税を減税しても、企業だけが恩恵を受けて消費者や労働者には恩恵がない、という主張があります。しかし、税負担は生身の人間にしかできません。企業の利益(税法上は法人の所得)に対して課税する税が法人税という名前であっても、「法人」という生身の人間はいません。したがって、法人税の負担に関して、「法人という怪物がいると考えるのは間違い」です。私は、この考えを、政府税調第4回総会で述べ、それが、日本経済新聞2013年12月31日朝刊3面の記事で引用されたのでした。

法人税は、生身の人間の誰かが負担して始めて納税されるものです。法人という怪物が負担してくれるから、消費者や労働者は負担しなくて済むというものではありません。法人税が課された分だけ、労働者がもっと高い賃金を受け取れたはずのところをより低い賃金にとどまったり、株主がもっと多い配当を受け取れたはずなのにより少ない配当にとどまったり、消費者がもっと安く品物を売ってもらえたはずなのにより高い値段で買わざるを得なかったり、下請け企業など仕入先企業からは仕入れる品をもっと高く買ってあげられたはずなのに(値引きを強要するなど)より低い値段でしか買えなかったりする(ために仕入先企業の従業員等にしわ寄せが及ぶ)という形で、税負担が転嫁されていると見るわけです。この見方は、法人擬制説に基づきます。

オーナー経営者が経営している企業なら、所有と経営が明確に分離していないかもしれず、オーナー経営者を「法人」なる怪物にたとえることはひょっとしたらできるかもしれません。しかし、法人税減税で恩恵を受けるのは、多くの法人税を払っている大企業であることから、法人税減税は大企業優遇という批判に基づけば、大企業を(生身の人間でない)怪物とたとえるには無理があります。なぜなら、大企業の大多数は所有と経営が分離した上場企業であり、そうした企業ではオーナー経営者が独善的に経営している姿とは遠くかけ離れているからです。したがって、法人税減税は大企業優遇という批判は、法人擬制説に基づくと的外れなわけです。

法人擬制説に基づくと、法人税減税を行えば、税負担が軽くなる分、労働者の賃金が上がったり、株主の配当が増えたり、消費者に売る品物の値段が下がったり、下請け企業から仕入れる品の値段を上げられたりするという形で、経済全体に恩恵が広がるのです。もちろん、その度合いは、企業や商品が置かれている経済的環境(より専門的に言えば需要や供給の価格弾力性)に依存しますから、即効性がある形で賃金が上がるかどうかは、ケースバイケースです。しかし、法人税減税を行うことで賃金が下がるということは、論理的にあり得ません。法人税減税による直接効果では、賃金は上がりこそすれ下がることはありません。

法人税を減税しても、法人税を払う企業は全体の3割しかいないから、その恩恵は限定的だという見方もあります。しかし、同じ第4回総会に事務局から提出された資料(PDF)の17ページにあるように、全体の7割は法人税を払っていないものの、全体の4割はその年は黒字だったが前年度までの赤字を繰越したため法人税を払わないことになった法人です。この4割の法人は、繰越欠損金がなくなれば、法人税を払うことになります。そうした「納税予備軍」ともいうべき企業も加わり全体の7割の法人で法人税が減免されるなら、法人税減税のプラスの効果はより幅広く働くでしょう。その観点以外の法人税減税の必要性については、拙編著『日本の税をどう見直すか』日本経済新聞出版社刊をご覧下さい。

来年度の税制改正を取りまとめた党税調では、法人税について、復興法人特別税を1年前倒しで廃止する(これにより法人実効税率が引き下げられる)ことまでは決めましたが、さらなる法人実効税率の引下げは見送られました。これは、今年も継続的に議論されることになります。

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※ 余談 ※

2013年12月2日の政府税調第4回総会には、私はその直前に赴いていたアメリカ・ワシントンからの帰国便を降機した成田空港から、荷物を持ったまま会場に直行しました。その道中で思わずツイートしてしまいました。