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回復への道のり険しいライブ業界 コロナ後に待ち構える大問題【前編】

武井保之ライター, 編集者
さいたまスーパーアリーナで21年5月に開催された『VIVA LA ROCK』

 2020年の市場規模は過去最高を記録した19年の8割減となったライブ・エンタテインメント業界。21年も完全復興からはほど遠かったが、イベント開催制限下でのライブやイベントも少しずつ増え、19年の4割ほどまで回復しているようだ。しかし、ウィズコロナ社会において、感染防止対策が前提となるライブ運営はコロナ前と大きく変わった。業界の現状とこの先に待ち受ける大きな問題をディスクガレージホールディングス・グループ代表であり、コンサートプロモーターズ協会・会長の中西健夫氏に聞いた。

■21年市場はコロナ前の4割、感染再拡大で先行き不透明

 コロナ前の19年ライブ市場は過去最高の6295億円だったが、20年は8割減の1106億円という大打撃を受けたライブ・エンタテインメント業界(注)。コロナの影響が延々と長引いた21年も苦境を余儀なくされた。そんな1年を中西氏はこう振り返る。

「緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が続いた1年で、コロナ前のような完全な形でのライブは実施できていませんでした。春からはフェスも一部で再開されましたが、収容率50%と観客数上限5000人の制限のなかでは開催しても利益的に成立しません。J-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)を使いながら、なんとかやりくりしてきたのが現状です」

 最多感染者数を記録した夏を乗り切り、昨年11月以降は感染者数がかなり減少した。しかし、一方で新たな変異株のオミクロン株の感染が拡大してきている。この状況を業界はどう見ているのだろうか。

「観客がどう判断するかです。欧米に比べて日本はゼロリスクを求める風潮が強いので、何かあったら自粛しようという意識がすぐに働きます。ライブ・エンタテインメント業界はまさにその直撃を受けていて、ライブに行くという行動自体がまだ早いのではないかという意識が一般的な状況です。それはいまだに続いており、感染防止対策のガイドラインを守って実施することは問題ないのですが、苦境にさらされているのは変わりません」(※21年12月10日取材時の状況において)

 そんな21年の市場規模は、20年よりは持ち直しているものの業界の厳しさは変わらない。中西氏は「公演数はだいぶ増えている一方、大規模会場公演ができないので動員数が伸びていません。20年同様に厳しい状況が続いています」と表情に険しさを滲ませる。

■ゼロリスクの日本社会で難しい100%回復

 いまだコロナの先行きは不透明だが、22年3月までにイベント開催制限が完全撤廃されれば、23年には市場規模がコロナ前の水準に戻るとの予測(ぴあ総研)もある。しかし、業界が危惧するのは人々の意識だ。制限の撤廃がそのまま復興へのスタートにはならないとする。

「観客の意識がもとに戻るかが大きな問題です。普段からマスクをしないコロナ前の日常になれば回復すると思いますが、なんらかの制約があるなかではライブに行くことを躊躇する人も当然いるでしょう。人の気持ちがどう動くかに大きくかかっていると思います。ですから、その状況は現時点では見込みが立てられません」

 その背景には、オミクロン感染が拡大するなかでも経済活動を継続する欧米とは異なる日本社会特有の事情がある。業界としては国による明確な指針を期待したいところだろう。これは経済界全体の考えとも重なるかもしれない。

「日本社会がゼロリスクを取るのであれば、100%の回復はなかなか難しいのではないでしょうか。しかし一方でそれは、国がどう判断してどう指針を出すかによって大きく変わってきます。ウィズコロナと考えられるかどうか。今の生活のほとんどがウィズコロナになっていますが、ライブ・エンタテインメントに関してはまだそこに到達していないのが現実です。我々としては、国が正確な状況判断をして、国民に対してはっきりとした指針を示してほしい。そのための材料を提供してきています」

■コロナ対応で運営費増、チケット代上昇は不可避

 昨年のライブやイベント開催においては、徹底した感染防止対策のもと入場時にはワクチン接種証明やPCR検査陰性証明の提示が求められるようになった。ウィズコロナ社会では、ライブ運営およびコンサートビジネスのあり方がこれまでとは変わってくるかもしれない。

「コロナ禍における分断という言葉が使われていますが、コンサートでも若い人だけの公演であれば、すべてスマホで完結する電子化ができます。チケットのもぎりも要りませんから、非接触型の運営がしやすい。しかし、デジタルに弱い高齢者を含めて、ある一定の年齢から上の層には、紙チケットでないと売れない。独特の成り立ちをしている業界なので、世の中とは逆に、電子化すればするほど課題が増えていきます。ハイブリッドの一番良いパターンをどう作るか模索しているところです」

 その効率的な運用のためのシステム作りが急がれるところだが、中西氏は「本来はヨーロッパのようなワクチンパスポートの形で、国をまたいで利用できるものがあるべき」としながら、国内のワクチン・検査パッケージ制度さえなかなか進まない日本の政治状況を危惧する。

 いずれにしても、コロナ対応によりライブやイベント主催者側の運営コストは上がらざるを得ない。そうなるとやはりチケット代もこれまでとは変わってくるのだろうか。

「今までと同じでは運営ができなくなりますから、やはりいくらかは上がらざるを得ないでしょう。その傾向は致し方ないのではないでしょうか」

「この業界に携わる人たちは全国で約6100社、約63万人います。コロナでライブがなくなり、業界を離れざるを得ない方も多くいました。今現在も厳しい状況に変わりはない。業界の未来のためにこの雇用を守るのはとても大事なことです」

 そして、イベント開催制限が撤廃され、平時のようにライブやイベントが開催できるようになったときに、業界はもうひとつの大きな問題に直面する。

「この2年間で公演が何万本と延期や中止になっている影響で、会場が玉突き状態になっています。再開したらしたで今度はその問題を整理していかないといけない。コロナ前はアリーナの建設計画が全国で20数箇所あったのですが、地方自治体の財政も厳しくなるなか、これからどうなっていくか不透明です」

◆【後編】会場不足の解消へ? 音楽界の地方創生への新たな取り組み

注:市場規模はぴあ総研の推計。オンラインライブは含まれない

ライブ画像(C)VIVA LA ROCK 2021 All Rights Reserved 撮影=小杉 歩

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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