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ワーナー映画の戦略<前編>コロナ禍の経営判断、邦画実写2作が年間上位を独占

武井保之ライター, 編集者
公開中の『DUNE/デューン 砂の惑星』(提供:ワーナー ブラザース ジャパン)

 ハリウッドメジャースタジオの1社であるワーナー ブラザース。日本では洋画配給だけではなく、邦画製作を積極的に手がけ、数々の大ヒットを生み出すとともに日本映画界をけん引している。今年は『るろうに剣心 最終章 The Final』と『東京リベンジャーズ』が興収40億円を超えるヒットとなり、邦画実写興収1、2位を独占する。コロナと配信で揺れたこの1年の興行をワーナー ブラザース ジャパン(ワーナー映画)社長 兼 日本代表の高橋雅美氏に聞いた。

■1年延期した『るろ剣』、公開直前に再びコロナで劇場閉鎖の苦難

 どの業界にとってもその対応は簡単なものではなく、業績へ大きな影響を及ぼしているコロナ。映画界においては、政府による緊急事態宣言によって、全国の映画館がクローズする前代未聞の事態になった。現在はほぼ通常に戻っているが、それでもつい先頃までは営業時間が短くなったり、座席数50%に限られる地区も多くあり、苦境が続いていた。

 そうしたなか、4月23日に公開した『るろうに剣心 最終章 The Final』は、興収43億円を超える大ヒットとなり、今年の邦画実写興収1、2位の座を争っている(10月現在)。そんな同作は、もともと昨年夏公開予定だった。ワーナー映画が社運をかけた製作費数十億円の1作。高橋社長は「昨年のコロナによる社会不安が広がっている状況で公開すべきか、延期したほうがよいのか、監督、役者、関係各社、弊社社員と作品に関わる全員が知恵を出し合って議論し、今年GWへの延期を決めました」と振り返る。

 ところが、今年4月にコロナが再拡大し、東京、大阪をはじめ4都府県の映画館が再び週末は閉鎖(週末再開は6月)。そんな状況で公開していいのか、再延期すべきなのか、そこでも議論があった。

「映画の難しいところは、公開時期を動かせばいいかというとそうでもない。鮮度が大事になります。さらに、宣伝のタイミングや劇場の編成もあり、簡単には動かせない。ここで再延期したところで、この先もこういった事態は起こりうることから、公開に踏み切りました」

■コロナ禍でもハリウッド新作劇場公開を敢行

 難しい判断を経ての公開だったが、結果は昨今では興収10〜20億円でヒットとされるなか、40億円を超える大ヒットになった。通常の興行では、公開から3〜4週までがもっとも大きな数字になる。しかし、本作は異例のロングヒットとなり、10週かけて40億円に到達した。その要因を高橋社長はこう語る。

「宣伝や営業、監督、役者が一体となって長い時間をかけて目標通りのヒットを作り上げたんです。その要因として、『るろうに剣心 最終章』は『The Final』と『The Beginning』の2部作になるのですが、2作を連動させた宣伝展開ができたことが大きかったと思います。シリーズ1〜4までの作品のなかの“4”と“0”となり、どちらを先に観ても話がわかるので、2作とも観たくなる。『The Beginning』は6月4日公開でしたが、週末映画動員ランキングで1位2位を独占したことも話題になりました」

 一方、コロナ禍の映画界で問題になったのが洋画不足。ここ最近になり、ようやくハリウッド大作が劇場に戻っているが、コロナの情勢が厳しいアメリカで劇場公開がストップしていた昨年秋は、ほとんどの新作が公開延期、もしくは配信へのシフトが相次ぎ、日本のシネコンに洋画がほぼゼロとなっていた。しかしそんななか、ワーナー映画はハリウッド大作『TENET テネット』の劇場公開を敢行した。

「ひとつには、映画館のスクリーンで観てもらいたい、窮地の映画館を救いたいというクリストファー・ノーラン監督の意思があります。日本でも配信が伸びていますが、スクリーンで観る映画への需要がなくなったわけではない。おかげさまで興収27億円を超えるヒットになりましたが、我々が映画館で観る体験を守っていくのは今後も変わりません」

■米本社も支援する日本での積極的な邦画製作

 ワーナー映画は、米メジャースタジオの日本法人でありながら、邦画製作に積極的に取り組んでいることが特徴的だ。かつてはソニー・ピクチャーズや20世紀FOX映画の日本法人もローカルプロダクションを手がけていたが、現在は米メジャースタジオではワーナー映画が唯一だろう。しかもその製作費も本数も年々拡大している。

「ワーナー・ブラザースはすばらしい映画を作るというシンプルなビジョンに基づいている映画会社。日本市場の半分が邦画であれば、洋画だけでなく邦画を手がけるのも自然なことです。米本社も『洋画も大事だけど邦画もやるべき』とサポートしてくれます。ただ、映画製作はハイリスク、ハイリターン。成功の陰で失敗もあります。それでも製作を続けてきたこと、失敗しても辞めなかったことがいまにつながっています」

「私が社長になった当時、邦画は年1〜2本だったのですが、もっと活性化すべきと考えて予算を増やし、いまは年10本ほど。そうしたなか、この5年で進めているのは、本数を増やすとともに世界に日本映画を出していくことで、利益構造を安定させることです」

◆<後編>米映画界では劇場から配信まで45日が既定路線へ?日本はどうなる

画像クレジット:『DUNE/デューン 砂の惑星』(C)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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