北海道北見市のアドヴィックス常呂カーリングホールで開催されている「第39回全農日本カーリング選手権大会」だが、クライマックスを前に悲しいニュースが入ってきた。

 2010年バンクーバー五輪銀メダル、2014年世界選手権(中国・北京)金メダルなどの実績を誇る、ノルウェーを代表する世界的カーラー、トマス・ウルスル選手が癌との約1年半との闘病の末、亡くなった。50歳だった。

 ウルスル選手をはじめとしたノルウェー代表はバンクーバー五輪で「カーリングは地味なので、カラフルな部分を見せないと」という理由で「カーリングパンツといえば黒のスラックス」という概念に捉われず、ノルウェーのナショナルカラーである赤青白をあしらったカラーリングをはじめ、様々な色彩で遊んだパンツ、“派手パン”を世界に先駆けて着用。多くのファンの心をつかんだ。2018年の平昌五輪では季節柄、バレンタインデーを意識したでハート柄のパンツが話題になった。

 もちろん、日本のファンやカーリングチームも例外ではない。今回の日本選手権に出場しているトップカーラーの多くもウルスルさんに魅せられた。特にチーム東京(I.C.E.)のメンバーは、華やかさと強さに憧れて国内で最初に派手パンを導入したチームだ。

 そのあたりの経緯は元メンバーで現JCA(日本カーリング協会)のマーケティング委員である岩永直樹氏がしたためたnoteに詳しいが、現在ではTMKaruizawaも水玉模様のパンツを着用するなど、ウルスルイズムは日本でも継承されている。

2013 Victoria Curling Classicにて。残念ながら直接対決は叶わなかった。写真右上の橋本祥太郎と肩を組むのがトマス・ウルスル選手。 写真提供:チーム東京(I.C.E.)
2013 Victoria Curling Classicにて。残念ながら直接対決は叶わなかった。写真右上の橋本祥太郎と肩を組むのがトマス・ウルスル選手。 写真提供:チーム東京(I.C.E.)

 訃報が日本を駆け巡った日本時間の5月25日から26日にかけても、谷田康真(北海道コンサドーレ札幌)、山口剛史(SC軽井沢クラブ)、吉田知那美・夕梨花(ロコ・ソラーレ)、近江谷杏菜(フォルティウス)ら、多くのトップ選手らがそれぞれのSNSで追悼の意を示し、ロコ・ソラーレは26日の試合で左腕に喪章をつけてプレーした。

 チームにとって初めての平昌五輪、「どうしても緊張はあったと思う」と振り返った吉田知那美が、それをほぐしてくれたのがウルスル選手だったと教えてくれたことがある。

「ちゃんとご飯食べてる? お菓子ばっかり食べてちゃダメだよ。せっかくのオリンピックゲームなんだから楽しんで。君たちはもうここに立ってるんだから」

 そんな声かけで肩の力が抜けたロコ・ソラーレが笑顔で快進撃をはじめ、それは今まで続いている。

 生粋のカーラーであったトマス・ウルスル選手のプライオリティの上位には、いつでもカーリングを楽しむこと、カーリングを観ている人を楽しませることがあったに違いない。

 奇しくも今大会、ロコ・ソラーレが掲げたテーマは「Must Have Fun」だった。

 スポンサーゼロからの再出発を果たしたフォルティウスが改めて気づいたのは「やっぱりカーリングは楽しいよね」という原点だった。

 今季からフォースだけでなくスキップを任された中部電力の北澤育恵は「難しいけれど楽しくもあります」とコメントした。

 プレーオフ進出が厳しくなった富士急の小谷有理沙は残りの1試合について「楽しんでやれたら」と笑顔を見せた。

 カーリングはいつだって楽しんだチームがいちばん、強い。あるいは強くなる。ウルスル選手が50年をかけて遊び心と共に残してくれたのは、そんな真理のようなものだ。

 長い五輪シーズンも残すはあと3日間、20試合のみだ。ウルスル選手が羨むような、熱く楽しいカーリングを展開するのが何よりの弔いだろう。世界中に愛された巨星よ、安らかに。