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いつも「ドローだテイクだスイープだ」と偉そうに書いているライターがカーリングをやってみた

竹田聡一郎スポーツライター
2013年に竣工した軽井沢アイスパーク (C)SC軽井沢クラブ

 ついにラウンドロビン(総当たりの予選)最終戦を迎える、カーリング日本代表のロコ・ソラーレ。スイスは難敵だが、吉田夕梨花の世界一のセットアップ、好ショットを演出する鈴木夕湖の鬼スイープ、ヒットロールを連発しチャンスメイクする吉田知那美、そして勝利を手繰り寄せ日本に歓喜を届ける藤澤五月のラストロックがあればいいゲームができるだろう。日本中が応援している。

 その一方で、4年に一度、必ず出てくるのが「あんなのスポーツじゃない」だの「簡単そうに見える」だと宣う、自信家や皮肉屋たちだ。

 そんな話を平昌五輪代表チームを輩出したSC軽井沢クラブのヤマダ君と話していたら「そうですね。じゃあ竹田さん、カーリングがどんなに難しいかレポートしてみたらどうでしょう。汗をかいた後の軽井沢ビールはおいしいですよ。もぐもぐタイムは蕎麦でどうです」と提案された。

 我ながら甚だ単純だが、気づけば軍手とニット帽を装着して軽井沢アイスパークのAシートに立っていた。ご時世がら増えているという、軽井沢リゾートテレワーカーのみなさんとご一緒させていただいた。

 しかし、軽井沢に高い別荘を持つ会社経営者だろうと、身体に高い尿酸値を持つフリーランスだろうと氷上では平等だ。お互いに肩を貸し借りしつつ、準備運動などを進めてゆく。おのずと自己紹介や雑談などのコミュニケーションも増え、カーリングがチームビルディングを育むツールとしても注目されているのも納得だ。

 デリバリーのフォーム、スイープの超基本なども教わったあとは、シートを半分にしたゲームを行う。

 カーリング取材歴も12年を超えたのだが、実は常々、やってみたかったことがあった。ダブルロールインだ。

 カーリングのショットの名前は、ランバックとかフリーズとかタップバックとか、いちいちカッコいいのだ。その中でも特に必殺技っぽくていいのがダブルロールイン(※.1)だと密かに思っていた。最近では昨年の日本選手権で藤澤五月が決めていたのは記憶に新しい。

「ぼくダブルロールインやってみたいんです。必殺技っぽいから」

 厨二丸出しの発言にも、この日の講師の田口裕輔さんは「難しいショットですからねえ」と笑顔で対応してくれる。

 しかし、実際にストーンを持ってデリバリーの姿勢をとってみると、シートが半分だというのにハウスが遠く感じる。

 そして、テレビで観ている限り、選手のデリバリーは優雅に氷上を滑っているが、素人は滑るというかストーンに体重を預けてしまうので、リリース後、無様に膝をつくか転んでしまうかの2択だ。

 転ばないのに精一杯で、インターンかアウトターンかどころか、ドローかテイクかも曖昧で、自分で分かっていないのが悲しい真実だ。ハウスにほんの少し石がかかっただけでガッツポーズをしてしまい、ハードル激下がりである。何がダブルロールインだ。

「リードがセンターガードを置けないとゲームにならない」

「ヒットロールを決めてやっと複数点になる」

「石ごとにクセがあるのでそれを把握、チームで共有しなくてはならない」

「パス(石の通り道)の曲がり幅と重さの変化を感じとる能力が必要」

 そんな偉そうなことを書き散らしている記者がいる。僕だ。

 正直、アイスリーディングとか石のクセなんてところまでたどりつかない。カーリングって難しい、カーラーってすごい。それが結論だ。今後、ちゃんと忖度のない記事が書けるか不安になった。

 ただ、その一方で、とても楽しかった。プルプルしながらデリバリー、よちよち歩きでスイープ、といった素人丸出しのプレーでも、ごくまれにラッキーが重なってGプランくらいでナンバーワンストーンが作れたりすると嬉しい。でも、それを叩き出されると絶望を味わう。

「ああ、トップ選手はこの数百倍の絶望を味わいながら、折れずに何度も何度も強い石を作るんだな」

カーラーの偉大さに触れると同時に、自分も強く生きていこうなどという前向きな気持ちになれた。

謎の左手が我ながらイラつく。ストーンは激しく進み、スルーした。誰もイエスもウォーも言わなかった。 撮影:岡戸雅樹
謎の左手が我ながらイラつく。ストーンは激しく進み、スルーした。誰もイエスもウォーも言わなかった。 撮影:岡戸雅樹

 いい汗をかいて、いよいよグビグビタイムだと更衣室を出ると、個人練習に来ていたTMKaruizawaの両角公佑選手(※.2)にばったり遭遇した。ちょうどいいのでデリバリー上達のコツについて質問をしてみる。

「投げ込みしかないっすよ。筋トレなんかより同じ動作を繰り返して身体と脳にデリバリーフォームを覚えさせるしかない。2万投ですね」

などと、安西光義のようなことを言う。「このあとドラゴンと中電が練習試合やるみたいですから聞いてみたらいいんじゃないですか」とも。

 軽井沢アイスパークは多くのオリンピアンの練習場であるため、日本オリンピック委員会の「ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点」に指定されている。つまりトップチームが頻繁に合宿を張っているのだ。

 ドラゴンは常呂ジュニアとして日本選手権男子の部で初出場準優勝に輝いた次世代カーラーの星で、中部電力は今季日本代表として世界選手権出場権を勝ち取った名門だ。都心から至便なアクセスの他にも、このクラスの試合が日常に行われているのもカーリングタウン軽井沢の特徴だろう。

 果たして氷上では日本トップチーム同士が熱戦を繰り広げていた。生まれたての小鹿のようなガクブルしたデリバリーを披露した後に、ドラゴンの前田拓海選手(※.3)の地を這うフォームや、7歳児のようなビジュアルながら安定感のある中部電力・中嶋星奈選手(※.4)のショットを観察すると、改めて凄みがある。

 せっかくなので練習試合終わりに、中電のエース・北澤育恵選手(※.5)にもデリバリーのコツを聞く。

「えー、割と勘ですよ。私も最初はこけましたし、プルプルしてました。でも慣れっすよ。そのうちふわーっとなりますから。私は10回目くらいの練習でふわーっとなりました」

 さすが国内随一の天才肌だ。聞いててまったく伝わってこない。

 ただ、いずれにしても投げ込みが必要らしい。「カーリングなめてすいません」とひとりごちて追分にある蕎麦の名店「ささくら」で背中を丸めてヤケ酒をすすった。

 五輪はいよいよクライマックスだが、オリンピックシーズンの今季は、中部電力が出場する女子の世界選手権(3月19日-27日/カナダ・プリンスジョージ)、5月下旬の日本選手権など、テレビ中継やライブ配信が予定されているイベントが残っている。

 軽井沢アイスパークは常時、個人向けカーリング体験を開催(※.6)している。「いや、俺はできるはず」「なんとなく私、自信あります」という方は特に体験してみて欲しい。

 ボタン(真ん中)に投げるなんて夢のまた夢。ハウスに入れるどころか、ホグラインを越えてガードになる石さえ投げられないだろう。ビタビタ投げる人がいたらミラノ・コルティナを目指すべきだ。

 スイープどころか滑る石を追いかけるだけで精一杯。だからこそ鈴木夕湖のすごさが実感できる。

 体験後はどこかのライターのように、「なんかすいませんでした」という謝罪の気持ちとともに、カーラーたちへのリスペクトを抱き、カーリング観戦の楽しさが何倍にもなることを保証する。

(※.1)

ハウスの外にあるストーンに当て、当てた石と投げた石を共にハウスに入れる難易度の高いショット。

(※.2)

もろずみこうすけ。1988年長野県軽井沢町出身。平昌五輪出場。趣味はスポーツ観戦と『鬼滅の刃』一気読み。

(※.3)

まえだたくみ。2002年北海道北見市常呂町出身。今季は日本ジュニア選手権優勝。愛称は「タック」。

(※.4)

なかじませいな。1997年長野県軽井沢町出身。趣味は駄菓子の爆買い。愛称は「ピクシー」「まんじ」。

(※.5)

きたざわいくえ。1996年長野県佐久市出身。趣味は旅行。愛称は「べーちゃん」。

(※.6)

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スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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