稀代のムードメーカー、ロコ・ソラーレ鈴木夕湖が敢行した単独修行の結果と、来季狙っているデビューとは?

武者修行で意識が変わった鈴木が、来季躍進のキープレーヤーとなるか(著者撮影)

 ロコ・ソラーレには誰が決めたわけでもなく、自然と決まっていった役割がある。

 例えば、吉田夕梨花は遠征時のスケジュール管理を担当し、経理は鈴木夕湖。買い出しでは吉田知那美、洗濯では藤澤五月がそれぞれ指揮を執るようだ。

 同様にキャラクターも定着していった。藤澤が天才タイプなら、吉田知那美は秀才で、吉田夕梨花は職人。そして鈴木夕湖は「天然」と評されることが多い。

 練習のご褒美に飲めるクリームソーダにつられてカーリングを続けた小さな頃の逸話、いつもシンプルな服装を好むために某スニーカーチェーン店で「すいません、この24.5cmありますか?」と店員と間違えられたエピソードなどは、それぞれ今も語り草だ。

 今季もナイアガラの滝へ向かう一本道で迷子になったり、愛犬「だいず」に鼻っ面を噛まれ流血したりと、尖ったエピソードを多数、披露してくれた。稀代のムードメーカーでネタの宝庫、国内はもちろん、世界中から愛されるカーラーであることは誰もが認めるところだろう。

 しかし、天真爛漫なキャラクターでありながら「責任感が強く、誰よりも献身的」とは幼馴染にして「家族よりも濃い時間を過ごしている」と鈴木を慕う、吉田夕梨花の鈴木への言葉だ。

 吉田夕が思い出すのは、鈴木のショット率が上がってこなかった平昌五輪のラウンドロビン(総当たりの予選リーグ)だ。

「普通の選手だったら、焦ってメンタル的に落ちたりするんですけれど、そういう状況を自分でしっかり分析して腹をくくって、チームのために自分にできる仕事をこなす強さは本当にすごい」と鈴木を賞賛した。

 そんな鈴木が今季、ロコ・ソラーレでの試合に加え、ミックスダブルスの日本選手権(3月/軽井沢アイスパーク)に初めて挑戦しているのもそのあたりに理由がありそうだ。

「出るかどうかは本当に悩みました。私、ヘタクソなので不安になって(コーチの小野寺)亮二さんに相談して。でも、みんなは去年(MDに)チャレンジしていたし、チームから離れて修行みたいなことも必要なのかなって。一勝もできないかもしれないけれど、新しい発見とかあればいいなと思って出ようと決めました」

 そう本人は語るが、平田洸介(KiT CURLING CLUB)とペアを組んで出場すると、開幕から無傷の7連勝で決勝に進む。ファイナルこそ藤澤と山口剛史(SC軽井沢クラブ)のペアに力負けしたが、即席タッグとは思えない高いパフォーマンスで大会を盛り上げた。

決勝で対戦した藤澤については「対戦相手になってみて、さっちゃんのすごさ、特に作戦面での考え方が改めて分かった」とコメント(著者撮影)
決勝で対戦した藤澤については「対戦相手になってみて、さっちゃんのすごさ、特に作戦面での考え方が改めて分かった」とコメント(著者撮影)

 普段、ハウスの中に立たない彼女の「こっちでいいかな」「そう、だと思う」といった慣れないパートナーに対して繰り返す不器用なラインコールやコミュニケーション。それを必死にこなす様子はチームメイトの目には新鮮に映ったようだ。軽井沢まで応援に来た本橋麻里が「夕湖の意外な一面を見られて、最高に楽しい観戦をさせてもらいました」と爆笑を禁じ得なかった。

平田とは身長差38cmの凸凹コンビだったが、負けなしで決勝に進出した。報道陣が用意した彼女専用の“お立ち台”の上で取材もこなしご満悦(著者撮影)
平田とは身長差38cmの凸凹コンビだったが、負けなしで決勝に進出した。報道陣が用意した彼女専用の“お立ち台”の上で取材もこなしご満悦(著者撮影)

 そうして大会を彩り、観客を笑顔にした本人は大会後、収穫を言葉にしてくれた。

「チームメイトはいないし、実はすごい緊張してたんです。いつもは後ろにチナとさっちゃんがいるけれど、ミックスでは私が決めないと大量失点しちゃう。緊張感を持って投げられたのは良かったですし、その気の持ちようがいい修行になりました」

 通常の4人制ではセカンドの鈴木の後ろには、吉田知や藤澤といった頼りになるチームメイトが控えている。彼女らの4投が残っていることで、甘えといえば言葉が悪いが、鈴木が安心感のようなものをいつも抱えながらプレーして来たことは確かだ。

 しかし、それは時に弛緩を生むことがあるのかもしれない。鈴木はそれをあえて断ち、チームメイトから離れてプレーした。その結果、緊張感を集中力に昇華させることに成功した。

「4人制ではみんなで相談しながらショットを決めればいいけれど、ミックスでは投げる前に自分で全部、(情報を)まとめないといけない。でもそうやって考えて、集中することで決まったいいショットもいくつかあって。それを4人制でも活かすことができればと思います」

 その4人制では今季から5ロック(※)が完全導入され、吉田夕同様、フロントエンドを担う鈴木のプレーにも大きな影響があった。

「ドローがすごい増えました。これまではフリーズとかだいたい(の精度)で良かったところが、シビアになりました。グランドスラムで、私のフリーズがちょっとズレただけで4点取られたことが3回くらいあったんです。あのレベルになると私のところで難しいショットを決めないと結果が出ない。セカンドにフォーカスされることもあるのでちゃんとしないと。もっとドロー上手くなります」

 今季、ロコ・ソラーレはワールドツアーの大きなタイトル「グランドスラム」や、新設されたW杯など、世界一になるチャンスをメインにスケジューリングし、試合数という意味ではかなり抑えたシーズンを送った。

 来季は今季の結果をベースに再びスケジューリングをすることになるが、鈴木は個人的にもっと投げたいと語った。

「今季は休みとトレーニングのバランスを大切にしていたんですけれど、私としては、バランスを取りつつも、もう少し投げ(のトレーニング)をやってもいいかもしれないと思っています。世界のセカンドと比較して足りないものは、いろいろあって。いろいろ、ありすぎて。まずは投げのシンプルな技術、特にウェイトに重点を置きたい」

 チームを離れて得た教訓と、新ルールで痛感した技術への欲。彼女の場合、これらがカーリングの原点とも言える投げへの回帰へと繋がった。世界を獲るために、シビアな精度を求め、来季はデリバリーにこだわる鈴木の姿が見られるだろう。

 その一方で、本人から「来年になるかその先になるかはまだ未定ですけれど、アイスの外で、新しいこともやろうと思っています」という発言も飛び出した。

「まだ秘密です。だけど、もちろん、カーリングに関係したことです。ちゃんと決まったら発表しますね」

 ロコ・ソラーレのムードメーカーであり加速器でもある彼女のアイス内外の言動から、来季以降も目を離せないシーズンになりそうだ。

グランドスラムでスクリーンに映し出される選手紹介の1コマ。世界中の選手に「Baby」と呼ばれ愛されている(著者撮影)
グランドスラムでスクリーンに映し出される選手紹介の1コマ。世界中の選手に「Baby」と呼ばれ愛されている(著者撮影)

(※5ロック)

カーリングには両軍のリードの4投がハウスに入っていない場合、そのガードストーンをセカンドのショットまではテイクアウトしてはいけない「フリーガードゾーンルール」があったが、これが改良された。これまでの4投に加え、先攻チームのセカンドの1投目、つまり各エンドの5投までガードストーンのテイクが禁止になる。これが“5ロック”と呼ばれる所以だが、ハウスに石が残りやすくなり、複数得点、あるいはスティールの契機が大幅に増えた。

鈴木夕湖(すずき・ゆうみ)

1991年12月2日北見市常呂町出身。本橋や吉田夕らロコ・ソラーレを立ち上げたメンバーの一人。146cmの身長でも効果的なスイープを遂行することから、吉田夕と共に「クレイジースイーパーズ」と呼ばれるなど、世界を代表するスイーパーに成長した。趣味は夏は登山で冬はワカサギ釣り。今オフにトライしたいことは東南アジアへの旅行。