「沙羅ちゃんに続け!」五輪最小カーラーで“ちび部部長”・鈴木夕湖の逆襲が始まる。

平均152cmのちびっこ軍団。参考までにOARは平均167cm(著者撮影)

 カーリング界には分科会というか、独自カテゴライズというか、自虐的あるいはストイックかつマニアックな非公認の部活がいくつか存在する。

 SC軽井沢クラブの山口剛史を部長に据えた「ニッポンをスイープ大国に」をモットーにする筋肉部には、北海道銀行フォルティウスの小野寺佳歩、4REALの谷田康真らパワー系スイーパーが所属し、主に筋トレとプロテインについて情報交換の日々を送っているらしい。

 4REALの阿部晋也はかつてのチームメイト林佑樹やプロデューサーの近藤学らと釣り部を結成し、オホーツク海や常呂川に竿を出しシャケやブリを仕留め、集中力を養っている。

 そして、最大勢力が“ちび部”である。

 活動内容は特に公表されていないのだが、身長145cmのロコ・ソラーレ北見の鈴木夕湖を部長に、副部長に152cmの吉田夕梨花、男子部部長に165cmのSC軽井沢の両角公佑。男子予選で首位を快走するスウェーデンのスキップ、ニクラス・エディン(171cm)は名誉部員らしい。

 さらに、平昌前に開催された日本選手団の結団式では大物の入部があった。

「この度カーリングちび部がスキージャンプ部門を設立、沙羅ちゃんをジャンプ部門の部長に任命致しました」

 吉田夕梨花が自身のインスタグラムで、鈴木部長と高梨沙羅(152cm)との3ショットをアップし、そう伝えている。

 部活紹介が長くなってしまったが、今回の主役はそのちび部の部長・鈴木夕湖だ。身長145cmは今回のカーリング選手の中でミニマムだ。

 カーリングにおいて身長は武器の一つではある。

 特にスイープ面では顕著だ。テレビ中継を観ていると分かるが、どの選手も全力でスイープする際はブラシに体を預け、ストーンに覆いかぶさるように氷上を掃く。体重を乗せた強いスイープが世界では主流だ。

 しかし、今回の日本代表ロコ・ソラーレ北見は平均身長152cmのちびっこ軍団だ。海外遠征などに出ると「ジュニアのチームなのに上手なのね」とティーン扱いされることも少なくないらしい。

 では彼女ら、ロコ・ソラーレのスイープが他のチームに比べると劣るのか、といえば決してそんなことはない。

 筋肉部部長の山口が苦笑して教えてくれたことがある。

「スイープは筋肉が大事なのは常識なんですけど、彼女らはその常識をトルクで覆してくる。僕にはできないタイプのスイープですね」

 トルクとは回転数のことだ。スイープにおいては「ブラシが動いている」という表現があるが、体重がないぶんブラシを回転、つまり高速で動かし続ける。筋力や体重を小回りでカバーするニッポン特有の武器になった。

 ただ、このスイープに関して本人たちは長い間、自覚はなかったと言う。

「むしろずっと弱点だと思ってました。でも、カナダで観客から『すごいスイープが強いのね』って言われて気付いたんです」

 鈴木の言葉が示すように、ちび部員がサイズがないなりに世界のスイーパーに必死に抗っているうちに、自然に身についた特性なのかもしれない。そのぶん無酸素運動が長く濃くなるため、本人たちへの負担は大きいが、“鬼トレーナー”こと大森達也氏(株式会社PHYSIT)が長いスパンで組んだストイックなトレーニングメニューをこなすことで、連続フルスイープも可能になった。今回の五輪でもショートしそうなショットを高速スイープで目的地へ運ぶ隠れた好プレーが幾度もあった。野球に「足に不調はない」という格言めいた言葉があるが、スイープもしかり。安定したサポートでチームに貢献している。

 その一方で、ショットに苦しんでいる感は否めない。リードの吉田夕とセカンド鈴木のちび部による、フロントエンドの安定感がロコ・ソラーレの強みではあるが、ショット率はまだ上がってきてない。鈴木は試合のない日には「下手くそだから練習する!」と自虐的に笑いながら積極的に氷上練習に励んだ。

 その前向きな明るさも彼女の、チームの魅力だ。

 8年前、ロコ・ソラーレ結成時の鈴木は「あんまり人と話すのは苦手です」と、どちらかと言えばシャイガールだったが、本橋麻里や吉田知那美らに言わせると「間違いなく、いちばんうるさい」らしい。

 確かに近年は、取材に訪れるメディアも知った顔が増えたためか、よく話してくれるようになった。飼っている犬のことや、好きなラーメン店を教えてくれ、極め付けは自身の名前・夕湖の由来について語ってくれ、記者の爆笑をさらった。

「サロマ湖ってすごい夕陽がきれいじゃないですか。お母さんが妊娠してる時によく夕陽を見に行ってて、ああいうふうにきれいに育って欲しいなって。まったくそんなことはなかった。残念ながら」

 マイペースでよく笑い、少し生意気。天然どころか予測不能な26歳の存在を、小野寺亮二コーチなどは「あいつ、むちゃくちゃなんだから。大変よ、ほんと」とボヤきながらも「ああいうキャラクターがいるからチーム状態が良くなくとも、全員が落ちなくて済んでいる部分もある」と重宝する。

 大きな大会の前に抱負を聞かれると、彼女はよく「良く食べて良く寝ます」と語っている。出発前にも「あんまり五輪だからっていう特別な感じはしない」と言っていたが、気負いはないようだ。いつも通り、良く食べて良く寝て、五輪を楽しんでいるうちにトップコンディションが出来上がる。鈴木に引っ張られるようにチームも上向きになってくる。それがロコ・ソラーレの勝ちパターンとも言える。

 ちび部スキージャンプ部門の高梨沙羅は銅メダルという輝かしい結果を残した。部長としてはあやかりたいところだ。まずは決勝トーナメント進出に向けてハードなスイープを保ち、ショットを取り戻したい。ちび部部長の夢舞台は続く。

鈴木夕湖(すずき・ゆうみ)

1991年12月2日、北海道北見市常呂町出身。小学2年生でカーリングをはじめ、常呂中学時代には日本選手権で3位入賞を果たす。旭川工業高等専門学校へ進学し、4年時に本橋麻里に誘われロコ・ソラーレ北見の創部メンバーとなった。高速スイープと的確なラインコールを得意とするトップスイーパーのひとり。趣味は卓球と読書。好きな作家は伊坂幸太郎。お気に入りのラーメンは北見市内の「鳳龍 本店」のラーメン(塩)。