「カーリングは仕事ですから」と語る日本代表のクールなエース・両角友佑の隠された熱

両角友佑の記念すべき五輪の初ショット。(著者撮影)

 平昌五輪カーリング日本代表、SC軽井沢クラブのスキップ・両角友佑の人柄を伝えようと言葉を探すと、不言実行、一利一害、柳に風、揺蕩う雲、クールガイetc……。様々な熟語や表現が浮かぶ一方で、どれも芯を食ってないというか、常に矛盾を孕んでいるような、彼と話をしているとまだまだ底が見えない不思議な感覚にとらわれる。

「カー娘。」ブームの影で

 両角友佑、ならびにSC軽井沢クラブの存在を知ったのは2012年、青森で開催された日本選手権だった。

 当時はカーリングといえば女子が主役で、話題は常にカーリング娘たちだった。チーム青森から離脱してロコ・ソラーレ北見を創部した本橋麻里、そのチーム青森に残って復権を誓った近江杏菜や石崎琴美、カーママとしてアイスに復帰した北海道銀行フォルティウスの小笠原歩、新星としてソチ五輪レースのポールポジションに座った中部電力の藤沢五月や市川美余や松村千秋に記者は群がる。

「男子もお願いしまーす。けっこう面白いので」

 その日本選手権が開幕する前、公式会見の席で両角友は苦笑いの表情を浮かべて口にした。多少、棒読みっぽい口調だったのを覚えている。報道陣から含み笑いが漏れたが、それ以上のリアクションはなかった。

 せっかくなので男子の試合を観てみると、確かに面白かった。

 男子はハックを蹴る脚力があり、スイープも女子よりもパワーがある。一発逆転のショットがいくつもあり、攻防一体となったカーリングは取材抜きに観るものを興奮させてくれた。

 試合後に両角友に挨拶し、その感想を素直に伝える。ただ、話を聞いても記事にできるかどうかは分からなかった。「女子に比べて男子は人気がないから」とはさすがに正直に言えないでいると、あろうことか両角友が「記事にならなくてもいいっすよ。男子は需要ないですもんね。面白いって思ってくれる人がいるだけで」と屈託のない笑顔を浮かべ、あれやこれや、レクチャーしてくれた。

 前述のように男子は女子よりも脚力があるので速いショットが可能で、女子でさもスーパーショットのように報道されるダブルテイクアウトは男子では比較的シンプルなショットであること。男子はハックを蹴ってウェイトが決まるけど、女子は最後に手で押すので少し投球の質が異なること。ヒットロールを決めないとなかなかチャンスを得られないこと。

 それでも当時は女子が主流なのでなかなか、男子について書く機会に恵まれなかったのだが、両角友は意に介さず、なんでも聞かせてくれた。書けないこともたくさんあった。

ポーカーフェース過ぎる面も

 ただ、不思議だったのは、彼はカーリングについて饒舌に熱を持って話をしてくれたと思えば、実際にアイスに立つと表情に乏しい。二手三手先を読み、メンバーに淡々とショットを求める。ミスが出ても無表情で素早く対策を練る。好ショットを決めても腰のあたりで拳を固めることはあっても派手なガッツポーズはしない。

 いくらカーリングが慎み深いスポーツとはいえ、もうちょっと感情を表に出したら?と言ってみたことがあるが、即否定された。

「ないない。ないっすよ。そういうのは山口の仕事だから」

 セカンドの山口剛史は「自分は口に出したり、紙に書いたりしてから目標に向かうタイプ」と公言している、パッションとマッスルで生きる好漢だ。ホームリンクである軽井沢アイスパークのトレーニングルームには「平昌金メダル」と大きく彼の字がある。両角友とは同い年で、好対照な存在でもある。

第30回全農日本カーリング選手権大会で優勝した際のひとコマ。米俵を抱いているのが山口だ。(著者撮影)
第30回全農日本カーリング選手権大会で優勝した際のひとコマ。米俵を抱いているのが山口だ。(著者撮影)

 そして両角はカーリングを「仕事。楽しいというよりも仕事」と言い切る。彼は総合型地域スポーツクラブを運営するNPO法人「スポーツコミュニティー軽井沢クラブ」の総務部に勤務し「なんでもやりますよ。事務とか雑用とか。この前も敷地内のフェンスが壊れていたから補修した」と言うが、今季は五輪に集中するために十分な勤務時間は確保できていない。それよりもSC軽井沢クラブの名前で世界に出て、軽井沢のために活躍する役割のほうが重いことを本人も所属先も理解しているのだろう。

カーリングは「仕事」だと言うけれど

 併せて彼が言うのが「必ずしもチームは仲良しじゃなくていい」だ。

 SC軽井沢クラブは現在のレギュラーメンバー、リードで両角友の実弟・両角公佑、山口、サードの清水徹郎が揃った06-07年シーズンから、10年以上、同じメンバーでプレーしている。国内の女子チームも含め、選手の移籍やチームの再編が頻繁なカーリングでは、かなり珍しい例だ。

 誰のことが好きとか嫌いとかではなくて、同じ顔ぶれで長い時間を共にすればどうしても息が詰まる。おそらくチームメイトは友人というよりはコンビ芸人の相方のような存在なのだろう。決して仲が悪いわけではないが、遠征以外ではメンバーが一緒に食事をする、遊びに行くことは稀だ。

 それでもしっかり「仕事」、つまり自分のプレーをして繋がっている。カーリング選手以外には理解が難しいかもしれないが、それが彼らの絆だ。そして両角は必ずこれも付け足す。

「今やっている攻めるカーリングができるのは、今のメンバーだから。他の人が入ってきて、今やっている作戦ができなくなるなら、僕はいつやめてもいい」

 その繋がりはビジネスライクなようで、何よりも強い。そこにも矛盾があるように思えるが、きっと彼らはその関係のまま、10年を超える強化の道を地道に進み五輪の地に辿り着いたのだろう。

 ただ、そんなことを話す日本のエースはやはり饒舌で、言葉はやはり徐々に熱を帯びてくる。

「本当は好きなんでしょ、カーリング」

「いや、だから仕事ですって。できるならのんびり暮らしたいんですよ」

 両角は「カーリング大好き説」は必ず否定する。確かに昨オフ、「アイスに乗りたくなった」という山口や、他のカーラーを訪ねて北海道に遊びに行く清水、草カーリング的イベントに参加して氷上に立った公佑とは違い、友佑は2人の娘と1人の息子と自宅で遊び倒すという日々を過ごした。五輪前の最後の休息も「特別なことは何も」と基本的に家族との時間を優先した。「スイッチはね、アイスに乗る時に入れるんです」というスタイルは相変わらずだ。

そして平昌の挑戦が始まる

 しかし、彼は変わらなくても周囲は変わる。年が明けて1月、都内でJCA(日本カーリング協会)主催で平昌五輪への記者会見が行われた。ちょうど大雪の日で、女子代表の乗るカナダからの帰国便が大幅に遅れたが、会見は時間通りに始められ、両角らSC軽井沢クラブの面々は80人超の記者に囲まれた。11年前、彼らの全日本初優勝時は当然ながら、6年前のカー娘。時代からも想像できない光景だった。

「嬉しかったですね。ちょっと前までは考えられないことですから」

 後日、珍しく素直に感情を口にしたので、「ほらやっぱりカーリング愛、あるじゃん」とすかさず突っ込むと「いやいや、支えてくれた方とかそういう人たちもいたし」とニヤニヤと認めなかった。

 さらに韓国へ出発直前、「五輪の大舞台でカーリング好きな自分に気づいたら教えて」とお願いすると「どうでしょうね。まあ、いつも通りやってきます」と言い残した。

 迎えた本番。初戦のvs.ノルウェーの第8Eで相手の石だけを器用に抜く難しいダブルを決めた時、両角は例によって右手で小さくガッツポーズをした。いつもは腰あたりの低い位置だが、この日は胸元あたりだった。

 さらに2戦目となる翌日のvs.イギリスの敗北の瞬間、少し俯いて唇を噛む仕草をした。

 感情が漏れ始めている。これも五輪が持つ特別な力だろうか。

 厳しい戦いは続く。淡々と仕事をこなしながらも、日本のエースは熱を発するのだろうか。一挙手一投足を観察して、大会終了後に「やっぱり好きじゃんか、カーリング」とぶつけてみよう。彼は何と言うだろうか。

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