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濃厚接触者の待機期間の考え方 何が変わったのか?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

オミクロン株の急拡大とともにウイルスの特性も明らかになってきました。若者のほとんどが感染しても軽症で推移しますが、感染者や濃厚接触者が急激に増加することにより、社会機能の維持に支障が生じています。沖縄県の医療現場においても、就労できない医療従事者が増加しているため、救急外来の制限を余儀なくされる病院が増えてきました。

図は、沖縄県における疫学調査において、濃厚接触者が発症するまでの日数の分布を示しています。国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP)の専門家が分析したもので、厚労省のアドバイザリーボードにて私より報告させていただきました。

1月1日までに沖縄県内で確認した51例のオミクロン株確定例において、133人の濃厚接触者を特定しました。このうち25人の陽性を確認しましたが、3人が無症状者であり、22人が発症しました。この22人について、曝露イベントから発症するまでの日数分布を示しています。

その結果、大半が5日までに発症していることが明らかとなりました。8日目と12日目に発症した者もいましたが、同居する家族や親族で陽性者が複数発生しており、濃厚接触があったとされる初発例が感染源ではない可能性があります。おそらく、濃厚接触者の観察期間は5日でもよいと思われます。

筆者作図
筆者作図

こうしたエビデンスについては、今後、さらに蓄積されていくべきですが、社会機能の維持を急ぐべきこともあり、1月14日に、厚生労働省は、新型コロナウイルスの濃厚接触者の待機期間について、これまで14日間だったものを10日間に短縮すると事務連絡を発出しました。この事務連絡には、社会機能維持者などの規定も追加されています。なお、この方針は、オミクロン株に限るとされています。

他にも、医療従事者向けの事務連絡もあり、かなり複雑になってきました。混乱しがちですが、現行ルールを要約してみると、以下のようになっています(1月15日時点)。

1)最後に陽性者と濃厚接触のあった日から10日を待機期間とする。その間はできるだけ外出を自粛すること。

2)業務継続のために必要な社会機能維持者については、以下の2つの方法のどちらかを選択して、待機期間を短縮することができる。

 ― PCR検査を6日目に実施して陰性を確認

 ― 抗原検査キットを6日目と7日目に実施して陰性を確認

3)代替要員の確保が困難な医療従事者については、以下の方法により待機期間であっても就労することができる。ただし、ワクチンを2回接種済であること。

 ― PCR検査(抗原検査キットも可)を毎日業務前に実施して陰性を確認

上記の2)は、待機期間が短縮されて指定の日数以後は濃厚接触者でなくなるものです。一方、3)は濃厚接触者でありながら就労が認められるものです。認められると言っても、「コロナに罹ってるかもしれないけど、感染性がないことを確認しながら働きなさい。ただし、仕事以外での外出はだめよ」という超ブラックな事務連絡です。

2)に関して、おそらく混乱するのは、「誰が社会機能維持者なのか」ということですね。対象となる業種は、都道府県ごとに決定することになってます。事業者ではありません。業種です。つまり、「小規模離島に運航しているJALは社会機能維持業者だけど、ANAは違います」といった解釈はありません(できません)。

そんなこと言わずに、すべての業種や学生に対して、この制度を適用すればいいのに・・・ と思いますが、話はそんなに簡単ではありません。一斉にどうぞと言ってしまうと、検査キットが一気に市場から消えることは目に見えているからです。

そうなると、症状があって自主検査を受けたい人が、市販のキットを入手できなくなる可能性があります。これでは本末転倒ですし、結果的に救急外来への受診者が増大し、医療ひっ迫を加速させかねません。流通の安定化は極めて重要です。

このあたりのことは、厚労省の事務連絡には触れられていませんが、現場としてはリアルな問題なのです。悲しいことに、このシステムの律速段階は社会機能維持というよりは、自治体ごとの検査キットの確保状況にあるとも言えます。

個人的には、5日間を目安として個人や事業者ごとの自主性に任せることでも良いように思います(インフルエンザと一緒ですね)。日常生活まで検査に頼りすぎるシステムは、持続可能性に乏しいです。まずは上記運用を試みながら、エビデンスの蓄積とともに、ふたたび柔軟に切り替えていただければと思います。

関連する事務連絡一覧

  1. 新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について
  2. 医療従事者である濃厚接触者に対する外出自粛要請への対応について
  3. 新型コロナウイルス変異株への対応に関するQ&A(電話診断はQ22を参照)
沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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