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自治体行政と連携する医療者に求められる15の心得

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
沖縄県新型コロナウイルス感染症対策医療本部(筆者撮影)

私は、これまで行政側と臨床側と2つの立場で、新興感染症の対策に関わってきました。いろいろ摩擦も経験しましたが、共通の目標を明確にすることさえできれば、乗り越えてこられたと感じています。互いの信頼関係は大切ですね。

双方、医療も行政もツール(道具)に過ぎないと割り切ることです。住民の生命や暮らしを守ることこそが目標であり、それを達成するために、医療や行政を効率的に使うのだということを忘れてはいけません。

かつてない新型コロナウイルスの流行に直面するいま、まさに大規模災害と同じ状況へと突入しつつあります。そうしたなか、平時の感覚で医療や行政を堅持しようとしていると、まさに本末転倒となってしまい、大きな被害となってしまうかもしれません。私たちは、何を守ろうとしているのか・・・。

以下、行政担当者と連携するに当たって、現場の医療者として心がけておきたいポイントを紹介します。この危機にあって行政と連携しながら、どうも上手くいかないと感じている方々に、いくらか参考となりましたら幸いです。

自分の現場感覚を行政に押しつけない

1)現場は多様である。自分の現場感覚がすべてと僻見せず、知っている気になって行政担当者に押しつけない。専門家であれども、専門性が現場を総攬することはない。自分が限られた殻の中にいることを理解する。

2)ホットな現場の取り組みを行政に提案するとき、行政はクールなシステムへと転換しなければならないことを理解する。行政には普遍性が求められ、「誰かに特別に〇〇する」はできない。一方的に現場から主張するのではなく、現場と行政とでアイデアを持ち寄り、一緒に制度を作っていくのが望ましい。

3)行政に何かを提案するのであれば、関連する法律には目を通しておく。理解できなくとも構成は把握しておき、自分は分かっていないことを認識する。そして、大事なポイントは行政担当者に質問する。法律を理解しないまま、「どうして〇〇しないんだ」と担当者を糾弾しない。

自分のネットワークで解決策を検索する

4)自分が困っていることは、全国でも困っている人がいるはず。いないのであれば、困っているのは自分の問題かもしれない。困っていることを担当者に訴えるだけでなく、他の地域における取り組み事例を自分のネットワークで検索する。地域医療に関しては、役所経由より現場のネットワークの方が迅速かつ正確なことが多い。

5)全国で困っていることは、すでに中央(厚労省など)でも認識されていることが多い。規制の撤廃や支援が検討されている可能性があるので、自分の有する非公式ライン(医師会の担当役員、政府会議の委員、名刺交換した医系技官など)から確認してみる。新興感染症の対策は刻々と変わるので、すでに解決のための事務連絡が出ていることも珍しくない。自治体の担当者でも、最新の事務連絡までは読めていないことが多い。

6)行政が提案してくる解決策について、自分のアイデアと異なるからと、現場を知らないからだと嘲笑しない。多くの現場や専門家との調整の末に取りまとめられた試案であることも多い。自分の現場で使いやすくなるよう、どこまでカスタマイズが許されるかを確認する。あるいは、カスタマイズできるように提案する。

実効性と副作用を見据えた提案をする

7)施策の試案が取りまとめられた段階で、担当者から相談される関係を作っておく。要求や批判ばかりする専門家は敬遠され、施策が決まってから知らされ、さらに批判するという悪循環に陥っていく。行政担当者から、相談して良かったと思われる専門家であるよう心がける。

8)行政担当者は、過去の成功体験にこだわる傾向がある。しかし、新興感染症対策は、変異株の出現や新たな技術開発(ワクチンなど)で刻々と変化する。こうした変化を真っ先に肌感覚で知れるのは、臨床現場に他ならない。この感覚をデータで明示するなどして、臨機応変に施策を組み替えるようアドバイスする。

9)新たな施策を提案するとき、期待される成果しか言わない専門家は信頼されない。どのような施策にも副作用がある。それを見抜くのが現場の専門性である。生じうる副作用を明確に説明したうえで、そのリスクを誰が管理し、どのように負担するのかを事前に決定しておく。

10)予算や人員の大規模投入が求められる施策については、経済、文化、教育、倫理などとの優先順位に基づき決定される。感染対策のみを前面に出しても、協力が得られにくいことを理解する。他分野との統合的戦略のためには、経済や文化までもをサポートするようなデザインをめざす。

11)専門家に限らず、人間は、利用可能な資源をはるかに超える要求をするという憂鬱な特性を有する。よって、限りある資源の分配をするために行政があることを理解する。その資源投入による成果として、十分な効果と効率が期待されるかを行政は重視する。一般に、ハイリスク・ハイリターンの施策は受け入れられない。

専門家として施策の推進をサポートする

12)施策が前進しない障害要因は、ときに地域の有力な人物や事業者などにある。行政担当者が説得できないでおり、施策が停止していることも少なくない。このようなときは、行政担当者を叱責しても意味がない。専門家から説明することで障害が取り除かれることも多いので、必要に応じて対話の場に出席して支援する。

13)関係者(とくに利害関係者)の意見を聞くことは、科学的な真実を述べるよりも、理解を深める効果がある。非科学的な意見を述べる関係者を排除することは、さらなる対立や疑念を拡げることになりかねない。専門家からみて正しくない意見も公平に傾聴することが、政策プロセスの正当性を高めることを理解する。

14)専門家を主体とした施策立案では、ソーシャル・マーケティングで行われるような住民志向の検討がないがしろにされがちである。しかし、これでは行動変容のための効果的なプログラムに到達できない。質的および量的の両面から住民意識を把握することは、専門家が介在すればするほど重要になる。

15)公務員も人間である。批判ばかりでは萎縮していく。施策の良い面を見出し、肯定的な評価もしっかりフィードバックする。行政担当者がチャレンジを恐れない雰囲気とは、現場との一体感から醸成される。チャレンジには失敗がつきもの、そのとき行政担当者だけが孤立すると感じさせないこと。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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