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美ら海水族館の一時休館について 「現場」から学んでいるか?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
写真提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館

美ら海水族館は、沖縄県の主要な観光スポットのひとつです。昨年から、何度か感染対策の指導で訪問させていただきました。ただ、実際には、取りうる対策は完ぺきに近いもので、教えていただくことの方が多かったです。

それもそのはず、魚類から、爬虫類、イルカなど哺乳類、様々な無脊椎動物に至るまで、多様な生態系を維持するためのプロフェッショナル集団です。日ごろから感染対策には力を入れておられ、感染経路や自らの弱点にも精通されているのです。

私自身がアドバイスしたことと言えば、ジンベイザメのいる巨大水槽の前が、人が集まりエアロゾルが溜まりやすいので、大型扇風機を設置して、常時、排気口に向けて風を流してはどうかと申し上げたことぐらい。あとは、細かな感染対策についての意見交換・・・。

さて、その美ら海水族館が、先週から休館となっています。県の決定なのですが、私は残念なことだと思いました。その決定プロセスに関わった方々で、どなたか現場をご覧になった方がいたのでしょうか? 感染対策上の問題点に気づかれ、指摘できた方がいたのでしょうか?

その一方で、県内のショッピングモールは開いたままで、フードコートには高校生たちが集い、おしゃべりに興じています。ゲームセンターでは子どもたちが太鼓をたたき、コインゲームに興じています。それよりも、巨大なジンベイザメに目を輝かせることの方が、感染リスクが高いと子どもたちに説明できるのでしょうか?

もちろん、あらゆる外出や渡航の制限は、感染対策で取りうる最強の戦略です。その意味で水族館休館も考えうる選択肢でした。ただ、水族館を訪れるような家族旅行は、ほとんど県民と接触することはありません。疫学調査でも、渡航関連の市中感染については、県民との接触が濃厚となりがちな「帰省」や「出張」のリスクが大きいことが指摘されています。

この夏、本土では、かつてない規模の流行が生じる可能性があります。そして、その流行に沖縄も巻き込まれるでしょう。この余波を最小化するためには、リスクの高い場所・行為を明確にしながら、説得力をもって協力を求めていくべきです。手の届くところに規制をかけながら、本当に必要なところが抜けていませんか?

制限をかけた場合の副作用も評価する必要があります。たとえば、水族館を閉鎖することで、渡航者はどこへ向かうことになるのか、そこで感染リスクを高めることになっていないか、現場に精通した観光関係者への確認を要します。こうしたことは、感染症の専門家たちだけで、机上で議論していても見えてこない部分です。

現在、パブリックビーチが閉鎖されているため、多くの渡航者や県民が自然海岸へと向かっていることをご存じでしょうか? 沖縄県の水難事故の約7割が、ライフセーバーのいない自然海岸で発生します。そして、今年は、すでに過去最悪のペースで水難事故が発生しています。このまま、ハイシーズンを迎えることの危険性を認識すべきです。

パンデミックの最前線とは、病院だけではありません。飲食店も、学校も、介護も、観光も、それぞれに感染対策を模索しながら、ひっ迫した状況を切り抜けようとしています。それは経営だけでなく、安全や継承なども配慮した取り組みです。そうした現場から学ぼうとせず、解決策を示すこともなく、ただ、感染者の数が増えたからと切り捨てないでほしいのです。

もうひとつ・・・ オリンピック関連で気づかされたこと。

沖縄県でもホストタウンとして、いくつかの国の選手団を受け入れています。その感染対策の打ち合わせで、出席を求められてお話を伺ったことがありました。

ある担当者が、ホテルの食事会場について、選手と選手のあいだにパーティションを設置しなければならないと言いました。私はおかしな話だと思って、このようにコメントしました。

「ですが、選手の皆さんは、マスクなしで激しい練習を一緒にされてますよね。団体競技だから当たり前です。どうして、食事のときにパーティションが必要なのですか? 感染リスクがあるにしても、そこじゃないですよね」

「しかし、中央の組織委員会から求められています。これは設置する必要があるのです」

「・・・」

別の担当者が、選手たちがホテルのプールを使いたいと言っていることを問題視していました。私はもっともだと思って、このようにコメントしました。

「暑い沖縄ですからね。練習の合間にプールでリフレッシュしたくなるのもよく分かります。チーム専用の時間帯を設けて、他の一般客と一緒にならないこと。更衣室は共用せずに、自室にまっすぐ戻っていただくことで良いのではないですか?」

「しかし、選手たちがプールで楽しんでる様子を、外から撮影されて報じられると問題です。遠慮していただくべきです」

「・・・」

最近は、皆が批判を恐れてビクビクしていますね。そして、本当に必要なことが考えられなくなり、言い訳のための対策に陥ってないですか? やるべきことを、きちんとやりましょう。やってる感じでは、感染は拡大するばかりです。

提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館
提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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