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外国人コミュニティでのコロナ集団感染を防ぐには

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

沖縄県でも、外国人のコロナ感染が重なっています。集団感染事例もありました。もちろん、旅行者ではなく在留者です。言語の障壁があるため、疫学調査が困難であったり、外出自粛や隔離についての説明が伝わりにくいこともあります。

何度も念を押してきたことですが、コロナは社会の脆弱なところを狙い撃ちしてきます。ナイトスポットで働く女性たち、過密かつ人手の足りない介護現場、あるいはスナックに通う独居の中高年男性たち・・・。

そして、これは全国的な傾向なんですが、いま外国人コミュニティで流行し始めています。

◆孤立している外国人労働者

体調不良を感じても相談先がなく、訴えることができない外国人労働者が少なくありません。パート勤務だと欠勤がそのまま収入減となりますし、その後の雇用を失ってしまうかもしれません。そうなると、症状を認めていても隠して働き続けてしまうリスクとなります。

このあたり、外国人に限らない問題なのですが、相談先がなくて孤立しているという意味では、とくに外国人労働者は追い込まれていると感じます。安心して(できれば母国語で)相談できる体制が求められています。とくに、感染を理由に雇用を失うことがないようなサポートが必要です。

県や市町村では、在留外国人への生活相談窓口を整備していることが多いと思いますが、そこに保健師さんと連携して健康相談機能も付加していただければと思います。とくに集団感染が疑われる状況では、早めに保健所と連携して対応をお願いします。

◆求められる職場の感染対策

外国人が働くパブやマッサージなど、身体接触をともなう職場での感染が起きています。ただ、偏見に晒されやすいこともあり、風評被害を強く怖れて表面化しにくいという課題があります。

一般的な感染対策のガイドラインは通用しないので、それぞれの業務形態の特殊性を踏まえて指導が必要です。発生の有無によらず、先手を打って感染対策の指導をしておきたいのですが、なかなか信頼関係を築けずにいます。

まあ、日ごろ彼らの苦労に耳を傾けないでいて、コロナが出てから心配しているようでは、その意図が透けて見えますよね。以前、長野県で外国人コミュニティのエイズ問題に取り組んでいたことがあるのですが、一般的な外国人健診と生活支援から始める必要がありました。

◆感染した外国人の言語的障壁

外国人の感染を確認しても、言語的障壁もあって疫学調査が不十分となりがちで、濃厚接触者を拾いきれてない可能性があります。このため、日本人であれば防げたような集団感染が、外国人コミュニティでは発生してしまいかねません。

また、最近は、日本に定住していた家族の再入国にともなって、ウイルスが持ち込まれる事例も認められています。入国後2週間の自主隔離といっても家庭で行われていることが多く、家族への感染事例が増えています。生活支援に加えて、多言語による毎日の電話確認が必要ですが、そうした体制がとれている自治体はほとんどありません。

発症してから検査を受けるまで、たらいまわしに遭うことも感染拡大の要因になっています。沖縄県ではありませんが、言葉が通じないという理由で宿泊療養に指定されたホテルの利用が認められず、家族に感染が拡がってしまった例もあります。

残念ながら、沖縄県の新型コロナ・コールセンターは多言語対応ではありません。沖縄県のウェブサイトは多言語対応ですが、試しに英語でアクセスしてみると、コロナの一言も出てきません。それもそのはず、最終更新日は2013年12月でした。

おそらく、地道に外国人支援を行っておられる県内団体はあると思いますが、行政としては外国人への視線が不十分なようです。もちろん、マジョリティへの対策あってのことなんですが、マイノリティへの支援が抜けていると感染症対策は上手くいきません。

◆年末年始に向けた支援体制の強化

家族と離れて暮らす外国人留学生たちにとって、ホームパーティは心のケアにおいても重要な意味があります。年末年始の連休は(検疫が強化されていて)母国に帰ることもできず、外国人たちが集うイベントが重なりがちだと思います。もちろん、頭ごなしに禁止するのではなく、しっかり支援する考え方が必要です。

クリスチャンの留学生たちに「クリスマスは家族と過ごしましょう」というメッセージは残酷ですらあります。ただ、宗教イベントでの集団感染は、世界的にも多発しているので注意が必要です。

宗教や慣習への介入については、十分な配慮が求められます。当事者の参加により具体的な予防策について検討する必要があるでしょう。たとえば、イスラム教徒の宗教行事については、日本人の頭で考えるのではなく、イスラム圏における感染対策を収集して、教育資材とすることが効果的かもしれません。

◆外国人共生社会への試金石

モノ、カネをめぐるグローバルな流れは、ヒトの流れも否応なく巻き込んでいきます。少子高齢化による労働人口減少に直面する日本でも、外国人労働者の受け入れが加速していくでしょう。

今後、とくに多く受け入れると見込まれているのが介護領域ですね。沖縄でも外国人を雇用する動きが加速していました。コロナの問題で停止していますが、来年以降、再開されていくはずです。

東南アジアの一般住民と日本の要介護高齢者という、これまで何ら接点のなかった両者をつなぐことで、どのような感染症が持ち込まれるようになりうるのか、それを防ぐためには何をすべきか・・・。日本的な整容の概念/慣習を理解させるとともに、基本的な感染管理の方法も習得させなければなりません。私たちの常識が通用するとは思わないこと。

もちろん、私は介護現場が多文化協働となるのを楽しみにしている一人です。ただ、率直に言って、今回の新型コロナの流行が、その直前で助かりました。8月に次々に経験した集団感染の現場で、十分な外国人労働者へのサポート体制がないまま介入するとすれば、本当に大変だっただろうと思うからです。

新型コロナウイルスは、私たちの社会における脆弱な部分を浮き彫りにします。ある意味、「目覚まし時計」の役割を果たしていると思います。私たちが、外国人コミュニティの脆弱さに気づいているなら、いまからメンテナンスを始めておかなければなりません。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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