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保育施設でのコロナ集団感染を防ぐには

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

沖縄県内では、これまで4つの保育園での集団発生を認めています。それぞれの施設を訪問させていただき、詳細をお聞きすることができました。了承をいただいたうえで、施設名が特定されないよう配慮しながら、その経験を共有させていただきます。

◆沖縄県における保育園での集団感染

4施設で確認された陽性者を集計すると、職員(実習生を含む)が37人、園児が17人でした。これら職員のうち29人(78%)が発症し、園児のうち9人(53%)が発症しました。いずれも軽症のまま回復されています。重症者はいませんでした。

これら集団発生のすべてが、職員の発症により気づかれています。ただし、それが最初のケースと言えるかは不明です。なぜなら、幼児は感染しても極めて軽症または無症候であり、気づかれていない可能性があるからです。

詳細に追跡したわけではありませんが、職員から園児への感染リスクは高いものの、園児から職員へ、あるいは園児同士の感染リスクは高くはないようです。これは、家庭において、園児から家族への感染事例が少ないことからも伺えます。

詳細に現場の状況を聞き取ってみると、職員が昼食を共にしたなど、職員がマスクを外すイベントで拡がった可能性がありました。職員と園児が一緒に食べていると、園児たちにも感染が拡がっていきます。

この他、気になったポイントとして、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を透明のボトルで保管してるなど不適切な消毒薬の取り扱いが多く見られました。また、空間除菌を信じて換気が不十分であった施設もありました。ただし、これらが感染拡大の原因と言えるかは不明です。

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(筆者撮影)

◆意味のない対策に気をとられないこと

園児たちを同じ向きで食事をさせようとしていた施設がありました。ただ、実のところ、同じ向きに座って食べているだけで、園児は横を向いて話しているので意味をなしません。そもそも、食事の時間以外にも、マスクを着けずに友達と遊んでいるわけですから、食事の時間だけ対策することの意義はありません。

なお、食後の歯磨きを飛沫感染予防と称して中止している施設もあるようですが、幼児自身にとっては、コロナより虫歯の方が脅威かもしれません。保育士さんには釈迦に説法ですが、幼児期に確立する衛生習慣は生涯にわたる健康資産ですから、しっかり歯磨きを教えていただければと思います。ただし、歯磨きの時間には、しっかり換気を行うようにし、手伝う職員はマスク着用を確実にしてください。

午睡の時間に、頭と足の方向を互い違いにして園児を寝かせている施設もありました。なるほどなと思いますが、それ以外の時間に友達と密着して遊んでいるので、あまり意味のない対策だと思います。なお、窒息のリスクがあるため、寝ている幼児にマスクを着けてはいけません(そのような施設はありませんでしたが)。

ある施設では、次亜塩素酸ナトリウムを空中噴霧していました。園児が吸い込むと有害なので行わないでください。厚生労働省は、「人がいる空間への次亜塩素酸ナトリウム水溶液の噴霧については、眼や皮膚に付着したり吸入したりすると危険であり、噴霧した空間を浮遊する全てのウイルスの感染力を滅失させる保証もないことから、絶対に行わないでください。」と警告しています(厚生労働省・経済産業省・消費者庁:新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について)。

換気こそが、一番有効な空気中のウイルス対策です。できれば「定期的に換気」ではなく、「常に少しだけ換気」を心掛けてください。窓を全開にする必要はありません。部屋の2方向を少しだけ開けて、小さな風の流れを作るだけで結構です。このとき、食べ物(線香)の匂いがずっと残るようであれば、室内の換気が悪いと考えます。

総じて、症状のある園児を休ませることさえしていれば、それ以上の行動制限を園児に求める必要はないと思います。自由にさせてあげましょう。その分、職員が手洗いなど感染管理を心掛け、換気などの環境整備を地道に行います。なお、基礎疾患のあるお子さんについては、流行期には特別な対策(マスクを頑張って着用させるなど)が必要かもしれません。それぞれの主治医の指導に従うようにしてください。

◆地域での流行が拡大しているとき

集団感染を予防するうえで重要なのは、何はともあれ症状のある職員や園児を休ませることです。ただ、新型コロナは、無症候でも感染力を有するため、入り口での症状確認だけでは防ぎきれません。

次いで、繰り返しますが、職員が園児と一緒に食べないことです。園児同士の食事は構いませんが、職員は別に食べるようにしてください。なお、園児の食事を手伝う職員は、事前に手指消毒を行い、手伝っている間は自分の首から上を触らないように心がけます。

また、集団感染の規模を小さくするため、学年やクラスを越えたイベントは中止した方がよいと思われます。できるだけ、同じグループでのケアを心掛け、担当する職員も固定することをお勧めします。

絵本の読み聞かせのとき、マスクを着用できない(表情を見せたい)との意見がありました。十分な換気のもとでマウスシールドを着用すれば、マスクの代用とすることも可能です。ただし、マウスシールドの効果は限定的なので、通常のケアにあたってはマスク着用をお勧めします。

園によっては、保護者の送迎が集中していることがリスクになっていました。時間をずらすなどの工夫で混雑を避けていただければと思います。保護者は屋内に入らない方がよいですが、園児によっては助けが必要なこともあるでしょう。症状確認と手指衛生がされていれば厳格にしなくてもよいです。なお、理想的には、同じ親または指定された人が送迎に関わるべきです。できれば、祖父母など高齢者は、自らの感染予防のために迎えに行くべきではありません。

盲点となりがちなのが、職場のバックヤードです。これは保育園に限りません。病院でも、ホテルでも、歓楽街でも言えることです。職員同士で食事をしたり、飲みに行ったりが集団感染の原因となります。一律にダメだと言うつもりはありませんが、少人数を単位にするなど、とりわけ流行期では配慮が求められます。

◆職員に症状を認めたとき

発熱などの症状を職員に認めたときは、ただ休ませるだけでなく、新型コロナの検査を受けさせてください。マスクを着けられない子供たちが密着して過ごす保育園は、集団感染が発生しやすい職場であることを自覚することが必要です。なお、お子さんの受診については必須ではなく、保護者の判断にお任せします。

できるだけ早く検査を受けることが、それだけ速やかな休園判断に繋がります。これが感染を拡大させないコツです。このとき、新型コロナの検査をやっている医療機関を受診すること(←きわめて重要)。検査をやってない医療機関に行っても、多くの場合、「風邪ですね」と言われて、総合感冒薬をもらって終わりになります。

「コロナかも・・・」と思っていても、それを口に出して医師に聞くのは勇気がいりますね。結局、不安をかかえたまま、「医師からコロナとは言われなかったし・・・」で自分の気持ちに蓋をしてしまいます。しかし、その判断の遅れが、職場での集団感染拡大の原因となるのです。

一方、検査をやってない医療機関の医師に対して「検査やってください。私は保育士です」とバトルしても不毛です。それぐらいなら、最初から検査をしている医療機関を受診するべきでした。というわけで、(ほんとに地域医療の不完全さを申し訳なく思いますが)受診する前に医療機関に電話かけて「新型コロナの検査やってますか?」と確認してください。

日本の医療がフリーアクセスである以上、患者側も賢くなる必要があります。保育士に限らず、介護従事者、医療従事者など、身体を密着してケアを提供する可能性のある職業の方々は、どうぞ心掛けていただければと思います。

◆おわりに

現在まで、保育園での集団感染において重症者は認めていません。ただ、やっぱり乳幼児のウイルス感染症は避けた方がいいです。インフルエンザであれ、ノロであれ、重症化することがあります。小児が新型コロナで死んでいないからといって、無防備であって良いことにはなりません。

地域で流行しているときは、保育園や幼稚園で集団感染にならないよう適切な対策が求められます。このあたり、インフルエンザやノロで頑張ってるのと一緒です。ただ、新型コロナは新興感染症なので、皆さん戸惑いがあるんだと思います。適切なレベルの対策に落ち着かせる必要があります。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事してきた。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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