【四国リーグ/高知】「いつも通り行こう」アクシデントに動じなかった松田政大の度胸と技術

途中出場して好リードを見せた高知・松田政大捕手(柳ヶ浦高)写真/高田博史

「いつも通り行こう」

 ガチャン! という嫌な音が、グラウンドに響く。スタンドからメガホンを打ち鳴らす音がやんだ。

 5月3日、香川オリーブガイナーズ対高知ファイティングドッグス前期3回戦(高松・レクザムスタジアム)の5回表、香川・林亮太(福山ローズファイターズ)の投げたストレートが、高知の八番・大原拓光(香川大)の頭部を襲った。

 ヘルメットが飛び、地面に倒れ込んだ。両手で頭を押さえて転がりまわっている姿に、球場内が凍り付く。高知・濱田澪トレーナーが駆け付け、グラウンドにうつぶせたままの大原に寄り添う。やがて、担架が運び込まれたが、それには乗らずに自力で歩いてダッグアウトへと下がった。大きな事故に至らなかったのは幸いだった。

倒れた大原(写真右下)を心配そうに見守る高知首脳陣と選手たち(写真/高田博史)
倒れた大原(写真右下)を心配そうに見守る高知首脳陣と選手たち(写真/高田博史)

 林には危険球による退場が言い渡されている。ここまで高知を無得点、2安打に封じ込めていた。

 捕手である大原に代わりマスクをかぶったのは、3年目の松田政大(柳ヶ浦高)だった。今季公式戦初出場のチャンスが、思いがけない形で訪れている。

「とりあえず、いつも通り行こう」

 突然の出場にも、動じることはなかった。

「もう松田しかいませんのでね」

 グラウンド整備が終わった6回表、高知が4点を奪い、逆転に成功する。その後、4対3と1点差に詰め寄られたが、6回から藤井皓哉(元広島)、8回から平間凜太郎(日本製鉄東海REX)が継投し、1点を守り抜く。高知が4対3で香川を下した。

 好投した投手陣もさることながら、緊急出動となった松田の好リードも評価されるべきだろう。高知・吉田豊彦監督(元南海ほか)が、松田の仕事ぶりをたたえる。

「ちょっと(試合出場の)間隔が空いてましたので、『どうかな?』とは思ったんですけど。もう松田しかいませんのでね」

 試合後、球場内の通路で松田とすれ違った。手には大きめの食品保存容器に入ったカレーライスを持っている。試合前、ブルペンで先発投手の球を受けていたため、食事を採る時間がなかったのだろう。レンジで温めてもらおうと、球場事務所に向かっていた。

 ダッグアウト裏に戻り、ユニフォームを着替えながら、合間を見てはカレーを口に運んでいる。

 試合中、最も苦しいと感じたのは6回裏、無死二、三塁の場面だった。

「藤井さんがピンチだったときですか。それはちょっと、『わぁ~』と思いました」

 だが、このピンチを最少失点で乗り切ると、7回も無得点で終える。3つのアウトはすべて、三振で奪った。

 もう1つ、苦しかった場面がある。8回裏、三番手としてマウンドに登った平間が先頭打者を歩かせ、さらに一死二、三塁とピンチを広げた。しかし、ここも二者連続空振り三振で切り抜けている。決め球は、いずれもスピードガンが「135キロ」を表示したフォークボールだった。

試合終了後、マウンドを降りる平間(写真右)と松田(写真左下)が視線を合わせる(写真/高田博史)
試合終了後、マウンドを降りる平間(写真右)と松田(写真左下)が視線を合わせる(写真/高田博史)

 帰りのチームバスに乗るため、平間もすぐそばで自分の荷物をまとめている。20歳の松田より6歳年上になる。ルーキーだった昨年、18セーブを挙げてセーブ王のタイトルを手にした。今季もこれで3セーブ目を記録し、トップの位置に立っている(5月6日現在)。

 松田とバッテリーを組むことに、大きな安心感がある。

「ワンバン止めてくれるんで、安心してフォーク投げられるんですよ! 実は去年終盤、結構バッテリー組んでるんですけど、1点も獲られてないんですよ」

 ワンバウンドを後逸してしまう不安がない。松田の〝止める〟技術を信頼しているからこそ、思い切ってフォークボールを投げることができる。8回裏、あの二者連続三振で切り抜けた場面が、まさにそれだった。

「平間さんはそう言ってるけど?」と、続けて松田に問い掛けてみた。

「はい、うれしいです。ピンチでも、大丈夫だと……」

 荷物をまとめる手を止めて、少し恥ずかしそうに笑った。

松田政大(まつだ・まさひろ)

2000年10月5日生まれ。20歳。捕手。173センチ、75キロ。右投右打。A型。大分県出身。柳ヶ浦高‐高知ファイティングドッグス(19年~)3年目。昨年成績は34試合に出場、打率.250、5打点。

平間凜太郎(ひらま・りんたろう)

1994年5月31日生まれ。26歳。投手。187センチ、97キロ。右投右打。A型。東京都出身。山梨学院大附属高‐専修大‐日本製鉄東海REX‐高知ファイティングドッグス(20年~)2年目。今季成績は6試合0勝0敗3セーブ(1位)防御率0・00(7回)10奪三振。

※成績は5月6日終了時