四国アイランドリーグplus後期リーグ戦 愛媛マンダリンパイレーツ、優勝の理由(後)

愛媛MPは年間王者を賭け、チャンピオンシップで前期王者・香川OGと対戦する

後期リーグ戦を3年ぶりに制した愛媛マンダリンパイレーツは、前期ふるわなかった打線の底上げをテーマに、リーグ中断期間となった6月、7月の2カ月間、猛練習に取り組んだ。そこで目指したもの、真の意味について森山一人コーチ(元近鉄)に聞く。

「『ただ特打したから打ち出した』っていう話じゃない」

9月12日、高知・土佐山田スタジアムでの優勝決定直後、森山一人コーチに聞いた。北米遠征期間の2カ月間、愛媛マンダリンパイレーツはどんな練習をしていたのか。

「朝1時間(打撃練習)、ランチタイム(打撃練習)、特打(全体練習後)。あとローテーション(フリー打撃)ですよね。だから全員が「ローテーション+朝」とか「ローテーション+ランチ特打」「ローテーション+特打」を毎日、ずっとローテーションしていたので。全員が毎日、特打しているようなもんで」

ほぼ1日中、バットを振り続けている。「スイングの本数は?」と尋ねられても「とにかく、めっちゃ振りました」としか答えが返って来ないはずだ。いちいち本数を数えていた選手など、いるはずもない。

ミーティングを行う森山一人コーチ(元近鉄)
ミーティングを行う森山一人コーチ(元近鉄)

「なんか吹っ切れたらいい形になるだろうし、つながりも出て来るんだろうけど。『どうやって吹っ切るか?』っていうための方法としてそれを採ったっていうだけで、ほかに方法があるのなら、それはそれで別の方法でも良かったんですよ。『ただ特打したから打ち出した』っていう話じゃない。こっち(気持ち)の問題だから。だから『毎日しんどい思いさせようと思ってやってるんじゃない』っていうのは最初に言ってる話で。どういう意味でこれをやらせているのかを、分かってもらって取り組んでもらって」

数字に結果が出ている。このチームのウィークポイントは打撃の弱さだ。前期は投手陣に「おんぶにだっこ」だったことは否定できない。伴和馬(名古屋商科大)が話していた「必死に取り組んでいる姿勢を投手陣に認めてもらって」という部分も確かにある。

だが、本当に望んでいたのは『どれだけ開き直ってやれるか』『目標に向かって、どれだけ集中してやれるか』という、精神面の変化だった。

「そういう意味で、最初に全部話をして。『やるよ!』ということで始めてるし。こないだの合間の練習日でも、ロングティー打撃をやらせたんだけど、気持ちを切らせないためのロングティーという意味だったり。『しんどい思いをさせようとしてやってるんじゃないよ』ということは全部話して。『よし、やるか?』『やります!』という話なので、そこはずーっとつながっていて。3連敗したじゃないですか(8月25日、対香川OG戦。26、28日、対徳島IS戦)。あそこがもう1個の分岐点で。『ここで諦めたり気持ちが切れたり、集中できない子がいれば、また前期と一緒でズルズル行きますよ。さあ、どうしますか』『いや、頑張ります』って。それで頑張ってくれた結果ですよね」

この3連敗以降、優勝が決定する高知FD戦までの10試合、9勝1分けと一度も星を落とさず走り続けた。優勝決定後のインタビューのなかで、主将の宏誓(河原宏誓、NOMOベースボールクラブ)が言っていた。

宏誓(河原宏誓)主将が優勝インタビューに答える
宏誓(河原宏誓)主将が優勝インタビューに答える

「連勝というのはあまり考えていなかったんですけど、1日1日、1戦1戦をとりあえず、勝つというのを目標に。チームメートも「○連勝」とかいう言葉は全然飛び交ってなかったので。ホントに1日の1試合を集中して戦っているのが分かりました」

右翼手・櫟浦大亮(ワイテック)に至っては「そんな勝ってるんですか? 全然、気付かなかった」と言うほどの有様である。

なぜ、誰も連勝のことを口にしなかったのか。森山コーチが口を開く。

「毎日『いまですよ』って。きょうある試合とか、いまやってる練習とかっていうのは『先にどういう意味をもってやる? オレはこう思うんだけど、やりますか?』『やります』『きょうの試合も暑いけど、集中してやりますか?』『やります』って返事で始まっているので」

先にある目標をつかみ獲るために、それぞれが覚悟をもって、いま目の前のことに集中して取り組む。それを1日1日、ひたすら続けたことの積み重ねが、気が付いたときには9連勝という結果になっていた。櫟浦が「気が付かなかった」と語ったのも、日々自分が取り組むべきことに集中し続けた結果なのだろう。

「あの3連敗から10試合負けなしで来られたのはすごいと思う。だって、きょう負けたら、あした(13日、坊っちゃんスタジアム)の徳島戦はしんどいでしょ。香川戦は日程的にしんどいでしょ(14日、四国Cスタ丸亀での試合は、ナイトゲーム明けのデーゲーム)。ソフトバンク(福岡・雁の巣球場でのビジターゲーム)に行くでしょ。しんどいじゃないですか。ヤバイですよ! オレ、絶対どっかで負けると思ってたんスよ! ようやるわ!」

そう言いながら笑った。

去年の悔しさを、今年前期の悔しさを

あと1試合を残したところで優勝が手のひらからこぼれ落ちた昨年前期の悔しさと、首位を走りながら後半に失速し、優勝を逃した今年前期の悔しさ。さらには北米遠征メンバーに入れなかった選手たちの悔しさも「打者の力の無さが原因だ」とはっきり名指しされた野手たちの悔しさもあっただろう。

北米遠征から帰って来た四ツ谷良輔(深谷商)は「帰って来て実際に見てみたら、スイングのスピードとかも全然違ったので。そこは相当の危機感がありました」と語っている。

伊藤和明トレーナーが長いスパンで計画してきたウェート・トレーニングと併せ、厳しい練習に耐え抜き、かつ連戦でも落ちることのなかった体力が、集中力を切らさなかった。「ただ振り込んだから打てるようになった」というような単純なものではなく、森山コーチの言った吹っ切るための猛練習が自信へと結びついている。

最多勝を狙う小林憲幸(左)と防御率トップの正田樹(右)
最多勝を狙う小林憲幸(左)と防御率トップの正田樹(右)

自身初となる最多勝タイトルを目指す小林憲幸(元ロッテ育成)が着々と勝ち星を重ね、北米遠征以降、不調に陥っていた正田樹(元日本ハムほか)が9月に入り、本来の投球を取り戻した。2人のエースに加え、伴和馬(名古屋商科大)東風平光一(大正大)高原和弘(順天堂大)阿部直晃(横浜ベイブルース)ら、投手陣がそれぞれの責任を果たす。投手力は元々あるチームだ。

打線も明らかに変わった。13日終了時でのチーム打率は.233(2位)。打点も199(2位)と前期に比べて大きく改善されている。8月29日から1つの引き分け(しかも、ダブルヘッダー2試合目での結果である)を含む9連勝と勝ち続けた10試合中、5試合で2ケタ安打を記録している。優勝を決めた高知FD戦でも14安打を放ち、打ち勝った。

そして、もう1つ。愛媛MP優勝の理由はこんなところにもある。

「僕ら同級生は『優勝!』って目標だけで」

マジックを「3」として7連勝目を挙げた対香川OG戦のあと、東予球場で櫟浦が言った。

「不安要素は無いと思うんですけど、前期であったり、去年の後期もあと1勝で『徳島と優勝争いか!』っていうなかで、自らソフトバンクに負けたりして、こぼしてる部分があるので。最後まで安心できないっていうのは……。去年、レギュラーでやってる選手は特に感じてるんじゃないかなあと思います」

伴、宏誓、高田、櫟浦、大道雄紀(四日市大)そしてコルビー(フレズノシティ大/米国)まで含めれば、6人を数える89年組が、このチームの中核を成す。徳島ISから移籍して来た大道を除くメンバーは、去年の悔しさをよく知っている。

「ホントに去年、悔しい思いして。僕ら同級生はこの1年『優勝!』って目標だけで、ここまで乗り切って来ているので。なんとしてでも目標を達成して、いい形で。最後までみんなでやりたいなと思います」

1つ目のハードルは越えた。次は球団として3度目となる年間総合優勝への挑戦だ。高いハードルがあと2つある。「後期優勝は通過点」と弓岡監督は言った。その通りだろう。

あの2カ月で強くなったことは間違いない。全員が同じ方向を向いて取り組んだことで、結束力も生まれた。優勝直前、必要以上のプレッシャーを感じることもなく、ベンチの空気は常に明るかった。それも「ここまでやってきている」という自信の表れだろう。

20日からいよいよ、前期王者・香川オリーブガイナーズとのチャンピオンシップが始まる。3勝を先勝した方が独立リーグ日本一決定戦『グランドチャンピオンシップ』への出場権を手にする短期決戦だ。

集中はまだ切れない。このチームでマンダリンパイレーツの歴史を創る。