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上位入賞者に総額4000万円、日本でポーカーブームが起こっている理由

木曽崇国際カジノ研究所・所長

【アミューズメントカジノ特集 第二回】

ポーカーの全国大会であるジャパンオープンポーカーツアー(Japan Open Poker Tour、JOPT)のGrand Finalがゴールデンウィーク期間中の4月30日から5月5日にわたり東京竹芝・ポートホールで開催された。先日カジノ管理委員会が発表した規則案によると、ポーカーは日本の統合型リゾートで認められるゲームの一種となりそうで、これは業界にとって明るいニュースとなる。

一方、既存のアミューズメントカジノにとっては顧客を統合型リゾートに奪われるという脅威にもなりかねない。前回シリーズではあくまで私企業、ハンターサイト株式会社の代表としての登場であったが、今回は一般社団法人日本ポーカー連盟の理事としての藪内氏にその胸の内を聞いてみた。

木曽:

緊急事態宣言が発令される中、予定通りの大会開催となりました。ただ、大会開催に至るまでには大変なご苦労があったと思いますが、まずはそのあたりからお話して頂けますか。

藪内:

当然のことではありますが、大会開催に関するネット上の意見はネガティブなものが多く、風当たりは相当厳しいものでした。ただ、大会開催の決定は、周到な関係各所との事前協議によるもので、決して主催側の安直な判断によるものではありません。イベント実施の可否を判断するため、東京都防災と幾度なく話し合いを行いました。また、東京都だけでなく、今回会場となった竹芝を管轄している愛宕署や、会場およびビル管理者との調整も行いました。最終的にこれら全員の関係者からの「GOサイン」を得た上で、会場入り口での体温測定やマスクの着用、参加者の連絡先の登録等、徹底した感染対策を行うことで実施するという判断になりました。

今回のイベントはその開催の大前提として、無観客での開催となりました。プロ野球などのスポーツ競技も無観客で開催していますが、ポーカーの場合は競技中にもマスクを強要しますので、かなり厳しいルールのもとでの開催です。

ゴールデンウィーク期間中でのトータルでの参加者は7000人程度ですが、この7000人は全員が大会参加者でありあくまで競技者です。行政当局にはそれならばルールに沿った開催であると判断して頂きました。我々は入念に行政と事前調整を行った上で、正攻法でルールを守ってイベントの開催をしています。それでも、嫌がらせの電話があり警察官が登場する光景も見られました。

木曽:参加者が7000人ということですが、もう少し詳しく今回のイベントの規模や参加方法について教えていただけますか。

藪内:

ゴールデンウィーク期間中の6日間でサイドイベント含めると33のトーナメントが開催されています。先程お話した通り、6日間トータルの参加者が7000人を少し超える程度となっています。東京都が定める5月11日までのイベント開催時の上限人数は1日5000人ですので、この点においても都の示す基準を満たした上で開催をしています。

メインのイベントだけでみると、参加者は約600人程度となっています。ただ、緊急事態宣言下のゴールデンウィークなので、おそらく皆様は行楽地等には出かけず、近場で過ごされていると思います。通常であれば、事前申し込みを頂いていても実際には参加されない方は2-3割程度は出るだろうというある程度の想定は出来ます。しかし、緊急事態宣言下での開催は過去に経験がないので、今回はどのくらいのキャンセルが出るのか/出ないのか、まったく予想がつきません。

また、イベントへの参加にはチケット代5000円が必要で、それらはすべて会場費など運営費に充当され、上位入賞者には第三者が拠出するスポンサーシップが提供される(その内容は後述)というのが大会運営の建付けとなっています。

木曽:

JOPTは2011年から開催されていますが、大会の規模は変化していますか?

藪内:

最近では、インターネットやスマートフォンの普及などにより、20代を中心とした若いプレイヤーが増加していることもあり、市場規模が大きくなっているのは確かです。さらに、市場拡大に拍車をかけたのがコロナの影響です。コロナ禍前までもポーカープレイヤーの数は右肩上がりで増加していましたが、コロナ禍により、急上昇しています。

恐らく、皆さんがこれまで外で行っていた余暇の活動が、家の中で楽しめるレジャーにシフトしていっているのだと思います。そのような方たちが、近年ネット上での人気が急上昇している「世界のヨコサワ」などポーカー関連のYouTube動画などを見て、さらにポーカーの魅力に取りつかれていく。さらに、それら人気のYouTuberに刺激を受け、自らポーカー関連の動画を配信し、収益化を目指すような配信者も増えてきています。

木曽:

確かに昔のポーカーは今のように20代などの若い世代が熱心にプレイするイメージはなかったですね。以前は東京や大阪などの都市部のアミューズメントカジノで特定のプレイヤーが参加している印象でしたが、前回の記事にもありましたが、今年だけで全国に30店舗近い新規のアミューズメントカジノが開業するだけの十分な需要はあるということですね。ポーカープレイヤーの人口が急激に増加しているようですが、ポーカートーナメントの大会形式自体も変化していますか?

藪内:

トーナメント形式自体も近年変化しています。最も大きな要素でいえば「OMO」への変遷です。OMOとはOnline Merges with Offlineの略語で、日本語にするとオンラインとオフラインの融合という考え方です。

これまでの考え方は、Online to Offline(O2O)が主流であり、オンラインとオフラインを切り分けて考え、双方間の行き来を促すというものでした。ポーカーで例えると、オフラインでポーカーを始めたプレイヤーが徐々にオンラインポーカーに移行してポーカーを楽しむ、もしくはその逆といった考え方です。しかし、オンラインとオフラインを切り分けるのではなく、2つの世界を融合させるのがOMOの考え方です。オンラインもオフラインも同じようにどちらにも楽しく価値があるという感じですね。

ポーカーの大会を例にお話しすると、例えばある大会を開催するとして、オンラインでの予選を勝ち抜いた人達がオフラインの会場で開催される決勝トーナメントに集まるというのがO2Oの考え方です。一方でOMOの元では予選はオフライン会場とオンライン会場で並行して行われ、決勝トーナメントではその双方を勝ち抜いたプレイヤーが例えばオフラインという同じ土俵の上で争うのです。このような開催方法の場合、オンライン開催の予選では、参加者各人の距離的な負担がないので、住んでいる場所に関係なく、参加のハードルが下がるんですね。

オンラインとオフラインを融合するというOMOですが、ポーカーはオンラインでもオフラインでも求められるスキルが変わりませんから、問題なく取り入れることができるんです。これがフォートナイトやストリートファイターなんかの大会になると実現が厳しいですよね。リアルの世界では実際に走るのが速いとか体力があるといった運動能力が求められますが、オンラインとオフラインでは求められるスキルは全く違いますから。

でもFPSでも格ゲーでもOMOを取り入れると、面白いかもしれないですね(笑)

OMOの取り組みは中国が最も早かったですが、今後、カジノのメッカである欧米圏でも必ずそのような流れが急速に広がると思います。現に、ポーカーの世界的トーナメントであるワールドシリーズオブポーカー(World Series of Poker、WSOP)は、これまでオンライン開催は一貫して否定していましたが、昨年になってついにオンライン開催に踏み切りました。これはアメリカで近年オンラインカジノが合法化されていることやコロナ禍の影響など複数の要因があると思いますが、カジノの世界でも強制的にデジタル化の波が押し寄せてくると想像しています。

木曽:

先程、参加者はチケット代として5000円支払うが、すべて会場費等の運営費に充当され、大会の上位入賞者には第三者のスポンサーシップが提供されるという説明がありました。このあたりについてもう少しお話をきかせてもらえますか。

JOPT会場から
JOPT会場から

薮内:

今回は、33のイベントがゴールデンウィーク期間中に開催され、上位入賞者には総額4000万円分のスポンサーシップが提供されることになっています。個人に提供されるスポンサーシップの最高価額は1000万円です。これらはJOPTにスポンサーシップを頂いているGGPoker、リンクスメイトなどの企業から提供されるものとなります。

GGPokerは、先述のWSOP (World Series of Poker)と呼ばれる世界一のポーカー大会を2020年から協賛し、同タイトルに基づく54のオンライントーナメントの運営を行っている企業です。JOPTは、その世界最大のポーカー大会への出場をかけた日本代表選手の選考会としての役割も担っています。まさに先程お話ししたOMOの発想でJOPTはGGPokerと異なり、オフラインによる日本代表選手の選考会を行い、WSOPという世界大会に日本人選手を送り出しているのです。

JOPTの上位入賞者は、この大会において日本代表選手としてWSOPへの参加権を獲得し、その際の渡航費用や大会参加費用などは全てGGPokerが負担する形式となっています。そのようにして払い出されるスポンサーシップの総額が大会全体を通して総額4000万円となるということで、決して上位入賞者が現金を賞金として獲得する大会とは異なります。当然、この大会方式に関しては、所轄警察署の担当課にすべて確認し、法制上の問題をクリアした上で開催をしています。

また、本年度よりGGPokerの支援を受けてJOPTからWSOPに向かって正式に日本人選手を送り出せるスキームが出来たことは我々にとっても非常に大きな前進でした。今年以前の大会においても、類似する形式でヨーロッパやアジアで開催されるポーカー大会に選手を送ってきましたが、大会規模でいうとどうしてもWSOPには見劣りします。我々の採用するスポンサーシップ付与という大会形式は、その副賞の「価値」自体が送り出し先の大会の知名度や規模、開催期間に左右されてしまいますから、そういう面では残念ながら今まであまり大きなインパクトは出せずにいたのも事実です。

今回GGPokerの支援により、WSOPという世界一のポーカー大会に日本人選手を送ることができるようになり、結果として上位入賞者に払い出せるスポンサーシップの総額が大きくなったという点で、プレイヤーにとっても非常に意味があることだったと思っています。各選手は企業スポンサーを獲得したいわゆる「プロ選手」としてその企業ロゴを背負って大会出場をして頂くわけですから、各選手にもある種のプライドのようなものが生まれるのではないでしょうか。

木曽:

最後に今後のポーカーを含めたアミューズメントカジノ業界の未来像について伺いたいと思います。前回のインタビューで今年だけでも約30店のアミューズメントカジノが新規開業するということですが、一方2020代後半には日本にもカジノを含んだ統合型リゾートの開業が予想されています。アミューズメントカジノから実際のカジノへのプレイヤーの流出は起こるでしょうか?

藪内:

単純に考えれば、日本のカジノでキャッシュプレイができるようになると、プレイヤーはそちらへと流出していくと思います。アミューズメントカジノが実際のカジノ合法化後も生き残り、また発展してゆくには、何かしらの要件が必要になるでしょう。まさに今回JOPTかWSOPに向かってプレイヤーがアミューズメントカジノを経由し、実際のカジノへ向かうという流れが出来たように、この様なプレイヤーの流れを認める制度設計が必要になると痛感しています。

例えば、日本の統合型リゾートのカジノでポーカートーナメントが開催される場合、国内その他のアミューズメントカジノでも予選を行い、成績上位者がカジノでの大会の出場権利を獲得できるような形式です。このような仕組みがないと、アミューズメントカジノ、特に統合型リゾートが開業する地域に立地する店舗の営業は非常に厳しいものになるのではないでしょうか。

逆に、もしこの様な日本の統合型リゾートに向けての正当なプレイヤーの流れを認めるような制度設計がなされない場合、アミューズメントカジノは生き残りのために「危ない橋」を渡り始めるかもしれません。アングラ化して、現金でのやり取りを行う店舗も出てくるかもしれませんし、海外のカジノへの送致する場所になるかもしれません。この様な方向に業界全体が動くのは、日本の社会全体にとっても良くないことだと思います。

私が代表理事を務める日本ポーカー連盟は風俗第五号営業を取得している事業者さんで構成されていますが、アングラ化することや、例えそれが第三者提供であっても現金を出す賞金制方式の採用は控えましょうというガイドラインを作成し、遵法営業の徹底を呼び掛けています。

統合型リゾートが開業することでポーカープレイヤーの人数は増加し市場自体が大きくなることは大いに歓迎しますが、それがアミューズメントカジノと共存できるような制度設計ができるよう、日本ポーカー連盟の代表理事としても精力的に活動して行こうと考えています。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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