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無自覚な差別主義者達による「ワクチン・パスポート」論

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

以下、報道ステーションによる報。

未だ遅々としてワクチン接種の進まない我が国日本でありますが、ワクチン接種で先行するイスラエル、米国、英国、そしてEU諸国などでは既に市民活動の正常化が始まっています。そこで注目され、また世界中で発行が進んでいるのがワクチンパスポートという施策。対コロナワクチンの接種を証明するもので、先行してこれを導入したイスラエルでは、ワクチン接種者を対象とした「グリーンライト・エコノミー」(青信号経済)による経済回復が、これまで長らく営業停止を迫られてきたレジャー産業を中心に広がっています。この取組は既に米国各州、EU諸国などにも広がっており、日本でも導入論議が進んでいるわけですが…

上記報道ステーションの報によると、諸外国への渡航者を前提としてワクチンパスポートの導入が避けられないとの前提で、我が国でもその導入検討が進んでいるとのことですが、一方で「未接種を差別に繋げないため国内利用は想定しない」などとの報道が行われており、「外では良いけど、内ではダメ」という意味不明の「差別」論に国内レジャー産業側の立場としては本当に膝から崩れ落ちる思いです。

緊急事態宣言下にある現在も含め、我々レジャー産業は1年以上に亘って社会全体から「不要不急」なるレッテルを貼られ「公共の福祉」を旗印に経済活動の自由を制限され続けてきています。我が国の憲法は、当然ながら国民の経済活動の自由(憲法第29条第1項)を保障しているわけですが、一方で今般のコロナ禍に際して各レジャー産業に対して行われる私権制限は、その第2項で定められる「公共の福祉」を目的に行われる「合理的な区別」である、と。その様に言われ続け、「自粛の強制」というもはや日本語として崩壊している施策が延々と続く中で、その要請を違えれば後ろ指をさされ「パブリック・エネミー」として社会的に糾弾される。各レジャー産業の住人たちは、その様な地獄のような毎日を送り続けているわけです。

その様なレジャー産業に対する「合理的区別」を続けてきた我が国において、諸外国でも導入が広がっているワクチンパスポートは「自粛の強制」から早期脱却する為の手段として、当然ながら注目がなされてきたわけですが、それを何故か「未接種を差別に繋げない」などという意味不明な論によって国内利用を想定しない、と。長きに亘って各レジャー産業に対して「合理的な区別」を行ってきた者達が、今頃になってムキ出しにしてくる、この歪んだ人権意識は一体なんなんでしょう。彼らが1年以上に亘って我々に対して行ってきた「合理的区別」と、今まさに導入論議が行われているワクチンパスポートで発生するとされる「差別」(と彼らが呼んでいるもの)の本質的な差異は一体どこにあるのか?前者が合理的区別ならば後者も同様であるし、後者が「差別」だというのなら前者だって差別だろう、としかコチラ側の立場としては申し上げようがございません。

現在、政府は高齢者を優先したワクチン接種を進めており、7月までにはそれを完了させるのだと一応のスケジュールを示しているわけですが、例えば「高齢者感染の主犯」などと称され厳しい営業自粛の要請が突きつけられてきたカラオケ喫茶は、「ワクチン接種者だけを対象にした営業」が出来るのならば、数ヶ月以内に早期の営業の正常化が可能となります。

現在、郵船クルーズの保有する「飛鳥2」が、運行を再開した途端にコロナ感染者を出したことで大きな騒ぎになっていますが、この調子では全国のクルーズ汽船の運行正常化ははるか先になってしまいます。「ワクチンパスポートの利用」は、まさにこの様な局面にあるクルーズ業界にとっては、数少ない早期運行正常化の為の施策であり、その国内利用が不可とされるのならば、向こう1年はマトモな営業が出来ないこととなるでしょう。

ワクチン接種で先行する諸外国において、まさに今その利用普及が進んでいる様に、ワクチンパスポートというの施策は、長らく社会から虐げられてきた各レジャー産業にとっては一日も早い業界正常化の為に必要な施策であるわけです。

ところが、よりによってこの1年以上に亘って我々に対して「不要不急」なるレッテルを張り、公共の福祉の名のもとに「合理的区別」を押し付けてきた者達が、ワクチン接種の局面に立つと今度は「差別はいけない」などと声高に言いだした。我々の立場からすれば、貴方達の人権意識はどこまで自己にとって都合がよく、どこまで歪んでいるのか、としか申し上げようがない。「全員まとめて地獄に堕ちろ」としか申し上げようのない論議が、平然と発されているのが現在の日本の状況であります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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