Yahoo!ニュース

GoToトラベル:「揺り戻し」が有るのは当たり前でしょ?

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

さて、政府がGoToトラベルの一時停止する方針を発表しました。以下NHKより。

Go Toトラベル 札幌と大阪市への旅行 新規予約一時停止へ 政府

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201124/k10012727781000.html

「Go Toトラベル」をめぐり、政府は、札幌市と大阪市について、知事の意向も踏まえ、新規予約を一時停止する措置の対象とする方針を固めました。近く、新たな措置の詳細を公表し、できるだけ早く実施に移すことにしています。「Go Toトラベル」について政府は、新型コロナウイルスの感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を導入することにしています。

この事に関して、ネット上では賛成派、反対派が入り乱れながら「GoTo止めるな」とか「ほれ見たことか」とか色々な論議が渦巻いていますが、いずれも間違いです。なぜなら「GoToトラベルがその内、必ず停止するであろうこと」というのは最初から予見されていたことだから。私は、GoToトラベルの実施が始まる前、7月の時点のエントリにおいて、以下の様に述べていました。

GoToトラベル:変わらなきゃいけないのは観光産業

http://www.takashikiso.com/archives/10261280.html

「GoToトラベル」施策は、これまで地震や水害などの自然災害を受けて観光低迷した地域に対する支援策として使われてきた「ふっこう割」を下地としたもので、これまでの「ふっこう割」に関しては一定の効用があったと総括されています。ただ、今回のコロナ禍と以前の自然災害との違いは、自然災害は一旦被害が発生した後は基本的に経済回復に向かって上向いてゆくのみであるのに対して、今回のコロナ禍はいつ何時、再びパンデミックが始まるかは判らず、「回復」路線に乗るのは先述の通りワクチンの普及が終わった時のみということ

要は、自然災害時の「ふっこう割」は公財源の投入を「呼び水」にしてその後の民間消費を喚起するものとして機能し得るが、今回のコロナ禍に際しての公金投入は基本的に消費が低迷する観光市場に右から左に公金を流すだけの施策であり、ワクチン普及が終わるまでずっとそれをやり続ける事が出来るのならいざ知らず、原則的に一時しのぎにしかならないということであります。

今回、我々が直面している感染症という疾病の特性上、人間の経済活動が活性化すればまた流行が始まるであろうということは自明であるワケですから、そもそもGoToトラベルという施策は一時しのぎ。結局「行きつ戻りつ」を繰り返しながら、ワクチン普及が終わるまで騙し騙しやってゆくしかないワケですから、GoToトラベルが停止するなどという事はそもそも大前提としてその施策が打たれているわけです。なので、今回その施策が停止すること自体に「早かったね/遅かったね」程度の感想の差はあれ、それを非難したり、間違いを論ずること自体が無意味であるといってよいでしょう。

寧ろ、我々が論議すべきは、このGoToによるブースト期間において、次なる感染症の流行の山に向けてどんな準備をしてきたのか?ということ。先にご紹介した7月のエントリの中で私は以下の様にも書いていました。

この様な現実の中で、我々がやらなければいけないのはこれから年単位で続くであろう「withコロナ」時代の新しい産業の在り方を早急に模索する事。各観光施設が感染症対策を講ずるのは元より、3密回避の為にどうしても稼働を落とさざるを得ない環境の中で利益がキチっと出せる様な産業全体の生産性の向上を急激に高めてゆく事であります。勿論「GoToトラベル」で一時的に「助かる」人は勿論世の中に幾ばくかは居るのでしょうが、私としては同じ1.6兆円の予算を投入するのならば、そういうところに助成を付けて行く方が産業の未来に繋がるのではないかな、と思うところであります。

例えば、星野リゾートさんなぞは、観光業界がGoToトラベルの「にわか景気」に沸いている中、先週、以下の様なプレスリリースを出しています。以下、エキサイトニュースからの転載。

【星野リゾート】~最高水準のコロナ対策 冬~ 湿度40%以上を保つ加湿器を全客室に導入し、感染リスクを軽減します。

https://www.excite.co.jp/news/article/Atpress_235955/

人間の鼻や喉の粘膜には、体内に入ってきた異物を掻き出してくれる作用がありますが、乾燥が原因で、この働きが低下すると言われています。 また、飛沫は、乾燥しているときほど長い時間にわたって空気中を漂います。 星野リゾートでは、「最高水準のコロナ対策宣言」のもと、客室を湿度40~60%の潤いのある空間に保つことができる加湿器をご用意し、感染リスクを軽減します。そのため、乾燥する冬も安心してご滞在いただけます。

ということで、この観光業界の市況が全く見えない中で新しい設備投資をすることは星野の様な大規模事業者にとってもシンドイ事ではありましょうが、星野リゾートが客室の湿度40%を担保する為の加湿器の導入を施設に行ったというニュース。湿度が低くなりウィルスが感染しやすい冬が到来すれば、新型コロナの再活性化リスクが極大化するわけで、そういう感染症の再流行を予見して準備している業者は、その他の業者がGoToトラベルの「にわか景気」にバカ騒ぎしている中でも着々と備えを行っているワケですよ。

要は、もし一連の「GoToトラベル」の顛末の問題追及をしたいのならば、そもそも自明であったその施策停止の是非を論議するのではなく、「一時しのぎ」としてプログラムされていたこのブースト期間中に、関係各所がどの様な準備をしていたのか/いなかったのかに注視すべき。民間は、天から降ってくる行政予算を喰うことに必死で、次なる流行に向けて自身が「変わらなければいけない」ことを忘れてませんでしたっけ? 行政は、目前のGoToの実施ばかりに忙殺されて「一時しのぎ」が切れた後を見据えた施策を怠っていませんでしたっけ? 私としては、寧ろその点を強調して指摘したいと思う所であります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事