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GoToトラベル:変わらなきゃいけないのは観光産業

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

私のYouTubeチャンネル側のミニ調査企画で、日本を代表する2大観光地、北海道と沖縄に居住の社会人100名に、現在政府が計画している「GoToトラベル」に対する評価を聞きました。以下がその結果です。

北海道&沖縄在住者による「GoToトラベル」への評価

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(筆者作成)

地域で生産活動側に居るわけではない主婦や学生や隠居者を含めてしまうと「不安」票が増えてしまうのではないかなと思い、あえて「社会人」に限定してアンケートを取ってみたのですが、それでも「期待より不安」と答えた者が88%に及びました。年齢の高い層(50代以上)に限って集計してみるとこの比率は更に上がり、実に92%が「不安」と答えています。「そりゃまあ、そうですよね」という感想しかありません。

本「GoToトラベル」キャンペーンに関しては、東京でコロナ感染被害が広がっている現状もあり「果たして今なのか?」というタイミングの是非論になりがちですが、私としては本当はもっと本質的な部分について論議をしなければいけないのじゃないかなあと思っています。

大前提として私達が認識をしなければならないのは、コロナ禍の発生により完全に狂ってしまった我々の経済/社会が正常に再起動するには「ワクチンの開発→量産体制」の確立が必須であり、それなくして状況が以前の形に戻ることはないということ。そして、ワクチンの開発から量産体制の確立までには年単位の相当の時間が必要であり、数カ月単位で社会が正常化することはないという事であります。以下は、現在ワクチン開発に対して、最も高額の金銭支援を行っている人の一人、ビルゲイツ氏による分析です。現在、ゲイツ財団は数千億円を投じて7つのワクチン開発プロジェクトを同時に進行させていますが、ゲイツ氏は「数年以上にわたるプロセスが必要となる」と分析しています。

【参考】ビル・ゲイツが語る“コロナ後の世界”「ワクチンなしに日常は戻らない」

https://www.jiji.com/jc/bunshun?id=38970

今回政府が取った「GoToトラベル」施策は、これまで地震や水害などの自然災害を受けて観光低迷した地域に対する支援策として使われてきた「ふっこう割」を下地としたもので、これまでの「ふっこう割」に関しては一定の効用があったと総括されています。ただ、今回のコロナ禍と依然の自然災害との違いは、自然災害は一旦被害が発生した後は基本的に経済回復に向かって上向いてゆくのみであるのに対して、今回のコロナ禍はいつ何時、再びパンデミックが始まるかは判らず、「回復」路線に乗るのは先述の通りワクチンの普及が終わった時のみということ。

要は、自然災害時の「ふっこう割」は公財源の投入を「呼び水」にしてその後の民間消費を喚起するものとして機能し得るが、今回のコロナ禍に際しての公金投入は基本的に消費が低迷する観光市場に右から左に公金を流すだけの施策であり、ワクチン普及が終わるまでずっとそれをやり続ける事が出来るのならいざ知らず、原則的に一時しのぎにしかならないということであります。

この様な現実の中で、我々がやらなければいけないのはこれから年単位で続くであろう「withコロナ」時代の新しい産業の在り方を早急に模索する事。各観光施設が感染症対策を講ずるのは元より、3密回避の為にどうしても稼働を落とさざるを得ない環境の中で利益がキチっと出せる様な産業全体の生産性の向上を急激に高めてゆく事であります。勿論「GoToトラベル」で一時的に「助かる」人は勿論世の中に幾ばくかは居るのでしょうが、私としては同じ1.6兆円の予算を投入するのならば、そういうところに助成を付けて行く方が産業の未来に繋がるのではないかな、と思うところであります。

…という様な今回の「GoToトラベル」に関する考察と併せて、先にご紹介したミニ調査の詳細分析などもYouTubeチャンネル側でつらつらと行っておりますので、もしご興味のある方はあわせてご覧頂ければ幸いです。

【参照】「大人の遊び」研究所/木曽崇

https://www.youtube.com/channel/UC0UueKrYPGueHItKNUthRWw?view_as=subscriber?sub_confirmation=1

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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