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コロナウィルスによる「経済死」リスク

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

最初に断っておきますが、私は原則自民党支持者ですし、個別論では色々あれど総論としては安倍政権の政策を支持してきた人間です。なので、現在の新型コロナに対する政府施策に関しても一部の方々がやっているような「批判の為の批判」をするつもりは毛頭ありません。そういう立場を明確にした上で、昨日行われた安倍総理による新型コロナウィルス対策に関する総理会見の内容には全く支持が出来ません。

首相記者会見全文(1)「現時点で緊急事態を宣言する状況ではない」

https://www.sankei.com/politics/news/200314/plt2003140016-n1.html

(※記者による変な「アングル」が付けられてる記事を読むくらいなら、是非会見全文を読みましょう)

まずもって、改正新型コロナウイルス感染症特別措置法の成立にあたり、まかり間違って緊急事態宣言なぞが行われなかったことは良かったと思います。日本政府が取った施策が効果を得ており、現在の世界各国でのウィルス拡散と比べると日本のそれが比較的緩慢なものとなっているという発表も朗報ではありましょう。

ただね、現在の日本の施策が効果を得ていることは寧ろ「当たり前のこと」であって、そうあって貰わなければ困る話なんですよ。

テレビに出て来る「自称専門家」の方々は別として、今回の新型コロナ騒動に際して発される感染症の専門家の方々の情報発信を注意深く見ていると、政府専門家会議の公式情報も含めて実は常に感染被害拡大を防止する為の公衆衛生の保持と経済社会活動の成立の両方が大事ですよっというメッセージが常に発されています。例えば、2月25日に政府専門家会議から発された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を見ると現時点での対策として;

・感染拡大防止策で、まずは流行の早期終息を目指しつつ、患者の増加のスピードを可能な限り抑制し、流行の規模を抑える。

・重症者の発生を最小限に食い止めるべく万全を尽くす。

・社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる。

という目標が明確に定められており、例えば国内の各種イベント開催に関しても

イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではないが、専門家会議からの見解も踏まえ、地域や企業に対して、イベント等を主催する際には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう要請する。

という非常に抑制的な表現が使われているし、どこからか急に降ってわいてきて安倍総理が「政治的リーダーシップ」で急に決定した全国学校の一斉休校なんて専門家会議ではそもそもその必要性自体がビタイチ論議されていないわけです。

【参考】学校休校は専門家会議「完全スルー」で決まった、社会不安を生みかねない

岡部信彦・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員・川崎市健康安全研究所長インタビュー

https://diamond.jp/articles/-/230489

要は、政府専門家会議の公式情報も含めて、「本当の専門家」の人達というのは実は常に公衆衛生と経済社会活動のバランスが重要ですよってメッセージを発しているのであって、それを極端な政策論に落とし込むのは妙な「リーダーシップ」をアピールしたい政治であったり、それをオモシロオカシク報じたいマスコミであったりでしかないわけです。

逆に言うのならば、今回安倍政権は専門家が「社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる」ことを目的としてあえて抑制的に示していた政策方針のラインを踏み越えて、「政治的なリーダーシップ」でより厳格な、逆に言うと社会経済的にはインパクトが大きな施策を選択したわけですから、その施策がウィルス対策として効果を得ていることは寧ろ「当たり前のこと」であって、そうあって貰わなければ困る話わけですよ。

一方で冒頭ご紹介した総理会見の評価に戻りますが、前半部分の施策による効果のアピールは良しとして、後半部分の社会・経済への影響緩和に関する施策部分が驚くほど内容がない。以下、安倍総理の会見発言の原文;

「われわれはしっかりと雇用を守り抜き、成長軌道に、確かな成長軌道に戻していかなければならないわけでありまして、何をすべきか、何をすべきかということについてはですね、こうした提言も踏まえながら、そして世界経済の動向を注意深く見極めて、さまざまな可能性を想定しながら、今後必要かつ十分な経済財政政策を間髪を入れずに講じていきたいと、こう考えております」

「雇用を守り抜きー」とか「成長軌道に戻しー」は良いですけど、それ以下は具体的な内容はおろか、それら検討のタイムラインすらなんら示されていないですね。

また最優先事項として我々民間に対して「雇用の維持と事業の継続」を政府は求めており、事業継続と雇用維持の為、休業補償や中小企業向けの無利子・無担保融資などを利用して「なんとかこの場をしのげ」と要請をしているワケですが;

中小企業に無利子・無担保融資 臨時休校、保護者の休職中給与補償―安倍首相

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020030700524&g=pol

この種の休業補償や特別融資制度は地震や水害など、これまでの様々な自然災害においても普通に設定されてきたものであって、正直、完全に想像の範囲内の通常施策です。繰り返しになりますが、今回総理は専門家会議が「社会・経済へのインパクトを最小限にとどめる」ことも念頭に置きながらあえて抑制的に示していた政策方針のラインを踏み越えて、より強力な新型コロナの封じ込め施策を「政治的リーダーシップ」をもって選択したわけですから、逆にそこから発生する経済・社会的なダメージコントロールに関しても強力な「政治的リーダーシップ」を発揮して頂かなければウソですよ。私は今回の総理会見の中で、そういうメッセージを探して注意深く一言一句に聞き耳を立てていたのですが、大変申し訳ないですがその種のメッセージは一切含まれていなかったです。

そもそも、いち中小企業の経営者、そして今最も経済的な痛みを受けている夜の産業および観光産業の専門研究者として申し上げますが、総理は「無担保・無利子の融資制度を用意したのでそれでこの急場をしのげ」と言いますが、今回の総理会見も含めてなんら政府側の施策のタイムラインが示されていない中で、この先1カ月続くのか2カ月続くのか、はたまた半年1年続くのかも判らない毎月の営業赤字を補填する為に借金なんかできる経営者がどれほど居ると思ってるのでしょうか?

いや、私は別に「いつコロナ被害が明けるのか?」なんて回答不能な情報を求めているワケでは無いんですよ。ただ、各経営者に借入金で何とか急場をしのげと要請する一方で、判断材料が何一つ提供されてないなかで人って借金できるんでしたっけ?ってことを言ってるワケです。今後政府はどういうスケジュールでどういうタスクを積み上げて行くのか。そして、どういう基準にまで至ったら今の全国的な自粛要請は解除され得るのか。何でもいいから「何か」ヒントとなる情報が提供されないと、経営者は借入金でしのぐべきか、それとも早めにギブして「飛ぶ」べきかの判断すらできないでしょう?と。企業経営の為に借金なんてビタイチしたことのない政治家と官僚と研究者が、空想のなかで対策を練っているからこんな頓珍漢なメッセージが出て来るのですよ。そんな事も判ってない人達が「地域と現場の声を聞きながら対策を講じて行きたい」などとキレイな旗ばっかり振ってれば、それを聞いてるこちらは憎悪こそ湧けども、そこに希望なんて湧いてきませんよ。

繰り返しになりますが今回総理は専門家会議があえて抑制的に示していた政策方針のラインを踏み越えて、より強力な新型コロナの封じ込め施策を「政治的リーダーシップ」をもって選択したわけですから、逆にそこから発生する経済・社会的なダメージコントロールに関しても強力な「政治的リーダーシップ」を発揮して頂かなければならない。

これより政府は4月に向けて経済対策の策定を急ぐとの事ですが、残念ながら今国側から与えられている情報や施策では正直、各事業者がそれら対策が講じられるまで借入金でしのぐべきか、それとも早めにギブして「飛ぶ」べきかの判断材料すらも一切与えられていない。今、各事業経営者が迫られている判断に必要な情報は、将来的、数か月後に発動される経済対策に関する情報というよりは、今日、明日の経営判断をする為の情報ですから、まずもってそちらの補強をお願いしたい。「いつウィルス被害が明けるのか」なんていう不確定な情報は要りません。政府がこれからどういうタイムスケジュールで何を積み上げて行くのか、今決まってる事をより具体的にしっかりと伝達をお願いしたい。今回の総理会見の様な勇ましい口上ばかりで、中身が何もないメッセージをどれだけ積み重ねられても、先に何も決まってないのであれば直ぐに「飛ぶ」判断を各経営者がするだけでしょう。

あ、ちなみにここでいう「飛ぶ」は、事業を「飛ばす」の意と併せて、経営者自身が物理的にビルから「飛び降りる」の意まで含んでいます。関係各所の皆様方におかれましては、少なくとも私が専門として目が届く範囲の夜の産業、および観光産業は、そのくらい切羽詰まってると思って頂きたいです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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