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ゲーム依存問題を「正しく」語ろう

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

さて、先日2月6日に政府側で「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」が行われました。以下では、当日行われた久里浜医療センターの行った若者のゲーム依存に関連する発表に関して、いくつかの問題点を指摘し、同時に私が専門とするギャンブル依存側の研究から援用できるであろう対策論議に関してyoutube動画に纏めました。ご興味のある方はご覧ください。

【動画解説】ゲーム依存問題から学ぶ相関・因果・疑似相関

https://www.youtube.com/watch?v=D471uDJeQ7M&t=

私自身、ここ数週間に報道されるゲーム規制に関する様々な論議を拝見し、またゲーム規制反対派の方々が主催した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例を考える」と題されたセミナーなどにも足を運び、皆さんの主張を拝聴しました。

私自身は勿論、ゲームに対する過剰な規制に対しては明確に「反対」の立場であり、また現在香川県側で提案されている対策条例に関しても「行き過ぎ」であると思っています。一方で、これらに反対する層の中にも、実は私としてはどうもピンと来ない主張をされる方も存在しており、そちらはそちらであまり賛同できないんですよね。

まず、私が賛同できないのは、ゲームを愛するあまりなのか、もしくはポジショントークなのか判りませんが「ゲーム依存(正確にはゲーム障害)」という現象そのものを頭から否定してしまう様な主張。現在のゲーム規制の流れは2018年9月にWHOがゲーム障害を精神障害の一種として公式に定義したことが始まりなのであって、当然ながらそこに対する「障害」が存在すること自体は科学的にも論証されているもの。大変申し訳ないですが、そこを否定しても仕方がありません。ゲーム依存(障害)は確実に世の中に存在しています。

加えてもう一つしばしば見られる論議スタイルが「ゲームで救われる命もある」的な反論を打つ論調。これは規制推進派の論調があまりにも「ゲームは害悪」という主張に寄った推進をしている事に対する反発なのだとは思います。彼らは青少年のゲーム規制を推進する根拠として「ゲームのせいで引きこもりになった」だとか「親のクレジットカードを使って何十万もの課金をした」だとか、非常に極端な事例を持ち出すことで規制の正当性をアピールしており、それが非常に不愉快であることは判ります(私だって不愉快です)。

一方で、そういう一種の極端なエピソードを持ち出してモノを語る人達に対して、同様の「ゲームで救われる命もある」などというこれまた極端な事例を持ち出して反論することは究極的にはただの水掛け論でしかなく、一方で規制推進派が主張している問題を「打ち消す」ことは出来ません。先に述べた通り、世の中にはゲームに依存している人間は間違いなく存在しており、それは非常に極端な事例なのかもしれませんが指摘されている様な「問題」は間違いなく起こっているのですから。そこに対する対処が必要であること自体は否定はできないワケです。

要は、私として申し上げたいのは規制推進派も反対派も、極端な事例を持ち出して感情的にゲームの「良い/悪い」を語るのではなくて、実際にどういう問題がどの程度の頻度(比率)で発生しているのかを正確にとらえた上で、必要な問題に対して「適切な」対応の在り方を論議しましょうということ。2018年に「ゲーム障害」を正式に精神障害の一つとして認定したWHOは、実はその認定の際に以下の様なコメントを付しています。以下、WHOのwebサイトからの転載(邦訳は筆者)。

Studies suggest that gaming disorder affects only a small proportion of people who engage in digital- or video-gaming activities. However, people who partake in gaming should be alert to the amount of time they spend on gaming activities, particularly when it is to the exclusion of other daily activities, as well as to any changes in their physical or psychological health and social functioning that could be attributed to their pattern of gaming behaviour.

各種調査はデジタルゲームおよびビデオゲームを利用している人々の内、ほんの小さな比率の人達がゲーム障害の影響を受けているに過ぎないことを示してはいるが、一方で一定量のゲームに参加した時、より具体的にはゲームがゲーム以外の日常生活を阻害している時、肉体的/精神的な健康状態や社会生活などがゲームに対する行動様式が原因で変調するようになった時、ゲームに参加する人々は注意喚起を受けることが求められる。

(出所:https://www.who.int/features/qa/gaming-disorder/en/

現状で医療的に共有されているのは上記の記述以上でも以下でもないわけで、その「ほんの小さな比率の人達」の為に全体規制をかける意義などはないですし、逆に実際に「問題が生じている人」を否定する意味などないわけです。推進派も反対派も、私から見ると正直、少し「思想かかり」すぎ。もう少し冷静かつ論理的な議論を重ねませんか。

ということで、Youtube側の解説動画にご関心のある方はそちらも合わせてご覧下さい。

【動画解説】ゲーム依存問題から学ぶ相関・因果・疑似相関

https://www.youtube.com/watch?v=D471uDJeQ7M&t=

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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