路上飲酒禁止条例がナイトタイムエコノミー振興を阻害
昨年ハロウィンでの騒動を受け、渋谷区がハロウィン期間中の路上飲酒禁止に向けた条例の制定方針を決めたそうです。
ハロウィーン路上飲酒禁止 渋谷、検討会が混乱防止策
昨年秋のハロウィーンで逮捕者が出るなどトラブルが相次いだ渋谷駅(東京・渋谷)周辺について、渋谷区が設置した対策検討会は15日、ハロウィーン期間中などに路上飲酒を禁止する混乱防止策を盛り込んだ中間報告を公表した。中間報告は「酒を飲み歩きする行為が騒ぎに拍車を掛けており、有効な手だてを検討すべきだ」と指摘し、規制付きの条例制定を求めた。
渋谷区の設置した検討会議の座長が、石原都政下のかの有名な「都市浄化作戦」の陣頭指揮をとった元東京副知事の竹花豊氏であるとのことですから、こういう理屈が出てくるであろうことは予想の範疇ではあったのですが、一方で私として驚いたのはナイトタイムエコノミーを推進してきた側の立場の人間が、この条例案に賛同するポジションを取っているということ。これには個人的に、ちょっとビックリしてしまいました。
今回の中間報告においては「酒を飲み歩きする行為が騒ぎに拍車を掛けており、有効な手だてを検討すべきだ」とのコメントがなされているとのことですが、渋谷ハロウィンで発生する騒動を抑止する為に問題行動そのものではなく、その横にある「飲酒行為」を禁止するという規制の在り方は、「善良の風俗保持の為に〇〇禁止」という風営法の持つ規制の在り方とその背景にある理念は変わりません。2015年の風営法規制緩和は、それまでの法がダンスを「男女の享楽的雰囲気の醸成し、善良の風俗を乱すもの」としていたのに対し「ダンスそのものを悪として規制すべきではない」という主張が広がることで実現したわけですが、そういう規制緩和を推進していた側に立つ論者が今お酒に関しては公秩序の保持の為に規制が必要という論を打つのは個人的には大きな違和感があります。
この様な論調が広がり、一旦、お酒が悪者になった先に、この種の規制の適用範囲が広がってゆくのは火を見るよりも明らか。現時点でも渋谷区の長谷部区長は既に本規制をハロウィンのみならず、大晦日の年越しカウントダウンに適用を行う検討を始めるとしていますが、渋谷のスクランブル交差点が今の様な使われ方をするようになったのは元々はサッカーのW杯が発端であり、ハロウィン・大晦日に条例を適用するのであれば、その種の大規模スポーツイベントの開催時にもそれを適用しない理屈はありません。
だとすると、来年実施となる東京オリンピックの開催時はどうなるのでしょう? 日本人のみならず、海外からのお客様が来訪する中で行われる国際的なスポーツイベントは、当然ながら通常時と比べて沢山のリスクが伴います。やっぱりその時も合わせて路上飲酒は禁止すべきであり…などと規制拡大論は限りなく広がることでしょう。まあ、それこそがかつての石原都政の時代の「都市浄化作戦」の再現であり、当条例案を起案した検討会議座長たる竹花豊氏が目指す公秩序の在り方なのかも知れませんが。
これは私自身がいつも言っていること、かつ拙著「夜遊びの経済学」でも記載を行った事でありますが、東京都の迷惑防止条例には「祭礼や興行などに際してその場の混乱を誘発・助長する行為」を直接取り締まる条項があるわけですから、まずはその様な条例の厳格運用を行うのが優先であり、それなくして「公秩序の保持」を理由として周辺の様々な要素を禁止・規制してゆく条例を増やして行くのは愚の骨頂であるといえましょう。
【参考】東京都迷惑防止条例第五条-3
何人も、祭礼または興行その他の娯楽的催物に際し、多数の人が集まつている公共の場所において、ゆえなく、人を押しのけ、物を投げ、物を破裂させる等により、その場所における混乱を誘発し、または助長するような行為をしてはならない。
今回の路上飲酒禁止条例に賛成する側に立ったナイトタイムエコノミー推進者の方々は今回の条例案の提案で渋谷ハロウィンを「救った」と考えているのかもしれません。しかし現在、公園や路上など公共空間を利用した野外でのナイトタイムエコノミー振興のプロジェクトが様々な地域で進められている中、その身代わりとして「路上飲酒」を十字架に張り付にしたことが、より大きなナイトタイムエコノミー推進のピースを失わせてしまうリスクに気付いてないのかもしれないな、と思っているところであります。