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日本eスポーツ連合(JeSU)、高額賞金問題に関するまとめ その2

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

先のエントリ「日本eスポーツ連合(JeSU)、高額賞金問題に関するまとめ」において、日本eスポーツ連合(通称:JeSU)がこれまで公に説明を行ってきた高額賞金制ゲーム大会の「実現の仕組」には大きな法的問題が存在することをお伝えした。しかし実はこのJeSUを巡っては、上記でご紹介した以外にも、大きな「疑惑」が存在している。

それが、同団体が「JeSUのプロ認定制度によって可能になった」として世に謳ってきた高額賞金制大会は、実は大会ステージに出演する出演者達と労務契約を結び、その仕事に対して報酬を支払っただけのゲームイベントなのではないか?とする疑惑である。

1. そもそもプロ認定制度がなくても報償は出せる

そもそも実は、JeSUが提供するプロ認定制度などなくても、ゲーム大会においてゲーマー達に金銭的報償を支払う手段というのは伝統的に存在してきた。以下、消費者庁の示す景表法運用基準からの引用。

5. 「物品、金銭その他の経済上の利益」について

[…中略…]

(3) 取引の相手方に提供する経済上の利益であっても、仕事の報酬等と認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらない(例 企業がその商品の購入者の中から応募したモニターに対して支払うその仕事に相応する報酬)。

(出所:景品類等の指定の告示の運用基準について

上記の運用基準は昭和52年の運用基準改定に伴って景品表示法による景品規制の「例外」として追加された条項であり、事業者がその取引相手に提供する経済上の利益であっても、それが「仕事の報酬等」と認められる場合には規制の対象として扱わないとするものである。この例外規定は、代表的には化粧品会社などが自社商品の愛好家達を商品モニターとして集める時に支払われる報酬などに適用されてきたものであるが、実はこれを利用してゲーマー達に報償を支払うという手法は、ゲーム業界側でも伝統的に利用されてきたものである。

例えば、一部のTCG(トレーディングカードゲーム)においては、ゲーム大会の優勝者との間で事後にメディア出演契約などを結ぶことで、擬似的にその大会結果への報償の手段としてきた。またKONAMI社の発売するリズムゲーム「beatmania」では、2016年に行われた同タイトルの全国大会優勝者であるDOLCE.氏と公式のプロゲーマー契約を行っている

JeSUにこれまでかけられてきた大きな疑惑は、実はこのように伝統的に存在してきたゲーマー達への「労働報酬」としての報償支払い手段を用いながら、それをあたかも「JeSUのプロ認定制度によって高額賞金制大会が実現」したとして謳ってきただけなのではないか、とするものである。

2. 判明した日本eスポーツ連合のウソ

この疑惑に対してJeSUは長らく正式なコメントを避け続けてきたが、2月18日にRed Bull ゲーミングスフィア(東京都中野区)にて開催された「ゲームと金」と題された座談会において、ついにその真相が明らかになった。「プロライセンスは必要?」として題された座談会第二部の冒頭から投げられた「JeSUのいう高額賞金は労務報酬なのか?」という質問に対し、JeSU副会長の浜村弘一氏は始終言葉を濁しながら明確な回答を避けたものの、最終的にはそれが労務報酬契約によって提供されているものであるということを、事実上認めざるを得ない形となったのである。

【参照】緊急座談会!ゲームと金

https://www.twitch.tv/videos/230583009?t=01h59m10s

但し、それが実は労務契約による景表法の適用回避であったとしても、JeSUが主張している大会のあり方には未だ法的疑義が残されている。先述のとおり、この「労働契約」を採用して景表法の規制を回避する手法は伝統的にゲーム業界の中でも採用されてきたものではあるが、少なくとも先行するゲーム大会の実施例および、過去の指導例ではその大会で得られる報償を「賞金」として表現することは出来ないとされてきた。これはこの仕組みを通してゲーマーへ提供される報償が、あくまで「仕事の報酬」であるという先の運用基準の示す大前提に基づいたものである。

また、もう一つの法的疑義がその報償の「価額」に関するものである。景表法運用規則が定める「仕事の報酬として提供される金品は景品にあたらない」とする条項の運用は、少なくともこれまでは「その仕事の内容に相応する報酬」である限り認められるという限定的な運用であり、青天井で高額な報償が提供できるような制度運用ではない。

一方、JeSUは本制度の構想段階から「JeSUによるプロ認定制度によって高額賞金制大会が実現した」として繰り返し宣伝を行ってきている。その結果、それを報じるマスコミも含め「そこに巨額の賞金が提供できるものである」という大きな誤解が広く社会全体に生まれつつある。例えば、以下NHKによる報道。

eスポーツ 五輪を目指す

https://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2018_0215.html

巨額の賞金が可能に

このプロライセンスの制度、実は世界的にも珍しいといいます。なぜ、わざわざプロを認定する制度が必要なのでしょうか。その理由の1つは、法的な問題を解決して大きな賞金の大会を開けるようにすることです。

海外では億単位の賞金がかかった大会もありますが、日本ではゲームメーカーなどの立場からすれば、開催は事実上不可能でした。景品表示法では、大会の賞金がゲームソフトを購入させるなど「顧客を誘引する手段として」の「景品類」と捉えられるおそれがあるため、賞金の限度は10万円までとなるのです。しかし、プロの選手が競技として戦う大会であれば、仕事の報酬としてみなされ、高額の賞金を出せるというわけです。

しかし、少なくとも筆者の法理解に基づけば、その報償が例え労務契約に基づく「仕事の報酬」として提供されるものであるとしても、そこで提供される報酬が実際の仕事の内容を大きく超えてしまうような高額な価額であった場合は、依然として景表法違反になる。更に言えば、その大会の報償がゲーム売上の中から実質的に「積み立てられている」と認められた場合には、その先に刑法賭博罪すら問われる可能性のある事案となる。現在、JeSUによるプロ認定制度が「高額賞金制大会を実現した」と宣伝され続けている現状は、非常に高い社会リスクを生んでいるという事は、先のエントリでも述べたとおりである。

【参照】日本eスポーツ連合(JeSU)、高額賞金問題に関するまとめ

https://news.yahoo.co.jp/byline/takashikiso/20180212-00081525/

3. プロ認定制度は消費者庁の意向で出来た?

更にこの一連のプロ認定制度を巡る様々な疑念に関連して、上記の座談会においてJeSU副会長の浜村氏が非常に気になる発言を行っている。以下、浜村氏による発言。

緊急座談会!「ゲームと金」(01:16:05~)

https://www.twitch.tv/videos/230230810?t=01h16m05s

浜村:僕らもなにも官公庁と相談をしていないなんてことをずっと言われていましたけど、消費者庁と話してるんですよ。僕も消費者庁に5回も行って、来ても貰ったし。そこの中でどうやっていけるかというのを議論したんですね。

その中で僕らの中もプロなら行けるんじゃないかと思ってたんですけど、ちゃんと消費者庁の方から二つ方法があって、一つは取引付随性のない全然関係ないところがお金を出すなら問題ない。もう一つはプロライセンスなら、判りやすくその人が高度なパフォーマンスを出せるっていうことを言えるんで、報酬として払う。整理がしっかりと出来ますという言い方をされたんですね。

なので僕らはその意向を受けて、プロフェッショナルライセンスというのが良いんだねということで議論したんです。

上記のように浜村氏は、JeSUがこれまで「高額賞金制大会を実現する仕組みである」として宣伝してきたプロ認定制度が、実は消費者庁による意向を受けて生まれたものであったという説明を行っている。ひょっとすると、この消費者庁による「意向」がこれまでの運用の中では認められてこなかったハズの(JeSUがいう所の)「高額賞金制大会を実現」という表現に繋がっているか?その真意を問うため、筆者は当該座談会が開催された翌日、2月19日付けでJeSUに対して以下のような公式の質問メールを送付し、その回答を求めた。

緊急座談会!「ゲームと金」における浜村弘一副会長の発言に関する公式質問

大変お世話になっております。国際カジノ研究所の木曽と申します。

以下、2月18日にレッドブルゲーミングスフィアにおいて開催されました「緊急座談会!ゲームと金」におきまして浜村弘一、御連合副会長が行った発言に関しまして、公式に質問を申し上げます。以下、当該イベントにおける浜村氏の発言(原文ママ)

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緊急座談会!「ゲームと金」(01:16:05~)

https://www.twitch.tv/videos/230230810

僕らもなにも官公庁と相談をしていないなんてことをずっと言われていましたけど、消費者庁と話してるんですよ。僕も消費者庁に5回も行って、来ても貰ったし。そこの中でどうやっていけるかというのを議論したんですね。

その中で僕らの中もプロなら行けるんじゃないかと思ってたんですけど、ちゃんと消費者庁の方から二つ方法があって、一つは取引付随性のない全然関係ないところがお金を出すなら問題ない。もう一つはプロライセンスなら、判りやすくその人が高度なパフォーマンスを出せるっていうことを言えるんで、報酬として払う。整理がしっかりと出来ますという言い方をされたんですね。

なので僕らはその意向を受けて、プロフェッショナルライセンスというのが良いんだねということで議論したんです。

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上記浜村氏の発言に関しまして以下2点の質問にご解答を頂けましたら幸いです。

1)上記発言は、JeSU副会長としての正式な発言であると受け止めてよいか?

2)JeSUとしても、上記発言の内容が「事実である」という認識か?

御連合からの公式の回答をもって、消費者庁にその指導内容の真意について取材を行おうと考えております。当方都合でありますが、取材の都合上、3日以内(2月21日水曜日まで)に上記質問へのご回答を頂けましたら幸いです。ご返答を頂けない場合には、「JeSUによる公式の返答はなかった」として次なる取材プロセスに進まさせて頂く予定ですので、その点はご了承頂けましたら幸いです。

宜しくお願い申し上げます。

上記のような質問を公式に行ったにも関わらず、回答期限をすぎた2月22日現在、未だJeSUからの公式の回答はなされていない。本件に関しては、引き続きその真相を追ってゆく予定である。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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