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日本の賭博行政のターニングポイント:民営賭博の合法化

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(提供:アフロ)

さて、現在、政府内で行われているIR推進会議にて以下のような見解が示されたとの内容が報じられました。毎日新聞より転載。

政府「カジノ合法化は可能」

https://mainichi.jp/articles/20170719/k00/00m/010/179000c

政府は18日、有識者による統合型リゾート(IR)推進会議で、カジノを刑法の賭博罪に抵触させず、合法化は可能とする見解を示した。観光振興や社会還元など目的に公益性があり、事業者に厳しい規制を課することで他の競馬など公営ギャンブルと同様に違法性が否定されるとした。

昨年年末に成立した我が国の統合型リゾートとカジノ合法化を推進するIR推進法の審議時に、反対派との推進派との間で、依存問題と並んで最も激論を呼んだ内容がこの「日本のカジノを民設民営とする」という規定でありました。我が国の刑法は原則的に賭博を禁じており、その違法性を特別に阻却(無効化)する法律を作ったとしても、あくまでその賭博実施の主体は公的性質をもった主体でなければならないとされてきたのが、これまで通説であります。

しかし、今回政府会合において示された内容は、実はこれまで通説とされてきた刑法解釈は間違いであって、我が国においても要件次第では「民営賭博」の合法化が可能であるという判断が示されたこととなります。これは我が国の賭博行政においては、非常に大きなターニングポイントであると言えるでしょう。

では、これが今後どのように世の中に影響を与えてゆくのか?という事でありますが、実はパチンコ業界誌「PiDEA」の今年の4月号において既に関連する特集が組まれておりました。以下、PiDEA2017年4月号「風営法とパチンコ業法」の特集より抜粋。

インタビュー1 衆議院議員 緒方林太郎

私自身、特定の解決法を推奨するわけではないですのですが、一つの手法として、パチンコは賭博と定義して、カジノと同様、刑法の違法性阻却のための特別法を作ることもありだと思います。賭博の違法性阻却ですから、厳しい規制は受け入れざるを得ないが、その代わりに今のような先が見えない形で射幸心を下げられることを阻止するという方法です。

インタビュー2 弁護士 三堀清

そう考えていくと風営法の枠内では物足りなくなります。今後、メーカーへの規制や射幸性の問題、賞品買取問題、のめり込み対策などを総合的に規制していくには風営法から脱却し、新しい法律を組み立てなおした方がいいのではないでしょうか。[…]新しい法律をつくるのは決して難しい話ではありません。パチンコに関しては 「徹底的に規制を強化する」「グレーゾーンを許さない」という強い意志を示せば世論は歓迎するでしょうし、警察も反対できません。仮に新しい法体系になれば、ある程度コンプライアンス意識の高い企業にしか残れなくなるでしょう。

インタビュー3 弁護士 渡邊洋一郎

パチンコ業界が本気で今後の発展を目指すのであれば、実態に即した「パチンコ業法」を制定することが不可欠です。そうすれば、パチンコ遊技機の射幸性、遊技性については様々な顧客の要望に応えることが出来る多様な機種を作り出せる基準にすることが出来ます。ただし、射幸性に関してはのめり込みや経済的負担などに配慮し、基準を制定することが必要です。

「我が国の現行刑法は条件次第では民営賭博の合法化も否定していないのだ」という判断の先には、当然ながら上記のような「パチンコの賭博としての合法化論」が控えているわけでありまして、実はパチンコ業界の中の一角では着々とその為の議論醸成が行われているわけであります。

ちなみに、インタビュー1の緒方議員は、昨年末のIR推進法の国会審議の中で最も強く刑法賭博罪の阻却(無効化)事由に関して鋭く迫った民進党議員。インタビュー2の三堀弁護士は大手パチンコ業者によって組織される業界団体、パチンコチェーンストア協会の法律分野アドバイザー。そして、インタビュー3の渡邊弁護士は、これまた上記とは違うパチンコ系の業界団体である余暇環境整備推進協議会の理事であります。

実はこの種のパチンコ業法論というのは、昨年末に可決されたIR推進法の制定論の裏側で脈々と動いてきたものであり、何を隠そう今回「我が国で民営賭博の合法化は可能」と判断を示したIR推進会議にゲーミング法制の専門家として起用されている美原融氏(大阪商業大学教授)自身が、はるか昔から主張してきた内容であります。以下、2013年7月26日にフジサンケイビジネスアイに掲載された美原氏に対するインタビューより転載。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所 所長・美原融氏

日本は「遊び」を産業・文化として育てることができるのか

カジノ実現の動きに伴う遊技産業への影響だが、パチンコホールとカジノでは、訪れる客の志向が異なることから、客や市場の奪い合いなど直接的なマイナス効果はほぼ考えられない。しかしながら、制度的に比較されるという間接的問題が生じてくる。

つまり、3店方式などに関しては、司法上の判断ではなく、行政解釈に依拠する曖昧な部分に対し、これをクリアに説明できる理論や新たな制度の構築がこれまで以上に求められる状況も予測される。現在、パチンコホールの営業は風営法にもとづいて実現しているが、この点を考えれば、将来的にゲーミングの1つとして別の法律の枠組みに組み入れることも検討すべきだと思われる。それにより、国民の認識もシンプルになるし、ビジネスとして閉塞感が漂う現状の打破に向けても、別の展開が見えてくる可能性はある。

私自身は日本の賭博はあくまで公的主体のみが担うべきであり、民業はそれと峻別された扱いをなされるべきであるという上記の論とは全く別物のスタンスを取ってきた専門家であり度毎にこのような論議に牽制をかけ続けてきた立場の人間でありますが、実はこのような論議の流れというのははるか昔からカジノ合法化論議の背後に組み入れられてきたのが実態であります。

「我が国においても要件次第では民営賭博が合法化できる」

2017年7月は、我が国の賭博史において大きな転換が行われた瞬間であると言えるでしょう。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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