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依存症対策:公営競技業界がクズっぷりを発揮

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:REX FEATURES/アフロ)

現在、本コラム上では先に行った日本最初の入居型ギャンブル依存者支援施設「ワンデーポート」の中村施設長との対談の模様がシリーズ投稿として着々と更新されておりまして、こっちはこっちで佳境に至っているワケですが(参照)、ここでどうしても見過ごすに見過ごせない事案が発生したのでご紹介したいと思います。最初に申し上げておきますと、私、ムチャクチャ怒ってます。

IR推進法の成立に伴い、政府は現在ギャンブル依存対策の体制整備を急ピッチで進めており、先日26日には各賭博等の所管官庁、および厚労省、金融庁、消費者庁などの担当大臣による閣僚会議が行われました。またそれと並行して、各省庁の実務者級のトップ会合が行われたワケですが、そこで各公営競技を所管する省庁から提出された資料を見たところ、これがあまりにも酷い言い草なのです。

農水省提出資料:

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経産省提出資料:

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国交省提出資料:

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全省庁があたかも事前に相談をして話を合わせて来たかのように、そろって「お客様相談窓口において必要な対応を実施」などという資料を提出してきておるワケですが、公営競技業界は今回、政府が本格的なギャンブル等依存症の対応に着手することを決定するほんの数週間前まで「公営競技は適切な規制がなされており、大きく問題化するような依存は存在しない」というスタンスを明確にとっておりました。

それが、ここに至って急に「いやぁ、実は私達もお客様相談窓口において必要な対応を実施して来たんですよー(薄ら笑い」などという、資料を出してきやがったワケで、関係者一同がアゴが外れてしまうかと思うぐらい開いた口が塞がらないわけです。以下、私とギャンブル依存症問題を考える会の田中代表とのtwitter上でのやり取り。

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彼らが「実は我々も依存症対策をやってきていまして…」などといって揃いも揃って出しててきた「お客様相談窓口」ですが、例えば中央競馬の主催団体であるJRAが現在開設している窓口というのは以下のようなもの。ご覧を頂ければ判るとおり、15個も個別の専用窓口があるワケですが、どれ一つとして依存症相談をもちかける事ができるような窓口はないワケです。

JRA―お問い合わせ先一覧

http://www.jra.go.jp/faq/faq_info.html

  1. JRAテレホンサービス: 払戻金・開催情報に関するご案内
  2. PATサービスセンター: 電話・インターネット投票全般・操作方法等に関するお問い合わせ
  3. A-PAT受付センター: A-PATの新規お申し込み、即PAT・JRAダイレクトの登録方法ご案内
  4. JRAインフォメーションデスク: レース結果以外の中央競馬に関するご案内・お問い合わせ
  5. 馬事公苑 馬事公苑でのイベントに関するご案内・お問い合わせ: 「馬の博物館」根岸競馬記念公苑 「馬の博物館」根岸競馬記念公苑でのイベント・展示に関するご案内・お問い合わせ
  6. Gate J.: Gate J.でのイベントに関するご案内・お問い合わせ
  7. JRA競馬博物館: JRA競馬博物館での展示に関するご案内・お問い合わせ
  8. 競走馬のふるさと案内所: 牧場見学・名馬の繋養先などに関するお問い合わせ
  9. JRA競馬学校: 騎手・厩務員課程に関するご案内・お問い合わせ
  10. トレーニング・センター: 調教見学などに関するご案内・お問い合わせ
  11. 競走馬総合研究所: 常磐支所 「馬の温泉」見学に関するご案内・お問い合わせ
  12. JRA-VAN: 競馬情報システムに関するご案内・お問い合わせ
  13. グリーンチャンネル: グリーンチャンネルに関するご案内・お問い合わせ
  14. 指定席ネット予約お問い合わせデスク: 指定席予約サイトの操作方法に関するお問い合わせ
  15. JRAカード・サービスセンター: JRAカード、ポイントプログラムに関するご案内・お問い合わせ

農水省はこれら窓口を通じて「申出のあった本人や家族との面談や、要望があれば専門的診療を行っている病院の情報提供など必要な対応を実施」して来たというのならば、実際にどれだけの窓口相談があって、それにどのような対処をしてきたのかの情報を開示して頂ければと思います。

私自身は長らく賭博業界の研究者をやっていますけれどそういう事例は寡聞にして知りませんし、そもそも各公営競技の所管官庁による公式論議の中で「依存」というワードそのものが発された事例すら殆ど聞いたことがありません。何故ならば、これまでは「無かった」ことになって来たんですから。

ちなみに、別にこれをもって対策が十分であったなどという気はサラサラないですし、業界擁護をする気もないですが、この「相談窓口」という一点においては警察庁の所管するパチンコ業界では、10年ほど前から業界を上げて相談窓口の設定および、そのユーザーへの認知普及に努めてきたのは事実。公営競技業界の皆さんは「相談窓口を設置して対応をしてきた」などと主張をするのなら、せめてこの位はやってからモノを言って下さい。

以下は、今年冒頭のパチンコ業界団体での警察庁による行政講話からの引用。

パチンコ釘問題など、行政講話/警察庁保安課・小柳課長

http://www.yugi-nippon.com/?p=9069&page=2

リカバリーサポート・ネットワークでは、平成18年4月の設立以来、約1万8千件の相談に対応しているとのことであり、のめり込みに起因する問題の解決に向けた糸口となるべく、適切に精神保健福祉センターや相互援助グループ等を紹介するなど、有益な取組が継続して実施されていると認識しております。

また、昨年8月には、全国遊技機商業協同組合連合会において、リカバリーサポートネットワーク支援室を立ち上げ、相談業務の負担軽減に寄与していると聞いており、のめり込み問題への取組の重要性が業界の中でも浸透してきたとして、大変心強く感じております。

全日遊連におかれても、ホームページへの掲載や各組合員の店舗において、リカバリーサポート・ネットワークの広報ポスターを掲示する等の広報啓発活動を進めておりますが、引き続き、注意喚起・広報啓発の取組を継続するとともに、リカバリーサポート・ネットワークを始めとする団体への支援を拡大するなど、のめり込み問題に悩み苦しむ人々に十分な対応が行き届くよう、更なる取組に期待しております。

まぁ正直、ご当人達が一番「苦しい言い逃れ」であるのは判りながらあのような責任回避の資料を作成しているのでしょうが、民間側ではワンデーポートにしても、ギャンブル依存症問題を考える会にしても、リカバリーサポートネットワークにしても、自己で運営資金を必死にかき集めながら長らくギャンブル依存者支援をやってきている人達が沢山いる中で、あんな戯言を臆面もなく吐きますかね? 今回の公営競技業界の皆さんの行動は、言い訳にしてもあまりにも酷いとしか言いようが有りません。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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