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警察とパチンコ業界の癒着について

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

非常に遅いご報告となってしまいますが、先月「パチンコ72万台回収、業界の今」という記事を書いたところ、何を間違ってかYahoo!Japanのトップニュース扱いとなってしまいました。パチンコ業界は、普段、このような大きな報道に慣れておらず、また報道が為されたタイミングが業界にとって非常にセンシティブな時期であったのもありまして、業界は上へ下への大騒動。本記事がアップされた翌日には、朝から「業界関係者」を名乗る方々から弊社への凸電が相次ぎました。パチンコ業界の皆様におかれましては、正面玄関からの弊社への業務妨害に心より御礼を申し上げるところであります。

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一方、パチンコ業界以外の一般の方々の本ニュースへの反応を見てみると、その多くが警察庁の本件に対する非常に曖昧な裁定に対して批判的であり、「パチンコ業界は警察の天下り先だから、あのような甘い裁定となるのだ」といった意見が相次いでおりました。

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ただ、個人的に申し上げるのならば、実はパチンコ業界は警察庁にとってはそれほど大きな天下り先ではございません。奇しくもちょうど時を同じくして先月「週刊ダイヤモンド(2016/07/30日号)」に報じられた内容(左図)によりますと、警察庁の民間企業への業種別天下り人数は金融業が100人でダントツに大きく、2位に保険業(47人)、3位に旅客鉄道業(39人)と続きます。一方パチンコ業界への天下りは記載のある業種別ランキングのTop18にも入っていない状況。勿論「警察庁からパチンコ業界への天下りが全くない」とは言わないのですが(事実、業界団体の中に警察庁ポストはあるので)、相対的に見て天下りが少ない業種であるのは間違いありません。

では、なぜ今回、警察庁がパチンコ業界に対してこのような曖昧な裁定を行っているかというと…

という先の記事の後続となる解説記事を実は準備しておったワケですが、そのタイミングでオリンパス社の不正会計事件などをすっぱ抜いた事で知られる経済誌「FACTA」が以下のような警察庁とパチンコ業界のスクープを飛ばしまして、私の用意していた記事は台無しであります。以下、FACTAより転載。

パチスロ業界と警察のただならぬ「蜜月」

https://facta.co.jp/article/201608015.html

パチンコ・パチスロ業界と警察の「ただならぬ蜜月」はかねて取り沙汰されてきた。業界は、それを規制する警察のOBらを採用することで、少しでも射幸心の高い機種の認定を勝ち取ろうと画策。どの業界にもある癒着構造だ。本誌が取材を進める中で、業界トップの虜となった規制担当官の実態が浮かび上がってきた。6月に入って、パチンコ・パチスロ業界で数枚の写真が出回っている。男性2人が都内の居酒屋で密会するシーンだ。一人はパチスロの業界団体である、日本電動式遊技機工業協同組合(日電協)理事長の佐野慎一氏。パチスロメーカー「山佐」の代表取締役でもある。山佐は、かつてのパチスロトップメーカーで、「バイオハザード」「ウルトラマン・ザ・スロット」などのヒット作を持つ。もう一人は、同業界を管轄・指導している警察庁において、3月末まで規制行政を担当していた生活安全局保安課のS氏 …

報道の詳細はFACTA本誌をご覧いただければと思うワケですが、概要だけ掻い摘んでご紹介すると先のエントリで私もご紹介した一連の不正パチンコ機蔓延の結果、警察庁側が新たに業界に向けて設置するようにと「実質的な」行政指導を行っている不正防止機能が、実はパチスロ大手メーカーである山佐社にコッソリと特許が抑えられており、その警察庁による行政指導の「ど真ん中」に今年3月まで居た警察庁生安局の課長補佐がその山佐の代表取締役である佐野慎一氏と密会を繰り返しているとする記事であります。当該記事によると、この特許の使用によって山佐側には数億円のパテント料が入るだろうとされており、ナントモ平らかな話ではありません。

この報道は業界内はおろか、現在警察庁の内部で大混乱を引き起こしており、佐野氏と密会を行っていたとされるS氏、ここではリアリティを持たせる為に仮に斉藤康裕・前課長補佐と呼びますが、その斉藤・前課長補佐(仮称)がこの4月に出向の決まったばかりの内閣官房から異例の3か月での差し戻しを受けており、現在、警察庁内で本件に関する査問が行われているとのこと。同様に本スクープ報道のもう一人の主役である佐野氏も業界団体は元より警察庁にも呼び出しを受け、本件に関する申し開きの真っ最中であるとの事であります。私のところに入っている情報によりますと、佐野氏および斉藤康裕・前課長補佐(仮称)は

・関連する特許を山佐が保有しているのは事実だが、本特許は開放特許(誰でも自由に使用して良い特許技術)として設定するつもりであった

・斉藤康裕・前課長補佐(仮称)と佐野氏は報道された日に初めて面会をしたものであり、以前からの付き合いはない

・当日の会場となった飯田橋の海鮮居酒屋での飲食代(7000円弱)すらも割り勘にしており、両者に間に利害関係はない

などという様な申し開きを行っている模様。個人的には、佐野さん超金持ちのクセに何で個室も使わずにその辺の安居酒屋使ってんだよ…、とツッコまざるを得ない状況であります。

一方、実は業界の極一部では同居酒屋会合での会話を起こしたものとされる、どう考えても当該スクープをFACTAにタレこんだ人物が出所としか思えない怪しげな文書が出回っておりまして、その文書がホンモノだとするのならば、現在、佐野氏と斉藤康裕・前課長補佐(仮称)が行っている申し開きとはかなり大きいズレが生じる内容も含まれているのが実情です。

【参考】現在、業界の極一部で出回っている資料

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私がざっと内容を見たところ、文書内に出て来る固有名詞は実在の人物ばかりですし、そこに描かれている人物像も基本的に間違っていない。また、上記の他に添付資料として持ち込まれている未公開の資料も含めて考えると、これらが「全くの事実無根」(by 鳥越俊太郎)とも言えなそうだな、とは思っておるところ。一方で、通常この種の文書を「黒塗り」にする場合には固有名詞が真っ先に消される事が多いワケですが、本資料に関しては寧ろ固有名詞は全力で開示しているにも関わらず、特定の会話内容のみをゴッソリと削除していたり、そうかと思えばそんなとこ隠してどうすんの?と思われる箇所が消されていたりと、黒の入れ方に非常に大きな違和感がある。即ち、特定の会話内容を「切り取る」事で特定の方向に向かって印象操作しようとしているのでは?と思われる部分もあり、まぁ正直、全部が全部真実とは思えないなぁという印象も同時に持っておるところです。

ただ、繰り返しになりますが本文書が100%創作であるとは様々な付随する状況証拠からは思えず、また佐野氏と斉藤康裕・前課長補佐(仮称)が行っている申し開き内容との間に「隔たり」があるのは事実でありますので、文春に過去の淫行疑惑をすっぱ抜かれた鳥越俊太郎氏と同様に、その内容が間違っているのなら間違っているでどこが事実と相違しているのかに関して改めて申し開きを行って頂きたいと思う所です。

ということで、本稿の結論としては警察庁のパチンコ業界への天下りは相対的に多いものではない事は数字として実証されている一方で、個別企業との間の癒着に関しては諸々の噂は絶えません、ということとなります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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