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カジノ議連は「五輪までに開業」の旗を早く降ろせ

木曽崇国際カジノ研究所・所長

我が国の統合型リゾートの導入に関して「五輪まで開業」なんてもはや実務上不可能だし、IR誘致の本丸はアフターオリンピックの振興策なのだという話は、私はずっと主張してきたワケですが、やっと国政の主たる立場を占める方々にまで浸透してきたようです。以下、読売新聞からの転載。

カジノ誘致先「大阪が有力」…沖縄・北方相

http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150330-OYT1T50018.html

山口氏は、法案について「与党内の調整が難しく、今国会で審議することは断念した。(東京)五輪までに(開業)ということはあり得ない」との見通しを述べた。その上で「五輪後は国の経済が落ち込む。その後の対策として中長期的に考えようということ」とし、五輪後の景気浮揚策としてIR誘致を位置づけているとした。

そもそも実務側から本件を見ている私の立場としては、東京のオリンピック誘致が決定した直後から急に出てきた「2020年までに開業」論に対して、それを実現するためにはどんなに遅くとも2014年の春国会までにIR推進法を成立させなければ無理というのはずっと主張してきたところ。

それに加えて、そもそも統合型リゾートの実現が最も政策的に重要になるのは、五輪の後に訪れる経済のダウンタイムの振興策としてなのだという事は、私が連載させて頂いている日経ビジネス側のコラムにも、東京五輪が決定した直後である2013年9月の時点で書かせて頂いていた事であります。

日経ビジネスオンライン「マジメに考える夜の経済成長戦略」(2013年9月)

カジノが東京五輪にできること ―税金を投入せず公共インフラを整備する方法がある

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130909/253150/

ところが、「五輪までに」という御旗がどうしても欲しい一部の議員と、実務サイドが全く見えていない一部の御用学者とが結託をして、「五輪までIR開業」論がその後も延々と論じられてきたのが実情です。昨年、6月に衆議院行われたIR推進法案の委員会審議においても、「オリンピックまでに」と主張する議員が質疑に立ちました。また昨年10月に行われたIR議連の総会に至っては「(IRの開業が)2020年の東京オリンピック・パラリンピックに間に合うよう、最大限努力すべき」などという議連の公式文書が総会決議され、それらが政治的目標として掲げられてきたというのが実情です。

一方で、「政治は超現実主義でなければならない」と考える私としては、このような「実現不可能な夢物語」をいつまでも掲げていること自体が、ハッキリって害悪にしかならないという事は幾度となく申し上げてきたところ。これに関しても、過去の日経ビジネス側のコラムで書きましたね。

日経ビジネスオンライン「マジメに考える夜の経済成長戦略」(2014年11月)

2閣僚辞任で漂流するカジノ法案 ―2020年開業という「達成不可能」な目標

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141105/273446/

そして、ここに来ていよいよ安倍政権の閣僚の口から「東京五輪までに開業ということはあり得ない」、「五輪後は国の経済が落ち込む。その後の対策として中長期的に考えよう」というメッセージが明確に出てきてしまったワケですが、昨年10月の時点で「五輪まで開業」を公式文書にまで入れて掲げてしまったIR議連の皆さんは、一体、どのようにリアクションをするつもりなんでしょうか。奇しくも本日の夕刻から、今年初めてのIR議連の総会が執り行われるワケですが、彼らの今後の動向に注目が集まります。

っていうか、何度でもしつこく繰り返しますが、五輪まで開業なんて、既にとうの昔に有り得ない話になっているのですから、さっさとその旗は降ろした方が賢明ですよ。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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