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都知事選における完全にズレたオリンピック論を整理する

木曽崇国際カジノ研究所・所長

都知事選が始まりましたね。ただ、何やら様相がオカしくなっているのが、「原発か/反原発か」にあまりにも注目が集まってしまい、それが唯一の争点かのように語られる向きがあるところ。東京都は電力需給においてはあくまで需要サイドを担う「消費者」の立場であって、原発立地自治体ではありません。原発政策において東京都が持っている権限は非常に限定的なのであって(東電の株主であるなどと言われますが、持ち株比率はたったの1%強です)、この政策分野でメインの論点となるべきは、むしろ大消費地・「東京」としての都市政策のあり方です。供給サイドの政策に過剰に焦点を当てても意味がない事だけは明言しておきましょう。

さて、どうしても原発政策に焦点が偏ってしまいがちな中で、次なる都知事選の争点として挙げられるのがオリンピックに関連する政策ではないでしょうか。ただ、ここに関しても非常にズレた主張をしている方々がいらっしゃるので、ここでキッチリと整理しておきたいと思います。2020年に東京招致が決定したオリンピックですが、皆様もご認識の通り昨年の9月に各都市による国際入札、および計画評価を経た上で決定がなされたものなのであって、その開催の「基本設計図」と呼べる部分はすでに確定しています。本都知事選の候補者の中には、この既に決定している大会の基本コンセプトの変更はおろか、人によっては競技開催の一部をこれからさらに東北へと移動させるかの如き発言をしている人が居ますが、それらは重大な契約違反であり、そんな事は出来ません。すでに決定している実施計画は以下のリンク先から読めます。

【参照】開催計画概要 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会計画

http://tokyo2020.jp/jp/plan/outline/

このように既に決定してている開催計画において、正直、政策的な論争が出来る余地というのはそれほど多くはない。本都知事選でオリンピック開催そのものに関して各候補者評価をするのだとすれば、上のリンク先で示したプランに則って、いかにスムーズかつ混乱なく開催に向けた計画を遂行してゆけるのかという各候補の「実務者」としての能力であります。我々都民は、その前提で候補者の評価を行なわなければなりません。

一方、オリンピックに関連して各候補者が政策的に論争をしなければならない分野が、「アフター・オリンピック」への対応です。東京では、2020年のオリンピック開催までのおよそ6年の間に、様々なインフラ整備が行なわれることになります。東京都は、昨年行なわれた入札においてオリンピックに向けた約4000億円の拠出をすでに約束していますし、国側は国側で開催の土台となる様々な社会インフラ整備をしなければならないでしょう。それらに伴った民間投資分までを含めれば、間違いなく兆単位の投資がこの2,188km2の限られたエリアに投下されることとなります。

しかし、オリンピックが如何に影響の大きな国際イベントであるとはいえ、パラリンピックの開催期間まで含めても、およそ2ヶ月程度しか存続しない期間限定のイベントです。「瞬間最大風速」で大会期間中1000万人といわれる訪問客を受け入れるために拡充した各種インフラは、「アフター・オリンピック」の明確な指針がない限り、2020年の夏以降は確実に都民の「重荷」へと転換します。この「アフター・オリンピック」への対応は、北京、ロンドンも含めて全ての五輪開催都市が直面する課題であって、この対応を間違えると過剰インフラ投資による景気のダウンタイムに突入する。逆にいえば、オリンピック開催を次なる東京の発展と繋げるために、どのような「2020年以降の東京像」を描くのか。これこそが次の都知事に求められる、大きな政策上の論点なのですね。

我々有権者は、そういった観点から各候補者の評価をしなければなりませんし、ぜひ各候補者の皆様には明確なアフターオリンピック像を示して頂きたいと思うところです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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