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マックス・ヒサタケ:多様なバックグラウンドから生まれた高い身体能力とフィジカルの強さ

青木崇Basketball Writer
ヒサタケ 写真:B.LEAGUE

練習生で渋谷に入団も意外と早くやってきたチャンス

 マックス・ヒサタケの名前を初めて見たのは、サンロッカーズ渋谷に入る前のシーズンオフ。イリノイ・テック大時代のスタッツと映像を見た直後には、高い身体能力とフィジカルの強さがあるという印象を持った。

 渋谷には練習生として入団したが、今季の開幕戦でライアン・ケリーが故障するという事態により、10月9日の秋田ノーザンハピネッツ戦でB1デビューを果たす。その後は試合を重ねるごとに出場機会も増え、初先発となった11月14日の広島ドラゴンフライズ戦は31分間で12点、10リバウンドのダブルダブルを達成した。NCAAディビジョンⅢの大学出身ながら、ヒサタケはB1でプレーできることに誇りを持っている。

「正直言って信じられませんが、こうなることはわかっていました。可能だとは思っていましたが、これほど早く実現したことは信じられません。プロ1年目にして、世界で最も尊敬されているリーグの一つであるトップリーグでプレーできることは、本当にただただ素晴らしく、今はこのことに感謝の気持ちでいっぱいです」

 ヒサタケという名字は、母方の曾祖父から引き継がれているもの。自身のルーツについては、次のように説明する。

「母は日本人、サモア人、ドイツ人、アイルランド人のクォーターで、父は黒人とスペイン人のハーフです。だから、私は非常に多様な文化的背景を持っています。これらの素晴らしい文化が自分の中にあることは、とても幸せなことです。母の名字は“久武”、つまり“永遠のサムライ”という意味で、とても素晴らしいと思っています。この名前は、私の曾祖父と日本で育った家族がサモアに移住して以来、私たちの家族に受け継がれているんです。その後サモアからアメリカへと移住し、私はそこで生まれたのです」

 そんな多様性のあるバックグラウンドを持つことが、ヒサタケの高い身体能力と強いフィジカルの源と言っていい。

「私は日本人であり、黒人であり、サモア人でもあります。サモアはフィジーやトンガ、カーニバル・オーストラリアの近くにあるポリネシアの島々で、強さに定評があります。そして黒人の遺伝子はジャンプ力に優れ、日本人の遺伝子は瞬発力に優れています。だから、私はその3つのすベてを持っています」

 ヒサタケはネバダ州ラスベガスにあるザ・メドーズ・スクールに通った高校時代、バスケットボールだけでなくフットボールの選手としても活躍していた。ミドルラインバッカーでプレーし、2016年には州のディビジョンⅢでディフェンスの年間最優秀選手に選出された実績もある。しかし、高校の最終学年を迎える前の夏に、自身の身体を変えたいという強い思いと、健康を最優先したいという理由でバスケットボールに専念する決意をしたのだ。

「自分の体重に納得がいかなかったから、激しいダイエットをしました。もっと健康的な体になりたくて、体型をガラッと変えたのです。4年生(日本でいう高校3年)の夏には、運動神経も抜群になり、そのシーズンのバスケットボールで圧倒的なパフォーマンスを見せるようになっていました。その頃、ちょうど叔父が慢性外傷性脳症(CTE)の問題を抱えていたんです。スポーツのために心を病むようなことはしたくない。バスケットボールは正面衝突が少ないので、より安全です。そこで、母と話し合い、フットボールよりもバスケットボールに専念することにしました」

殿堂入りしているNFLのレジェンドが親戚

 ヒサタケが話した叔父とは、NFLのサンディエゴ・チャージャーズ、マイアミ・ドルフィンズ、ニューイングランド・ペイトリオッツでプレーしたジュニア・セアウ。20年間のキャリアで12回のプロボウル(オールスターゲーム)に選出されるなど、NFLで多くの実績を残した選手である。ヒサタケがミドルラインバッカーでプレーしていたのは、偉大な叔父が存在していたことが大きい。

マイアミ・ドルフィンズ時代のジュニア・セアウ
マイアミ・ドルフィンズ時代のジュニア・セアウ写真:ロイター/アフロ

 しかし、ヘルメットなどの防具をつけてプレーしても、フットボールは激しいぶつかり合いから頭部へのケガが多いスポーツ。セアウは何度も脳震盪になりながらも、そこから復活してプレーし続けたと言われている選手だった。現役を引退してから3年が経過した2012年5月、セアウは自宅で自らの命を絶ち、43歳の若さでこの世を去ってしまう。ヒサタケがNFL選手になりたいという夢を持っていたのは、セアウの存在が大きく影響していた。と同時に、CTEを患った叔父の死が、フットボールを辞めてバスケットボールに専念するという決断に至ったのは明らかだった。

 とはいえ、フットボールをプレーするために必要なメンタリティは、バスケットボールでも役に立っているという。

「僕がアメフトで一番好きなのは、とにかく自由にプレーできることなんだ。ボールがスナップされると、子供みたいに走り回って、タックルしたり、人にぶつかったり、ボールをキャッチして走るんだ。フィジカルなフットボールにはペナルティがないし、激しくぶつかることが報酬になるんだ。それが僕の好きなことだし、僕の血の中にあるものだと思う。サモアの人たちは身体能力が高いし、それは僕の血筋でもあると思う。その身体能力の高さは、動物的な特徴というか、サバイバル精神というか、バスケットボールでの僕のプレースタイルにそのまま受け継がれているんだ」

ディビジョンⅢの舞台でB1チームに所属する日本人選手と2度対戦

 イリノイ・テック大での4年間、ヒサタケは所属カンファレンスで2年連続でディフェンスの年間最優秀選手、2019−20シーズンには平均15.6点、13.9リバウンド、2.2ブロックショットの数字を残してファーストチーム(ベスト5)に選出。NCAAディビジョンⅢの注目度は低いかもしれないが、平均リバウンドが全米で4位にランクされた。

 イリノイ・テック大の4年間で実績を残したことで、渋谷のテクニカル・アドバイザーを務めるデイビッド・ナースの下でワークアウトをする機会をもらい、日本でプロ生活を送ることになったヒサタケ。本人は筆者から聞かされるまで気付かなかったが、大学時代に日本人選手と2度対戦したことがある。

 その選手とは、今季から大阪エヴェッサに在籍している青木龍史だ。イリノイ・テック大と同じNCAAディビジョンⅢのローズ・ハルマン大でプレーしていた青木は、医療機器の開発やIPS細胞も関連しているBiomedical Engineering(生体医工学)を専攻し、3年間で卒業して学業もスポーツも優秀な学生に贈られるアカデミック・オールアメリカンに選ばれた選手。ヒサタケのイリノイ・テック大と青木のローズ・ハルマン大は、2016年と2017年にお互いのホームで1試合ずつ対戦した過去があった。

 結果はイリノイ・テック大の2勝。2016年の対戦ではヒサタケが10点、9リバウンド、7ブロックを記録し、青木もベンチスタートながら20分で17点と活躍していた。「対戦した時は、とにかく運動神経抜群だったのを覚えてます。速攻でポスターダンクをしていました」と振り返る青木は、ローズ・ハルマン大への入学を決断する前にイリノイ・テック大からリクルートされ、ワークアウトに参加したことがあった。

 そのことについて聞かれたヒサタケは、「以前思っていたよりも、彼のことを知っているような気がします。2016年夏のある日、コーチが“この選手は本当に欲しい、彼は本当に良い選手だ”と言ってくれていたんだ。確かじゃないけど、夏のオープンジムに来たと思うし、彼とプレーしたかもしれない」と話す。青木は大学生とワークアウトしたと話しているものの、その時にヒサタケがいたかは覚えていないという。そんな縁のある2人は、4月16日と17日におおきにアリーナ舞洲で行われる渋谷対大阪戦で顔を合わせることになる。

ショットブロッカーとして存在感抜群だったヒサタケ 写真:Rose-Hulman Men's Basketball
ショットブロッカーとして存在感抜群だったヒサタケ 写真:Rose-Hulman Men's Basketball

青木龍史は2016年12月22日のイリノイ・テック戦で17点と活躍 写真:Rose-Hulman Men's Basketball
青木龍史は2016年12月22日のイリノイ・テック戦で17点と活躍 写真:Rose-Hulman Men's Basketball

元NBA選手のチームメイトから学びながらレベルアップに貪欲

 恵まれた身体能力が大きな魅力のヒサタケだが、プロのバスケットボール選手としてはまだまだ荒削りと言っていい。自身もバスケットボールIQ、フローター、3Pショットの向上と、ファウルの数を減らすことを課題と認識している。

 しかし、渋谷にはケリー、ジョシュ・ハレルソン、ジェームズ・マイケル・マカドゥという元NBA選手が3人もいる。出身校もデューク大、ケンタッキー大、ノースカロライナ大というNCAAトップレベルの名門。そんな彼らと一緒に時間を過ごし、コート上で一緒にプレーできることは、NCAAディビジョンⅢ出身のヒサタケにとってすごく貴重だと理解している。

「3人とも私にとって素晴らしいチームメイトでありリーダーです。私が好きなことの1つは、彼らが話してくれるストーリーです。私たちはストーリーを通して学ぶので、人間の経験から来るストーリーは非常にパワフルだと思います。なぜなら、我々の関係において、知識から得る賢さや成長は、ストーリーから構築されるからです」

今後のレベルアップが楽しみなヒサタケ 写真:B.LEAGUE
今後のレベルアップが楽しみなヒサタケ 写真:B.LEAGUE

 渋谷がフルコートでアグレッシブにディフェンスし、アップテンポな試合を好むことからすれば、ヒサタケの高い身体能力とフィジカルの強さはチームにとって大きな魅力。チームに活力をもたらすエナジー全開のプレーは、渋谷がチャンピオンシップ進出争いで生き残るためのカギとなるに違いない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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