Yahoo!ニュース

群馬クレインサンダーズに勢いを与える存在として、B2プレーオフのカギを握る野﨑零也

青木崇Basketball Writer
減量するプロセスでプロ意識がより高まった野﨑 (C)Takashi Aoki

 “前人未到”をスローガンに掲げ、52勝5敗という成績でB2を席巻してきた今季の群馬クレインサンダーズ。B1昇格に向けた新たな戦いとなるB2プレーオフは、山形ワイヴァンズとのクォーターファイナルから始まる。

 千葉ジェッツ時代にファイナルを経験しているマイケル・パーカーを筆頭に、今季の群馬はB1経験者を数多く揃えるチームだ。しかし、プレーオフでカギを握る存在をあげるならば、白鴎大時代からファイティングイーグルス名古屋の特別指定選手としてB2を経験し、プロとしては今季が3年目という野﨑零也の名前をあげたい。

 野﨑のプレーを初めて生で見たのは、群馬に加入した昨季のゲーム。フィジカルの強さを生かしてのドライブは、B2の日本人選手だと止めるのに苦労するだろうと認識。バックグラウンドを調べてみると、佐賀東高の3年時に出場した2013年のウィンターカップでは、1回戦の佐久長聖高戦で30点、15リバウンドを記録し、勝利の原動力になっていた。当時のプレースタイルに聞いてみると、現在とあまり変わっていないと野﨑は語る。

「高校のとき4番(パワーフォワードの)ポジションをやっていました。チームとして身長が低かったので、そういう部分では体の強さを生かしてやっていたのはあります。4番でも外のプレーをやっていましたので、今とあまり変わらないスタイルだったと思います。ドライブとフィジカルの強さは高校時代の賜物ですね」

 群馬での2シーズン、野﨑はローテーション選手として一貫した出場機会を得ている。しかし、昨季序盤は故障と100kgを超えるという体重増がネックとなり、ローテーションから外される時期を経験した。

 試合に出られない状況が続けば、プロ選手としての価値を失い、戦力外が現実味を帯びてくるもの。野﨑は改めて“プロ選手”としての意識をしっかり持つ必要性を感じ、炭水化物と糖質を極力摂らない食事で約20kgの減量に成功する。

「ケガが少なくなったことです。今までケガの治りが遅かったので…。あとは動きにキレが戻ったりとか、疲れにくくなったというのは感じますね。やはり、名古屋にいたころはまだまだ足りなかったのかなというのがあって、群馬に来てからプロ意識を持つことを心がけました。結構自分に対してストイックになったと思います」

 減量の効果をこう話した野﨑は、茨城ロボッツとの開幕戦で15点、翌日の2戦目でも12点を記録して勝利に大きく貢献。武器のドライブにキレが増したのは明らかだった一方で、持ち味であるフィジカルの強さも失われていなかった。出場時間が昨季より3分弱少なくなったものの、2ケタ得点を17回記録するなど、今季のアベレージは7点、2.2リバウンド、2.2アシスト。リバウンドとアシストについては、昨季を上回る自己最多の数字を残した。

 今季からチームメイトとなったパーカーは、野﨑の成長について次のように話す。

「彼のペネトレイトは速攻から来ている。最初は一気に行くという感じじゃなかったけど、レイアップに行けるなら行けとアドバイスしたんだ。それから彼はそのことを認識してリングにアタックすることが増え、ヘルプが来ればいいアシストをするようになった。速攻でいい判断ができるようになったし、ハーフコート・オフェンスでもゴールにアタックできるし、ディフェンスがヘルプに来てもビッグマンの上からショットを打つのではなく、キックアウトもできる。だから彼はいい選手なんだ。ドライブしたときに悪い判断をすることが少なくなったけど、以前はそうじゃなかった。我々は今、彼に対してすごく自信を持っているし、彼もそうだと思う。彼は素晴らしいシーズンを過ごしている」

 チームの司令塔である笠井康平も、パーカーと同様の印象を持っている。

「コロナで2週間(活動)できなかった時期が明けてからは、ハーフコートでもピックの使い方が勢いだけじゃなく、状況を見て判断できるようになってきていると思う。オールコートであれだけの突破力、アタック力があるうえで、ハーフコートでもピックが使えるようになってきているので、ポイントガードとしてコールする側としてはすごくいい材料というか、オプションとしていいなという感覚になっています」

 群馬にとって悲願のB1昇格まであと4勝。ホームゲームを35戦全勝でB2を制覇することは、“前人未到”のスローガンにマッチする偉業となる。だが、プレーオフは8チームが頂点を目指した新たな戦いであり、攻防両面で激しさを増す。それでも、「レギュラーシーズンとまったく別物だと思うんですけど、僕らがやってきたことをプレーオフでも出せれば全勝できると思います」と話すように、今の野﨑は揺らぎない自信を持っている。

 トレイ・ジョーンズのオールラウンドなプレー、ブライアン・クウェリとジャスティン・キーナンのインサイドゲームは、群馬にとって大きな武器だ。しかし、プレーオフではテンポの遅いハーフコートの展開に終始する場合が多い。日本人選手による個の打開力を必要とした時、野﨑は肝心な局面で違いをもたらす可能性を秘めている。「アグレッシブに攻め、ディフェンスを崩し、勢いを与えてくれる存在」という平岡富士貴コーチの言葉は、正に野﨑に対する自信と信頼、注目に値する選手の証と言っていい。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事