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Bリーグの大河正明チェアマン辞任。その理由と野宮拓弁護士が説明した後任選考のプロセスとは?

青木崇Basketball Writer
大河チェアマンはBリーグの新時代を見据えて辞任を決断 写真提供:B.LEAGUE

 Bリーグは5月26日夕方、大河正明チェアマンの去就に関する記者会見を開催。一部報道にあった通り、6月いっぱいでチェアマンを辞任し、千葉ジェッツふなばしの島田慎二代表取締役会長が後任になることが明らかになった。辞任の理由や後任の選考に関するプロセスの説明に関する報道は、文字スペースや時間の問題で詳細までカバーできていないのが現状。ここでは大河チェアマンと選考プロセスで重要な役割を担った野宮拓弁護士が、メディアとの質疑応答前に話した内容をすべて記すことにした。

大河正明チェアマン

「2015年4月くらいにバスケットボールの仕事に携わるようになりました。以来5年と少し経過したわけですが、元々その前もJリーグにおりました。スポーツ界を長く見てきた私の思いとして、長期政権というのはやはり権力が集中したり、忖度が働いたりすることで、ガバナンスの欠如があってはならない。そんなことを強く思いながらバスケットボール界に飛び込んで参りました。そういったところはスポーツ界が未成熟な部分だと考え、それをいつも頭において常に全力疾走してきた、そんな経緯があります。

 クラブの社長について言いますと、地域への名物社長になることを目指すべきだと思いますし、そのことがクラブの発展につながります。一方で、Bリーグのチェアマンの仕事はと言うと、クラブから仕事の付託を受けてリーグの仕組み作り、さらにはリーグの発展に貢献するものということですので、クラブの社長とは仕事が異なるものかなという風に考えています。まあ言うならば、サラリーマン会社の社長というようなのに似ているのかなと考えています。

 昨年7月にBリーグの中期計画というのを発表しました。そして、Beyond 2020というタイトルで、2020年以降がフェーズ2、そこまではフェーズ1ということで、いよいよ本来オリンピックが開催される今年、フェーズ1が終わるんだなという風なことを強く意識するようになりました。次世代構想ということで、2026年に新しいBリーグの形を示させていただいたわけですけども、チェアマンの任期の上限が元々ございますので、いずれにしても2026年に自分自身は不在であります。

 それであれば、むしろフェーズ2として始まるBeyond 2020を次の新しい人、若い人に準備段階から引き継ぎをしていくほうが適切なんだろうなという風に強く考えました。次期のスポンサー契約とまだ一つ大きな仕事が残っていたので、私のほうはBリーグのチェアマンを4シーズン目、続けさせていただきましたが、スポンサー契約のほうも大体見えて参りました。したがって、フェーズ2を迎える2020年にスムーズなトップの交代を図ることこそが、今大事な局面であるという風に判断するということになりました。

 それでは、後任をどうやって選考していくのか? ということになります。辞めると同時に後任の指名を私が個別に指名人事をしていくということは、これこそスポーツ界のガバナンス改革に反するものじゃないかなという思いが強かったものですから、組織の活性化ということも含めて、前任者が口出しするというのは回避したいという思いでありました。今回は定時の改選期ではありませんので、役員候補者選考委員会というものを立ち上げる必要はありません。実は3月の初めに選考委員長である野宮先生と相談の上、後任候補者推薦の意見を中立的立場からもらいたい、そんな風に考えました。そして、ワーキング・グループの立ち上げを依頼したという経緯にあります。当然先生お一人というわけではなく、バスケット界側の事情に通じている委員2名、浜武(恭生)専務執行役員、そして鶴(宏明)特任理事にも入ってもらい、グループに参加していただきました。ワーキング・グループでの議論の内容、その結果というところに関しましては、後ほど野宮先生のほうからご報告をいただきたいと思いますが、島田慎二さんが推薦されてきたことに関して私自身も十分納得し、候補者として今日の理事会に推薦をしたということであります。

 ただし、後任の選考に関しては一切口出しせず、関与せずということであったことはご理解をいただけたらありがたいと思います。1点だけ選考に当たってお願いしたのは、せっかく2026年にかけて中期計画というものを作ったわけですから、昨今のコロナの状況によりいろいろな事情の変更はある可能性もありますけれども、そういった路線をしっかり継承していただける人ということで、選考をお願いいたしました。今後についてですが、6月末をもって辞任いたしますけれども、新しいチェアマンである島田さんが選ばれるという前提ですけど、会員であるクラブからの要請があれば、何らかの形でリーグの経営サポートを1年程度を目処に喜んでさせていただく、そんな気持でおります。

 最後に、コロナ問題があります。簡単には終息しないという風に思われます。第2波、第3波と巷では言われております。そんな中でもし仮に、来シーズン1試合もリーグ戦が行われない、こういった最悪の事態になった時にもクラブに配分金を支払いつつ、リーグがしっかり1年間生き延びるだけの資金調達をリーグ自身が行う、こちらについても一定の目処が立ちました。さらに、クラブ自身も私たちがしっかりとコミュニケーションをとり、長期の安定した資金の借入などを行い、本当の最悪の事態においても、1チームも潰れることなく、そしてリーグも存続をし、1年間を過ごせる、こんな資金調達の手段も脈略目処が立ったことも踏まえて、今回辞任をすることとした次第であります。

 皆さまには突然のお話で本当にメディアの皆さまに助けていただいた5年間ではありましたけども、若い島田さんにバトタッチすることによって、さらにBリーグが発展するものと確信しております。今後ともぜひBリーグのほうをご支援お願いしたいと思います」

野宮拓弁護士(プロセスについて)

「Bリーグの法務委員長をしております、弁護士の野宮でございます。私がワーキング・グループの座長として大河チェアマンから依頼を受けて、代表理事CEO、チェアマンの公認候補について検討し、答申しましたので、内容についてご説明いたします。

 そもそも大河チェアマンが私に声をかけたというのは、昨年の改選期に当たって立ち上げた役員候補者選考委員会の委員長を務めていたからだという風に認識しております。私、弁護士ですけども、所属事務所がコーポレート・ガバナンスに強い事務所ということでして、一般企業の指名報酬委員会の実務にも精通しているものですから、そういった役割を仰せつかっておりました。

 そういった中で今回、大河チェアマンから公平性・透明性を確保して後任を選んでほしいということを仰せつかりました。ワーキング・グループは大河チェアマンに後任候補者を答申するまで、6回開催しております。その後のフォローアップを含めますと9回開催いたしました。

 ワーキング・グループのプロセスですけども、先ほど大河チェアマンからご説明がありました通り、通常の改選期であれば役員候補者委員会というものを規定に基づいて立ち上げて選ぶことになります。ただ、今回は大河チェアマンが任期途中の辞任ということですので、その規定の適用はございません。

 また、現実に照らしても辞任表明してから選考委員会を立ち上げて選考に入るというプロセスは、辞任表明から次期候補者決定までに間があくことから、その間の情報コントロールの難しさ、リーグ内外において動揺が走って、リーグの業務運営が不安定になる可能性などに鑑みると、任意に役員選考委員会を立ち上げるということは取り得ないという風に判断いたしました。

 そこでいわばミニ選考委員会として、昨年の候補者選考委員会委員長であった私を座長として、先ほど紹介がありました鶴特任理事、浜武専務執行役員といったバスケットボール業界について精通していらっしゃる方々をメンバーとしたワーキング・グループを立ち上げて、それで公認候補者を検討して大河チェアマンに答申し、大河チェアマンもその答申を受けて納得される場合には、チェアマンの辞任表明と後任候補者をセットで理事会に附議するという形を取るのが、ベストであるという風に判断いたしました。

 プロセスは以上の通りですけども、具体的にどういった内容を検討したのかということについてご説明申し上げます。

 ワーキング・グループにおいては、まず昨年の選考委員会で議論されたチェアマンの機体要件を確認し、今回任期途中でのチェアマンの引き継ぎとなることから、基本的にはそれを踏襲することが望ましいという風に判断いたしました。チェアマンの期待要件は大きく3つございました。

・ビジョナリーリーダーであること

・戦略的リーダー、構造改革推進者であること

・ナショナル・クライアントに向き合える経営者であること

 この3つです。

 Bリーグは順調に立ち上がっておりますけども、まだまだ事業規模を大きくしていく必要があるという風に認識しておりまして、ワーキング・グループは当初、この3つ目のナショナル・クライアントに向き合える経営者である点を重視しました。その観点からワーキング・グループは、エクゼクティブサーチ会社に打診をして、Bリーグに興味・関心があると思われる実績のある上場企業の経営者を模索し、数名の候補者を得ております。

 しかし、その後新型コロナウイルスの影響が想定以上に大きくなり、リーグ戦の中止を余儀なくされるなど環境が劇的に変わりました。こういった状況においては、バスケットボールの競技運営のレギュレーションも大きく変更する必要があり、バスケットボールのレギュレーションに精通していない外部経営者を選択肢とすることは難しいと考え、その時点でワーキング・グループは方向性を転換することといたしました。

 その中で候補者として浮上したのが島田慎二さんです。

 ご存知の通り、島田さんはbjリーグにおいて経営難に陥っていた千葉ジェッツの運営会社の社長に就任すると、経営を劇的に改善させ、Bリーグにおいてもリーグ有数のクラブに育て上げており、その経営手腕、実績は申し分がないと言えます。さらに島田さんは、実行委員会、実行委員幹事会に参加するだけではなく、Bリーグ理事、副理事長として理事会に参加したご経験もあり、リーグの経営についてもある程度精通していると言えます。以上からすれば、島田さんはチェアマン期待要件の3つを充足していると考えられます。

 他方でチェアマン期待要件を充足していたとしても、これまで大河チェアマンが進めてきたリーグの方向性・ビジョンとまったく異なるということでは、リーグ経営の継続性、連続性の観点から問題が生じえます。そこでワーキング・グループは島田さんに対してヒアリングを実施いたしましたところ、大河チェアマンが掲げておられた5つの点、ソフト・ハードのソフト・ハードの一体経営、デジタル・マーケティングの推進、メディア・カンパニー化、アジア戦略の本格稼働、リーグ構造改革、この5点において方向性が同じであることが確認できました。

 以上からワーキング・グループとしては、島田さんがチェアマン後任候補として申し分ないと考えましたけれども、他方で島田さんは様々な活動を行っておられ、チェアマンの業務に専念できるのか? という点において懸念がございました。そこでワーキング・グループは島田さんの兼職状況についてもヒアリングを実施いたしまして、名目的なものであって島田さんのリソースをあまり割かなくてよいもの以外は、基本的に兼職を解消してもらうことを条件とさせていただきました。

 特にバスケットボール関連の兼職については、利益相反の懸念が残りますので解消していただくこととし、その旨の確約をいただくことができました。千葉ジェッツの代表取締役会長というポジションについては解消が絶対だと思っていましたので、その点についても確認させていただきましたけども、6月30日をもって退任されるということを得ましたので、ワーキング・グループとしては島田さんがチェアマンの後任候補者としてふさわしいという風に判断いたしまして、大河チェアマンにその旨を答申させていただきました」

 島田氏が以前Bリーグ副理事長に就任した際、利益相反の懸念を理由に問題視する声が多々あったのは事実。一部報道で後任チェアマン候補として名前が上がった際、別の人物で候補はいなかったのか? という思いも頭をよぎった。大河チェアマンによる辞任に至る経緯を聞いた後、野宮弁護士への“島田さん以外にバスケットボールに関係する人物の候補者はいたのですか?”という筆者の質問に対しては、次のような答えが返ってきた。

「当然、最初は外部経営者を模索していたわけですけども、バスケットボールのレギュレーションに精通していないと、ちょっとこの中では厳しいだろういうことで、方向性を変えた中で当然、バスケットボール関係者については広く検討いたしました。個別の名前を挙げることは当然できませんけども、他のクラブ関係者でも非常に優秀な経営者はいらっしゃるという風に考えましたが、現役のクラブの実行委員・社長は今正にクラブがコロナの中で経営の立て直しをしなければならないということで、そういった方々についても検討はいたしましたけれども、やはりクラブから引き抜いてしまうのはよろしくないのではと考えて、それらの方は候補から落ちていきました」

 個人的なことを言わせてもらえば、Bリーグの常務理事・事務局長から現在日本バスケットボール協会理事・東アジアバスケットボール協会理事を務める葦原一正氏は、チェアマンの候補として名前が出てもよかったのでは? と思った。しかし、ガバナンスを重視する大河チェアマンの意思を尊重し、ワーキング・グループによる選考過程を経て至った結論ということは、野宮弁護士の説明で理解できる。島田新チェアマンの正式承認は、6月10日のBリーグ臨時総会で決まる予定だ。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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